2025年03月26日

インバウンド市場の現状と展望~コスパ重視の旅行トレンドを背景に高まる日本の観光競争力

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1――世界の中でも、高い成長力を示す日本のインバウンド市場

観光庁によると、2024年の訪日外客数は3,687万人(前年比+47%)、インバウンド消費額は8.1兆円(前年比+53%)となり、いずれも過去最高を記録した。コロナ禍前(2019年)との比較では、訪日外客数が16%増、インバウンド消費額が69%増となり、日本の観光市場はコロナ禍を乗り越え、新たな成長期を迎えている(図表1)。
図表1 日本及び世界のインバウンド客数とインバウンド消費額(2014年~2024年)
一方、2024年の世界の観光市場は回復基調を維持したものの、伸び率は鈍化傾向にある。国連世界観光機関(UN Tourism)の推計によると、インバウンド客数は前年比+11%(2019年比▲1%)、インバウンド消費額は前年比+3%(同+7%)となり、コロナ禍前の水準に肩を並べたものの回復の勢いに一服感がみられる。日本と世界の伸び率(前年比、2019年比)を比較すると、インバウンド客数、一人当たり消費額、インバウンド消費額のすべての項目において、日本は世界を大きく上回っており、日本のインバウンド市場は世界の中でも高い成長力を示している(図表2)。
図表2 日本及び世界のインバウンド客数とインバウンド消費額(前年比、2019年比)
 
1 日本の1人当たりインバウンド消費額をドル換算(年間平均為替レート)すると、前年比は約▲2%、2019年比は約+12%となる。国の目標値や調査結果は全て円単位表記であり、本レポートでは円基準とした。

2――2025年の旅行消費トレンド

2――2025年の旅行消費トレンドは、「コスパを重視しつつも、消費額を惜しまない」

それでは、2025年のインバウンド市場において、どのようなトレンドが予測されるだろうか。UN Tourismが2025年1月に実施した観光分野の専門家へのアンケート調査によると、2025年の旅行消費トレンドは、「コスパを求める傾向(67%)」、「穴場の観光地を探す(37%)」、「国内・近隣への旅行増加(26%)」など、コスト意識の高い旅行スタイルが主流になると見込まれている(図表3)。また、旅行消費額については、「平均的な支出額はほぼ増えない(33%)」との意見もあるが、支出を増やすとの意見が多数を占め、その理由として、「物価上昇(43%)」、「ラグジュアリーな旅行需要(29%)」、「旅行予算の増加(19%)」「滞在期間の長期化(17%)」が挙げられている(図表4)。このように見ると、2025年は「コスパを重視しつつも、全体的な消費額を惜しまない」という旅行スタイルが1つのトレンドになりそうだ。
図表3 旅行消費のトレンド(2025年)/図表4 旅行消費額の見通しとその理由

3――世界における日本の評価。

3――世界における日本の評価。「安い物価」と「高い観光競争力」

米コンサルティング会社マーサーの「2024年世界生計費調査-都市ランキング」によると、日本の主要都市は、東京(2023年19位→2024年49位)、大阪(同93位→146位)、横浜(同115位→154位)、名古屋(同113位→161位)と、いずれの都市も順位を落とした(図表5)。円安や相対的に緩やかなインフレを背景に、日本は「物価の安い国、ニッポン」との評価が進んでいる。
図表5 「東京・大阪・横浜・名古屋」の生計費の順位 (世界137カ国・226都市を対象)
また、世界経済フォーラムが2024年5月に公表した「旅行・観光開発指数」によると、日本の観光競争力は米国、スペインに次ぐ第3位となっている。項目別では、「文化資源」や「地上輸送・港湾インフラ」、「健康と衛生」、「安心・安全」などが高い評価を受けている(図表6)。このように、世界の中で「安い物価」と「高い観光競争力」を有する日本は、「コスパ重視」の旅行トレンドと相まって、引き続き旅行先に選ばれる可能性が高い。

JTBによると2025年の訪日外客数は前年比+8.9%増加し、世界の伸び率(3%~5%)2を上回る見通しである。実際に、2025年(1~2月)は前年同期比+28%と好調なスタートを切っており、日本のインバウンド市場は昨年に続いて高い成長が期待できそうだ。
図表6 旅行・観光開発指数による日本の評価 (2024年5月)
 
2 Un Tourismによる2025年の予測値。

4――コスパ向上で魅力増す日本

4――コスパ向上で魅力増す日本、ただしオーバーツーリズムへの対応は急務

日本の観光資源は豊富で魅力が高く、引き続き世界から注目を集めている。また、近年、海外のホテルオペレーターは日本市場への進出を積極化しており、2025年は複数のハイエンドラグジュアリーブランドが初出店を予定している。政府は「観光立国推進基本計画(第4次)」(2024年3月)のなかで、観光消費額の拡大や質の向上を掲げ、観光市場を成長産業の1つに位置付けている。

もっとも、2024年のインバウンド市場の伸びは、円安から相対的に日本のサービスが安くなり、訪日客が増加したことによる影響も大きい。日本は上述の「旅行・観光開発指数」が示す通り、「持続可能な観光」の評価が低く、客数増に対するオーバーツーリズムへの対応は急務であろう3。観光インフラの整備や地域経済の活性化に期待が高まる一方、一部の地域社会では急成長がもたらす歪みや負担が限界に達しつつある。住民生活の尊重と訪日客に対するサービスの質向上の両立に向け、抜本的な対策について引き続き議論を深める必要がありそうだ。
 
3 解決策の一つとして、観光客の負担引き上げが挙げられる。2026年3月から姫路城の入場料は市民1,000円、市民以外2,500円に設定。また、2025年から富士山登山の主要4ルートで通行料4,000円の徴収が始まる予定である。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月26日「基礎研レター」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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