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2025年08月04日

米雇用統計(25年7月)-非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったほか、過去2ヵ月分が大幅に下方修正

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を下回った一方、失業率は市場予想に一致

8月1日、米国労働統計局(BLS)は7月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+7.3万人の増加1(前月改定値:+1.4万人)と+14.7万人から大幅に下方修正された前月を上回ったものの、市場予想の+10.4万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.2%(前月:4.1%、市場予想:4.2%)と前月から+0.1%ポイント上昇した一方、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.2%(前月:62.3%、市場予想:62.3%)とこちらは前月から▲0.1%ポイント低下し、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:非農業部門雇用者数はここ数ヵ月に雇用の伸びが大幅に鈍化したことを示す

事業所調査の非農業部門雇用者数(前月比)は7月が市場予想を下回ったほか、後述するように過去2ヵ月分が▲25.8万人の大幅な下方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは僅か+3.5万人と下方修正前に示されていた4月~6月平均の+15.0人から急減し、1ヵ月前に想定されていた状況から一変した。また、24年5月~25年4月の月間平均増加ペースの+15.0万からここ数ヵ月で雇用の伸びが大幅に鈍化したことが示された。

また、家計調査では労働参加率が3ヵ月連続で低下し22年11月以来の水準となるなど労働力供給の低下が顕著となっている。これは外国生まれの労働力人口が25年3月をピークに4ヵ月連続で減少していることにみられるように、トランプ政権による厳格な移民政策に伴う移民流入人口の減少を反映しているとみられる。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.3%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と前月を上回った一方、市場予想に一致した。

前年同月比は+3.9%(前月改定値:+3.8%、市場予想:+3.8%)と+3.7%から上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。

このようにみると、7月の雇用統計は雇用者数に関して6月の雇用統計が発表された時点で示されていた堅調な雇用増加との評価を一変させる内容だったと言えよう。また、失業率は依然として24年5月以降、4.0%~4.2%のレンジに収まっているものの、労働需要が大幅に低下する中で移民労働力の減少などに伴う労働供給の減少の上に立った危うい均衡となっている。関税政策の影響はこれから益々顕在化するとみられることから、労働市場はさらに軟調となることが予想される。

3.事業所調査の詳細:医療・社会扶助が雇用増加を牽引

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+9.6万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが加速した(図表2)。

民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+7.3万人(前月:+5.9万人)と前月から伸びが加速し、民間サービス雇用増加数の大宗を占めるなど増加を牽引した。その他の業種では小売業が+1.6万人(前月:▲1.4万人)と前月からプラスに転じたほか、運輸・倉庫が+0.4万人(前月:+0.1万人)と小幅ながら前月から伸びが加速した。また、娯楽・宿泊も+0.5万人(前月:+0.4万人)と概ね前月並みの伸びを維持した。一方、情報が▲0.2万人(前期横這い)、人材派遣業が▲0.4万人(前月:▲0.3万人)と減少したこともあり、専門・ビジネスサービスが▲1.4万人(前月:▲1.1万人)と前月から減少幅が拡大した。

財生産部門は前月比▲1.3万人(前月:▲1.3万人)と前月並みのマイナスとなった。建設業が+0.2万人(前月:+0.3万人)と前月から小幅に伸びが鈍化した一方、製造業が▲1.1万人(前月:▲1.5万人)と前月に続いてマイナスとなったもののマイナス幅が縮小した。

政府部門は前月比▲1.0万人(前月:+1.1万人)と前月からマイナスに転じた。内訳をみると、連邦政府が▲1.2万人(前月:▲0.9万人)と前月からマイナス幅が拡大したほか、州・地方政府が+0.2万人(前月:+2.0万人)と前月から伸びが大幅に鈍化した。一方、連邦政府職員はトランプ政権による削減の動きが続いており、1月以降の減少数は▲8.4万人となった。BLSは有給休暇や退職金を継続的に受け取っている職員は雇用者数として認識されるとしており、今後も連邦政府職員の減少傾向は持続する可能性が高い。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増加数(改定値)は前月が+1.4万人(改定前:+14.7万人)と▲13.3万人の大幅な修正となったほか、前々月も+1.9万人(改定前:+14.4万人)と▲12.5万人の大幅下方修正となった。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲25.8万人の大幅な下修正となった(図表3)。過去2ヵ月分の下方修正幅の大きさは20年5月(▲64.2万人)以来となった。
 
BLSの公表に先立って7月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+10.4万人(前月改定値:▲2.3万人、市場予想:+7.6万人)と▲3.3万人から上方修正された前月からプラスに転じたほか、市場予想も上回った。この結果、ADP社の統計は前月の低調な水準から伸びが加速した雇用統計と整合的な動きとなった。

7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が36.44ドル(前月:36.32ドル)となり、前月から+12セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.2時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,249.89ドル(前月:1,242.14ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は22年11月以来の水準に低下

家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で▲3.8万人(前月:▲13.0万人)とマイナス幅は縮小したものの、3ヵ月連続のマイナスとなった。内訳を見ると、失業者数が+22.1万人(前月:▲22.2万人)と前月から大幅なプラスに転じたものの、就業者数が▲26.0万人(前月:+9.3万人)と失業者数の増加を上回るマイナス幅となって労働力人口を押し下げた。非労働力人口は+23.9万人(前月:+32.9万人)とプラス幅は縮小したものの、3ヵ月連続のプラスとなった。

これらの結果、労働参加率は62.2%(前月:62.3%)と3ヵ月連続で低下し、22年11月以来の水準となった(図表5)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
一方プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は7月が83.4%(前月:83.5%)とこちらも前月から▲0.1%ポイント低下した。男女の内訳は、女性が77.7%(前月:77.7%)と前月から横這いとなった一方、男性が89.2%(前月:89.4%)と前月から▲0.2%ポイント低下して全体を押し下げた
 
失業率は24年5月以降のレンジである4.0%~4.2%に収まったものの、小数第3位までとると4.248%と後少しでレンジを超える手前であったことが分かる(前掲図表6)。
 
7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は182.6万人(前月:164.7万人)と前月から+17.9万人の増加となった。長期失業者の失業者全体に占めるシェアは24.9%(前月:23.3%)と前月から+1.6%ポイント上昇した(図表7)。一方、平均失業期間は24.1週(前月:23.0週)と前月から+1.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(168.9万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(468.4万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、7月が7.9%(前月:7.7%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.7%ポイント(前月:+3.6%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年08月04日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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