- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- ホテル売上高が増え投資需要は旺盛も、費用増や需要減退には注意
2023年11月06日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
国内では、観光庁によると2023年1月-8月の累計の訪日外客数は約1,519万人(2019年比▲31.4%)、8月単月では約216万人(2019年同月比▲14.4%)まで回復した。また2023年8月の宿泊旅行統計は延べ宿泊者数が2019年同月比▲1.5%となった。旅客数が回復したこと、国内外の宿泊者が2019年よりもやや長く滞在する傾向であること、円安を背景に海外旅行が避けられたこと1などが、国内延べ宿泊者数の増加に寄与したと見られる。
またオータパブリケイションズによると、2023年7月のホテル客室稼働率は全国が73.8%(2019年比▲6.5%)となった。都市別では、札幌87.0%(▲3.9%)、福岡79.2%(▲7.1%)、東京77.7%(▲8.4%)の順に高稼働率となっている(図表1)。ただし、ホテル業界ではコロナ禍で流出した人材がホテル業界に戻らず、新たな人材育成には時間を要しており、人材不足から2019年と同等の稼働率に戻すことが難しい施設が多い。
稼働率下落により低下した収益を改善するには宿泊料金を上げる必要がある。直近の宿泊料金は2019年の水準よりも高く、上昇した宿泊料金と下落した稼働率を考慮した国内ホテルの売上高は2019年の水準を上回っている。もし現在の宿泊料金の水準を維持したまま稼働率が戻れば、売上高はさらに増加するかもしれない。ホテルへの投資はますます魅力を増している。
またオータパブリケイションズによると、2023年7月のホテル客室稼働率は全国が73.8%(2019年比▲6.5%)となった。都市別では、札幌87.0%(▲3.9%)、福岡79.2%(▲7.1%)、東京77.7%(▲8.4%)の順に高稼働率となっている(図表1)。ただし、ホテル業界ではコロナ禍で流出した人材がホテル業界に戻らず、新たな人材育成には時間を要しており、人材不足から2019年と同等の稼働率に戻すことが難しい施設が多い。
稼働率下落により低下した収益を改善するには宿泊料金を上げる必要がある。直近の宿泊料金は2019年の水準よりも高く、上昇した宿泊料金と下落した稼働率を考慮した国内ホテルの売上高は2019年の水準を上回っている。もし現在の宿泊料金の水準を維持したまま稼働率が戻れば、売上高はさらに増加するかもしれない。ホテルへの投資はますます魅力を増している。
しかし、懸念がないわけではない。一つ目は建築費の高騰である。建築物価調査会によると、2023年8月のホテルの建築費指数(工事原価、2015年平均=100)は123.7となった。原材料費上昇・部材の価格改定・人件費上昇など、高騰の要因は多く、さらに上がる可能性も高い。一方、国土交通省によると2022年の宿泊業の建築着工床面積は約120万m2(前年比▲9%、2019年比▲53%)に留まった。建築棟数は2,374棟(前年比+67%、2019年比+3%)と増加したが、1棟当たりの規模は約半分となった(図表2)。建築費が高くなりがちなラグジュアリーホテルを筆頭に新規ホテル建設の収支計画が難しくなっており、実際にいくつかのプロジェクトが計画の白紙撤回や、完成後の早期売却を公表している。
二つ目は営業粗利益の内容である。最近、以前よりも朝食料金の高い施設が増えた。宿泊需要者の目に留まりやすいように、最安値として提示される素泊まり料金を安く設定しているためと考えられる。このような価格設定となるのは、稼働率低下・費用増加(人件費、水道光熱費、アメニティなどの消耗品費など)による宿泊料金の値上げに対し、宿泊客の予算は以前のままで、両者の乖離が広がっているからである。この乖離はホテルの利用料金が下がるか、宿泊需要者が予算を上げるかによって解消されるが、ホテル側が宿泊料金を下げることは難しく、宿泊料金が上がり続けると宿泊客数や宿泊日数が減ったり、より安価なホテルを選択する等、全体として宿泊需要が収縮することが懸念される。
世界的な金利上昇や経済不安から、アジア太平洋地域でも、不動産への投資は減少が続いているが、高い収益が期待できる日本のホテルへの投資は旺盛だ2。建築費や運営費が上昇する一方で、円安などによる海外旅行客の需要創出という影響もある。このように、投資家にとって日本国内のホテルへの投資は、難しい判断となるが、ホテルへの投資は現状でも十分魅力があると考えられ、国内外の宿泊客のニーズに合致する好立地・高機能のホテルを選択することが投資家にとってより重要になると思われる。
1 2023年8月の日本人出国者数は約120万人、2019年同月比で▲43.1%に留まった。
2 MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、2023年上半期のアジア太平洋地域への不動産投資全体は約737億ドル(約11兆円、前年同期比▲39.5%)と減速したが、日本のホテルへの投資額は約2,775億円(+46.2%)となった。なお、投資額は開発用地以外の1,000万ドル(約15億円)以上の不動産取引。
世界的な金利上昇や経済不安から、アジア太平洋地域でも、不動産への投資は減少が続いているが、高い収益が期待できる日本のホテルへの投資は旺盛だ2。建築費や運営費が上昇する一方で、円安などによる海外旅行客の需要創出という影響もある。このように、投資家にとって日本国内のホテルへの投資は、難しい判断となるが、ホテルへの投資は現状でも十分魅力があると考えられ、国内外の宿泊客のニーズに合致する好立地・高機能のホテルを選択することが投資家にとってより重要になると思われる。
1 2023年8月の日本人出国者数は約120万人、2019年同月比で▲43.1%に留まった。
2 MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、2023年上半期のアジア太平洋地域への不動産投資全体は約737億ドル(約11兆円、前年同期比▲39.5%)と減速したが、日本のホテルへの投資額は約2,775億円(+46.2%)となった。なお、投資額は開発用地以外の1,000万ドル(約15億円)以上の不動産取引。
(2023年11月06日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1853
経歴
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
渡邊 布味子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/03 | インバウンド需要とインバウンド投資が牽引する国内ホテル市場 | 渡邊 布味子 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/26 | インバウンド市場の現状と展望~コスパ重視の旅行トレンドを背景に高まる日本の観光競争力 | 渡邊 布味子 | 基礎研レター |
2025/03/19 | マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に | 渡邊 布味子 | 基礎研レター |
2025/02/26 | 不動産投資市場動向(2024年)~グローバルプレゼンスが向上する日本市場。2024年の取引額は世界金融危機後の最高額に | 渡邊 布味子 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【ホテル売上高が増え投資需要は旺盛も、費用増や需要減退には注意】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ホテル売上高が増え投資需要は旺盛も、費用増や需要減退には注意のレポート Topへ