2023年10月02日

宿泊旅行統計調査2023年8月~外国人宿泊者数がコロナ禍前を2ヵ月連続で上回る。(参考:水際対策と外国人宿泊者数の推移)~

経済研究部 研究員 安田 拓斗

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1.外国人延べ宿泊者数が2ヵ月連続でコロナ禍前を上回る

観光庁が9月29日に発表した宿泊旅行統計調査によると、2023年8月の延べ宿泊者数は6,227万人泊(7月:5,254万人泊)となった。前年同月比は32.9%(7月:同31.9%)、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年同月比でみると、▲1.5%(7月:同1.5%)と、2ヵ月ぶりにコロナ禍前の水準を下回った。

2023年8月の日本人延べ宿泊者数は5,193万人泊(7月:4,173万人泊)となり、2019年同月比は▲3.4%(7月:同1.8%)と2ヵ月ぶりにマイナスに転じ、全体を押し下げた。

2023年8月の外国人延べ宿泊者数は1,034万人泊(7月:1,081万人泊)となり、2019年同月比は9.0%(7月:同0.1%)と2ヵ月連続でコロナ禍前の水準を上回った。外国人延べ宿泊者数は2022年10月の水際対策緩和以降、回復傾向にある。水際対策はすでに撤廃されており、外国人延べ宿泊者数は引き続き回復することが予想される。

2023年8月の客室稼働率は全体で62.7%(7月:同58.1%)、2019年同月差▲6.7%(7月:同▲5.2%)と、マイナス幅が拡大した。

宿泊施設タイプ別客室稼働率をみると、旅館は44.0%、2019年同月差▲6.4%(7月:同▲1.4%)、リゾートホテルは59.6%、2019年同月差▲11.3%(7月:同▲5.5%)、ビジネスホテルは73.5%、2019年同月差▲6.1%(7月:同▲6.7%)、シティホテルは71.7%、2019年同月差▲11.3%(7月:同▲11.5%)、簡易宿所は33.1%、2019年同月差▲11.9%(7月:同▲8.3%)であった。2019年同月差では、ビジネスホテル、シティホテルでマイナス幅が縮小、旅館、リゾートホテル、簡易宿所でマイナス幅が拡大した。
延べ宿泊者数の推移(2019年同月比)/客室稼働率の推移

2.物価高が向かい風に

10月以降も全国旅行支援を継続する自治体 日本人延べ宿泊者数は全国旅行支援が開始された2022年10月以降、堅調に推移している。全国旅行支援は2023年1月10日以降、割引率を20%、割引上限額を交通付宿泊旅行の場合は一泊5,000円、それ以外の場合は3,000円、クーポン券は平日2,000円、休日1,000円として運営されてきた。
全国旅行支援の概要 現時点(9月29日)で、15県のみが10月以降も全国旅行支援を継続する。そのうちの多くでは、貸切バスを利用した団体旅行のみが対象となっており、個人旅行は除外されている。さらに物価高が向かい風となり、日本人延べ宿泊者数が減少する可能性がある。しかし、基調として日本人の旅行需要は回復しているため、日本人延べ宿泊者数がコロナ禍前と比較して大きく落ち込む可能性は低いだろう。

3.外国人宿泊者数は回復基調を継続

外国人宿泊者数のうち、国別が分かる従業者数10以上の施設でみると、2023年8月の中国人延べ宿泊者数は2019年比▲45.3%(7月:同▲57.9%)と香港(同9.7)、台湾(同8.6%)、アメリカ(同49.9%)、イギリス(同30.4%)など他の国・地域と比較すると回復が遅い。中国が8月10日に日本への団体旅行を解禁したことで、中国人延べ宿泊者数の回復が期待されたが、その直後、処理水放出によって反日感情が高まり、日本への旅行を中止する動きによって回復スピードが鈍化したままとなっている。

一方、外国人延べ宿泊者数(従業者数10人以上の施設)の2019年比は2023年8月には全体が0.8%(7月:同▲8.6%)とプラスに転じ、中国を除いた全体が同29.9%(7月:同17.9%)と4ヵ月連続でコロナ禍前を上回った。中国人延べ宿泊者数がコロナ禍前の半分程度の水準であるにもかかわらず、外国人延べ宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回っている。
中国人宿泊者数の回復は遅れる公算が大きいが、足元の円安が追い風となり、今後も外国人宿泊者数は回復基調を継続するだろう。
国籍別外国人延べ宿泊者数/中国を除いた外国人延べ宿泊者数

(参考)水際対策と外国人宿泊者数

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2020年2月に日本は水際対策を実施し始めた。初めは中国の一部地域からの入国を制限するのみにとどまっていたが、感染が世界に広がり始めたことで入国制限の対象となる国・地域が拡大されていった。日本の水際対策に伴い、外国人宿泊者数は減少し、緊急事態宣言が発令された2020年4月にはほとんど消失した。

2021年1月にはすべての入国者に対して、出国前検査および入国時検査での陰性を求める措置が取られた。また入国後、滞在していた国や地域によっては待機が求められるなど厳しい水際対策が実施された。

2021年10月には、ワクチン接種完了者は待機期間の短縮もしくは待機免除といった措置が取られ始めたが、依然として厳しい水際対策のため外国人宿泊者数はほとんど回復しなかった。

外国人宿泊者数が急回復を始めたのは、水際対策が大幅に緩和された2022年10月からである。個人旅行の解禁、一日当たりの入国者数の上限の撤廃、短期ビザ免除の再開など、水際対策が大幅に緩和され、ワクチン接種が完了していれば、検査・待機なしで入国できるようになった。

2022年の年末にはゼロコロナ政策を撤廃した中国で感染者が急増したことで、中国からの入国者に対して入国規制を強化した。これにより外国人宿泊者数の回復速度が鈍化したが、2023年3月にはそれを緩和し、4月には他の国・地域からの入国と同等の措置となったことで再び加速した。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類へ引き下げられる直前の2023年4月29日に水際対策は撤廃され、全ての入国者はコロナ禍前と同じように日本に入国できるようになった。足元の2023年8月には外国人延べ宿泊者数は2ヵ月連続でコロナ禍前の水準を上回っている。
水際対策と外国人宿泊者数の推移
 
 

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安田 拓斗 (やすだ たくと)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2021年4月  日本生命保険相互会社入社
     2021年11月 ニッセイ基礎研究所へ

(2023年10月02日「経済・金融フラッシュ」)

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