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産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――クラスターを通じた脱炭素化
(1) クラスターレベルで共通のビジョンを策定
クラスター内に強固な基盤を構築する。これには意思決定を推進するためのガバナンス、クラスターと公共機関(政府、自治体)の協働、クラスターレベルでのデジタルコア(IT基盤)の構築が含まれる。
(2) クラスターレベルのクリーンエネルギーイニシアティブの拡大を促進
重工業、運輸、物流といったクリーンエネルギーのバリューチェーン全体にわたる関係者間の協働を強化して、グリーンプレミアム9を管理し、安定的で成長する需要を促進する。
9 温室効果ガスの排出を抑制するなど、環境に配慮した製品やサービスを選択することによって発生する追加費用のこと。
(3) クラスターと地域間の協働を強化
多極化する世界において、クリーンエネルギー輸送を促進するために、産業界、政府、その他の組織間のグローバルネットワークを構築する。
こうした3つの解決策が適用される事業分野については、次のように図示されている。(1)でクラスターを構築、(2)でクラスターを活用して効果的に事業を展開、(3)でクラスターと地域との協働を強化するといった推進の姿が示されている。
クラスターを通じた脱炭素化の取り組みとして、3つの事例を見ていくことにしよう。
(1) トランゼロ・イニシアティブ
スウェーデンのヨーテボリの港湾におけるクリーンエネルギー需要の集約事例。主要メンバーは、欧州最大のフェリー会社の1つであるStena Line、スウェーデンのヨーテボリ港、世界有数の輸送提供会社ボルボ・グループとスカニアとなっている。ヨーテボリ港を通過する年間100万台のトラック輸送の脱炭素化に焦点を当てて、クリーンエネルギーの需要を確立することを目的としている。具体的な成果として、EVトラックの充電インフラが整備され、港湾内およびその近くの戦略的な場所に合計14の充電ステーションが設置された。その一方で、港湾エリアのEVトラックの数は100台以上に増加した。また、2024年10月にはトラックや港湾ターミナル設備に対応するために水素ステーションがオープンした。
イギリスのイングランド北西部とウェールズ北部における炭素回収・貯留(CCS)の事例。イギリス政府は、2024年10月にCCUSプロジェクトに217億ポンド(4兆1800億円)資金援助を行うと発表しており、ハイネット・クラスターにその一部が充てられる。ハイネット・クラスターなどで、2030年までに年間2000~3000万トンのCO2を貯留し、2030年以降は年間約1000万トンのCO2を削減するとのイギリスの目標に貢献するとしている。ハイネット・クラスターは、2050年までに170億ポンド(3兆2700億円)の経済価値をもたらすと推定されている。
(3) ヒューストン-アントワープ-ブルージュ・クリーン海洋回廊
アメリカ・テキサス州のヒューストンと、ベルギーのブルージュ、アントワープを結ぶ水素供給の回廊。この回廊には、アメリカ最大規模の再生可能プラント、再生可能で低炭素の天然ガスへのアクセス、独自の専用水素パイプライン、水素貯蔵施設が含まれる。大西洋をまたいで、クリーン水素をアメリカからヨーロッパに供給する事例となっている。この回廊は、アメリカのクリーン水素輸出を支援し、輸送や産業などの部門全体で排出量を削減する。また、知識、ベストプラクティス、イノベーションの交換を促進することも目的としている。世界最大級の2つのクラスターを結び、共通の脱炭素化目標を支援することで、クリーンエネルギー貿易を推進している。
5――おわりに (私見)
日本では、川崎市のプロジェクトがクラスターとして加盟している。今後、他のプロジェクトでも、同様の動きが出現することが期待される。
世界と日本でのクラスターの動向について、引き続き、注視していくこととしたい。
(参考資料)
“Unleashing the Full Potential of Industrial Clusters: Infrastructure Solutions for Clean Energies”(World Economic Forum, White Paper, Jan 2025)
“Transitioning Industrial Clusters”(WEFウェブサイト)
“Factors driving the decarbonisation of industrial clusters: A rapid evidence
assessment of international experience”Imogen Rattle, Peter G. Taylor (Energy Research & Social Science, 105, 2023)
“Competition, and Economic Development: Local Clusters in a Global Economy”M.E. Porter (Economic Development Quarterly, Volume 14, Issue 1, pp.15–34, 2000)
“CO2 and Greenhouse Gas Emissions”(Our World in Data)
“UK Commits to £21.7 Billion to Advance Carbon Capture Projects, Aiming to Become a Global Leader in CCUS and Hydrogen”(Global CCS Institute, Oct 5, 2024 )
「かわさきグリーンイノベーションクラスターリーフレット」(川崎市)
(2025年03月25日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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