- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- なぜホテルへの不動産投資は増えにくいのか
2023年04月05日
昨今、内外の投資資金が、国内の様々な不動産に投資されている。なかでもホテルは、投資需要の多い不動産用途の一つだ。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2022年の延べ宿泊者数1は、2019年比で全体が▲23.8%、日本人延べ宿泊者数は▲9.0%まで回復した。外国人延べ宿泊者数は▲85.5%であったが今後は客数の回復が期待できる。ホテルに特化したデータベンダーのSTRによると、全国のRevPER2は既に2019年の水準を超えた。今後もホテルの収益は向上していく見通しである。
投資需要の高まりに加え、コロナ禍で大打撃を受けたホテルの売買取引が増えてもおかしくない。実際に、2008年の世界金融危機の後では、数多くのオフィスビルやオフィス開発用地等が投げ売りされていた。しかし、MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、取引単価は変わらないにもかかわらず、国内の不動産売買総額に占めるホテルの売買額の割合は、2019年が10%に対して2021年も2022年も8%と、むしろ減少している。これにはホテル特有の運営形態が関係している。
ホテルは所有・経営・運営の状況に応じ、「直営」「賃貸借」「運営委託(マネジメント・コントラクト、MC)」「フランチャイズ(FC)」に大別できる。「直営」は、ホテルの経営会社が土地建物を所有し、自身のブランドで運営する方式である。「賃貸借」とは宿泊施設の経営会社が所有者から土地建物を借りて経営を行う方式である。「運営委託」とは、土地建物の所有者または賃借人が、運営会社に運営を委託する方式である。「フランチャイズ」とは、チェーン展開するビジネスホテルに多く、コンビニエンスストアなどでも用いられている方式である。加入者はブランド使用権と本部からの送客を得られる一方、本部に加盟料などのロイヤリティを支払う必要がある(図表1)。なお、このうち不動産投資と関係が深いのはオーナー以外が運営者となる「賃貸借」と「運営委託」である。
投資需要の高まりに加え、コロナ禍で大打撃を受けたホテルの売買取引が増えてもおかしくない。実際に、2008年の世界金融危機の後では、数多くのオフィスビルやオフィス開発用地等が投げ売りされていた。しかし、MSCIリアル・キャピタル・アナリティクスによると、取引単価は変わらないにもかかわらず、国内の不動産売買総額に占めるホテルの売買額の割合は、2019年が10%に対して2021年も2022年も8%と、むしろ減少している。これにはホテル特有の運営形態が関係している。
ホテルは所有・経営・運営の状況に応じ、「直営」「賃貸借」「運営委託(マネジメント・コントラクト、MC)」「フランチャイズ(FC)」に大別できる。「直営」は、ホテルの経営会社が土地建物を所有し、自身のブランドで運営する方式である。「賃貸借」とは宿泊施設の経営会社が所有者から土地建物を借りて経営を行う方式である。「運営委託」とは、土地建物の所有者または賃借人が、運営会社に運営を委託する方式である。「フランチャイズ」とは、チェーン展開するビジネスホテルに多く、コンビニエンスストアなどでも用いられている方式である。加入者はブランド使用権と本部からの送客を得られる一方、本部に加盟料などのロイヤリティを支払う必要がある(図表1)。なお、このうち不動産投資と関係が深いのはオーナー以外が運営者となる「賃貸借」と「運営委託」である。
ホテルの取引額が不動産売買総額に含まれるのは、所有権が移転した場合、すなわち(1)「直営」方式で土地建物を売却した場合か、(2)「賃借権」・(3)「運営委託」・(4)「フランチャイズ」方式でオーナーが土地建物を売却した場合である。しかし、ホテルの収益性改善について主導権を持つのはホテルの経営者であり、経営権を残すとすると、売却による資金調達はオーナーが経営者の場合にしか活用できない。つまり、運営方式の切り替え、委託先や提携先の変更など物件の売却以外の方法が選択されることも多い。例えば、賃貸借でホテルを運営する経営者が、フランチャイズ契約を締結して、別のホテルグループに帰属することである。経営者はロイヤリティを支払う必要があるが、集客力強化により今後の収益性の改善が期待できる。
2023年初めの国内のホテルブランド別の客室数上位15チェーンでは、1位のアパホテルズ・アンド・リゾーツは2021年初めに前年比+19.6%、2022年初めに前年比+10.3%と客室数の増加が続き、2023年初めには10万室を超えた。また、9位のマイステイズ・ホテルマネジメントが2022年初めに前年比+23.1%と、8位マリオット・インターナショナルが2021年初めに前年比+21.8%と大きく客室数を増加させた(図表2)。
2023年初めの国内のホテルブランド別の客室数上位15チェーンでは、1位のアパホテルズ・アンド・リゾーツは2021年初めに前年比+19.6%、2022年初めに前年比+10.3%と客室数の増加が続き、2023年初めには10万室を超えた。また、9位のマイステイズ・ホテルマネジメントが2022年初めに前年比+23.1%と、8位マリオット・インターナショナルが2021年初めに前年比+21.8%と大きく客室数を増加させた(図表2)。
運営方式の切り替え需要に対応できるのはホテルオペレーターだけであり、投資資金があるだけでは難しい。実は、売買以外の方法で、コロナ禍の間にホテルグループの再編は既に進んでおり、それが現在のホテルへの投資機会をより希少なものにしている。もし今後有望なホテルに投資したいなら、新規開発やJ-REITへの投資も検討する必要があるように思われる。
1 各日の全宿泊者数を足し合わせた数で、子供や乳幼児も1人とする。10人が3泊した場合は30人泊となる。
2 Revenue Per Available Roomの略で、宿泊料金に稼働率を反映した1室あたりの売上を示す。ホテルの収益性を表す指標の一つである。
1 各日の全宿泊者数を足し合わせた数で、子供や乳幼児も1人とする。10人が3泊した場合は30人泊となる。
2 Revenue Per Available Roomの略で、宿泊料金に稼働率を反映した1室あたりの売上を示す。ホテルの収益性を表す指標の一つである。
(2023年04月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1853
経歴
- 【職歴】
2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
2006年 総合不動産会社に入社
2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員
渡邊 布味子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/10/31 | 首都圏新築マンション市場の動向(2024年9月)~マンション発売戸数は今後も低水準にとどまる見通し | 渡邊 布味子 | 不動産投資レポート |
2024/09/11 | 不動産投資市場動向(2024年上半期)~外資の取得額が減少するも、全体では高水準を維持 | 渡邊 布味子 | 不動産投資レポート |
2024/09/06 | 東京オフィス市場は賃料の底打ちが明確に。物流市場は空室率高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第2四半期 | 渡邊 布味子 | 基礎研マンスリー |
2024/08/09 | 東京オフィス市場は賃料の底打ちが明確に。物流市場は空室率高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第2四半期 | 渡邊 布味子 | 不動産投資レポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月03日
AI事業者ガイドライン-総務省・経済産業省のガイドライン -
2024年12月03日
日米貿易交渉の課題-第一次トランプ政権時代の教訓 -
2024年12月03日
今週のレポート・コラムまとめ【11/26-12/2発行分】 -
2024年12月02日
2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献 (後編)-2025年度の見通しと注目点 -
2024年12月02日
2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献 (前編)-年金額改定の仕組み
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【なぜホテルへの不動産投資は増えにくいのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
なぜホテルへの不動産投資は増えにくいのかのレポート Topへ