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2025年08月29日

米移民政策と労働市場への影響-トランプ政権の厳格な移民政策に伴い、外国生まれの労働力人口は大幅減少。懸念される労働供給への影響

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

トランプ大統領は2期目の政権発足直後から主に大統領令による厳格な移民政策方針を示している。また、強制送還を含む移民執行や国境管理に関する巨額の予算措置を盛り込んだ財政パッケージである「一つの大きく美しい法」(OBBBA)を7月に成立させた。

政権発足以降、南部国境からの移民流入が大幅に減少したほか、強制送還数は25年度(24年10月~25年9月)に40万人超に達するとみられる。これらの結果、外国生まれの労働力人口は25年3月のピークを▲165万人減少するなど、労働市場への影響が顕在化している。

本稿ではトランプ政権1期目の移民政策を論じた後、厳格な移民政策に伴う労働市場への影響について論じた。トランプ大統領による不法移民の強制送還は移民労働者だけでなく米国生まれの労働者の減少に繋がる。とくに、建設分野などで労働力不足が顕在化する可能性があろう。

2.トランプ政権2期目の移民政策と労働市場への影響

2.トランプ政権2期目の移民政策と労働市場への影響

(2期目の移民政策)1期目より強硬な移民政策を推進
トランプ大統領は2期目の就任初日に移民政策に関連する8件の大統領令に署名し、今後4年間の移民政策の方向性を示したほか、その後も大統領令を発出し、本稿執筆(8月29日)時点で14件の大統領令に署名した(図表2)。
(図表2)移民政策・国境管理関連の大統領令
同大統領は大統領令によってメキシコとの南部国境での不法移民問題について「侵略」と認定し、「国家非常事態」を宣言した。これに伴い、南部国境での亡命手続きの中止や難民受け入れプログラムの無期限延期、南部国境警備への軍隊の活用も決定された。

また、移民保護プロトコル1を復活させる一方、CHNV仮釈放プログラム2を撤回させたほか、一時保護ステイタス(TPS)3の対象国を縮小させた。さらに、キャッチ・アンド・リリース4方針を終了させるなど、バイデン前政権で阻止された1期目の政策の多くを復活させたほか、同前政権の寛容な移民政策の多くを撤回した。

一方、2期目に新たに導入した移民政策として、全ての外国人に対して、米国政府に指紋を登録することを義務付け、違反した場合に刑事罰の対象としたほか、移民を支援する団体への資金援助を終了することを指示した。また、米国で出生した子供に市民権を与える現在の出生地主義から、米国に不法滞在している、あるいは一時的な合法的身分の親のもとで生まれた子供を除外するように指示した。

さらに、国際麻薬カルテルや中米のギャングをテロリストに指定し、第二次世界大戦以降発動されていなかった一般的に戦時下で適用される1798年の適性外国人法を根拠に国外追放を行う方針を示した。

もっとも、出生地主義の変更に対しては民主党系の州や人権団体から多くの訴訟が提起され、軒並み連邦地裁から差し止め命令が出された。これらの動きに対して6月下旬に連邦最高裁は出生地主義変更が違憲か合憲かの判断を示さずに、連邦地裁が出した差し止め命令は原則として原告に適用され、全米一律に適用されないという判断を示し、下級裁判所の裁判官が大統領令を阻止する権限は限定と判断した。一方、連邦最高裁の判決以降にも移民の親たちとその幼児らを代表して米自由人権協会(ACLU)が提起した集団訴訟に対して、地方裁判事が大統領令の発効を一時停止するなど流動的な状況となっている。

また、適正外国人法の適用についても訴訟が提起されており、4月上旬に連邦最高裁は制限付きで適用を容認する一方、追放される人にも異議申し立ての機会を与える必要がある示すなど、玉虫色の判断を示した。実際に、4月下旬に連邦最高裁は当事者からの異議申し立てを受けて、南米ベネズエラのギャングの一員とされる人々の強制移送を一時停止するよう命じた。このため、敵性外国人法の適用による強制送還についても流動的な状況となっている。
 
1 亡命を希望する不法移民が申請手続きを行う間、従前の米国内ではなく治安が悪いメキシコに待機させることを定めた政策。
2 一定の条件を満たすことを条件に1ヵ月当たり4ヵ国合計で3万人を上限に最長2年の合法移民とするプログラム。
3 特定の国からの移民が更新を条件に最大18ヵ月間米国内で合法的に居住することを許可する制度。
4 移民裁判の手続きを待つ間、一部の移民を拘留から解放する制度。
(OBBBA)移民執行と国境管理に関する巨額な支出を計上
トランプ政権が7月4日に成立させた財政パッケージ「一つの大きく美しい法」(OBBBA)には、移民執行と国境管理に関する2029年度までの総額1,707億ドル(約25兆2,300億円)の巨額予算が盛り込まれた(図表3)。これらの予算は国土安全保障省(DHS)とその下部組織である移民・関税執行局(ICE)および税関・国境保護局(CBP)、国防総省(DOD)、司法省(DOJ)に振り分けられる。
(図表3)OBBBAに盛り込まれた移民執行と国境管理に関する歳出項目
具体的には移民執行関連では拘束した移民の収容施設の建設費用として450億ドルを計上する。これらの措置により、ICEは拘束移民の収容人数を現在の連邦刑務所システム全体の人数に匹敵する12.5万人以上に増加させる可能性があることが指摘されている。

また、不法移民の拘束や強制送還を担当するICE向けには299億ドルの予算を計上し、5年間で1万人の職員採用を目指すほか、車両の近代化を含む送還関係輸送費などに充当される。

さらに、DOJ傘下で移民裁判所システムを監督する移民審査執行局(EOIR)向けには33億ドル計上され、移民裁判官を現在の700人から800に引上げることが計画されている。もっとも、移民裁判官は増員後も大量の移民裁判を裁くのには不十分とみられている。

国境管理関連では国境の壁建設にトランプ政権1期目の3倍に当たる466億ドルが計上されているほか、50億ドルが国境警備や移民法の執行を行うCBPの施設と検問所の更新・建設に充当される。また、国境警備を支援するためにDOD向けに10億ドルが盛り込まれているほか、州に対する移民関連の国境管理支援として合計140億ドル以上も計上されている。

なお、OBBBAには難民申請やTPS申請に伴う手数料が新たに賦課されることや、従前の手数料の引き上げ5も盛り込まれた。

一方、トランプ大統領は選挙公約として年間100万人の強制送還を目標としている。米非営利団体のアメリカ移民評議会(AIC)は100万人の強制送還に伴う年間コストを880億ドルと試算6しており、29年度までの1,707億ドルは巨額ではあるものの、強制送還のコストを全てカバーすることはできない。このため、同政権は不法移民が自発的に国外退去を選択した場合に航空券の手配に加え、帰国後に1,000ドル支給することで強制送還費用の節約を目指している。
 
5 難民申請ではこれまで不要であった手数料が100ドル徴収されるほか、申請が審査中の場合に毎年100ドルが追加で徴収される。TPS申請では従前の50ドルから500ドルに10倍の費用が徴収される。
6 24年10月の試算。https://www.americanimmigrationcouncil.org/research/mass-deportation

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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