2023年08月09日

訪日外国人消費の動向-円安で消費額はコロナ禍前の95%、インバウンドもモノからコトへ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

■要旨
 
  • 2023年6月の訪日外客数(2,073,300人:推計値)はコロナ禍前の約7割まで回復している。国籍・地域別には2023年1-6月の最多は韓国(29.2%)で、次いで台湾(16.5%)、米国(9.1%)が続く。中国(5.6%)はコロナ禍前は約3割を占めて最多だったが、日本旅行商品の販売中止措置といった中国政府による規制の影響で回復が途上である。一方、米国は円安による日本旅行の割安感などからコロナ禍前を上回っている。
     
  • 訪日外国人旅行消費額(2023年4-6月は1兆2,052億円:1次速報値)はコロナ禍前の95.1%まで回復し、1人当たりの消費額が伸びている。背景には、円安による割安感によって日本での滞在日数が伸びていること(平均泊数は2019年4-6月:8.0日→2023年4-6月:10.0日)や日本国内の消費者物価の上昇などの影響があげられる。
     
  • 国籍・地域別には2023年4-6月で最多は台湾と米国(いずれも14.4%、ただし金額は台湾が若干多い)で、次いで中国(12.6%)、韓国(11.9%)と続く。訪日外客数が多いほど消費額が多いが、米国は観光・レジャー目的の平均泊数の長さ(10.9日)、中国は「爆買い」による旺盛な消費意欲など、滞在日数や購買意欲の違いの影響も大きい。
     
  • 消費額の内訳を見ると、インバウンド消費も日本国内の消費動向と同様、モノからコトへの移行が強まっている。中国人の「爆買い」は2015年がピークで(内訳に占める「買い物代」は35.2%)、足元では「宿泊費」や「飲食費」などのコト消費が7割を超える。なお、東南アジア諸国ではモノ消費、欧米諸国ではコト消費が多い傾向がある。
     
  • インバウンド消費を増やすためには「娯楽サービス」(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)に注目すべきだ。滞在日数が伸び、リピーターも増えれば、充実した時間の過ごすための付加価値の高いサービス需要が強まるだろう。特にナイトタイムエコノミーや富裕層向けサービスには大きな伸長の余地がある。新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にもつながる。


■目次

1――はじめに~期待されるインバウンド消費の本格再開
2――訪日外客数
 ~コロナ禍前の7割へ回復、中国は途上、米国やシンガポールは円安でコロナ禍前超過
  1|全体の状況
   ~2022年下期から回復傾向、2023年6月はコロナ禍前の7割へ回復
  2|国籍・地域別の状況
   ~中国は規制で回復途上、米国やシンガポールは円安でコロナ禍前超過
3――訪日外国人旅行消費額
 ~コロナ禍前の95%へ回復、円安や物価高、購買意欲などが影響
  1|全体の状況
   ~2023年4-6月はコロナ禍前の95%へ回復、円安や物価高などで1人当たり消費額増加
  2|国・地域別の状況
   ~台湾と米国が首位、訪日外客数や滞在日数、購買意欲などが影響
4――訪日外国人旅行消費額の内訳
 ~インバウンドもモノからコトへ、「爆買い」ピークは2015年
  1|全体の状況
   ~インバウンド消費もモノからコトへ、コト消費は足元で75%
  2|中国人訪日客の状況
   ~「爆買い」のピークは2015年、本格再開でモノ消費の揺り戻し?
  3|国籍・地域による特徴
   ~東南アジアはモノ消費、欧米諸国はコト消費が旺盛
5――おわりに
 ~ナイトタイムエコノミーや高付加価値サービスに期待、日本人の消費市場の発展にも
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【訪日外国人消費の動向-円安で消費額はコロナ禍前の95%、インバウンドもモノからコトへ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

訪日外国人消費の動向-円安で消費額はコロナ禍前の95%、インバウンドもモノからコトへのレポート Topへ