コラム
2023年11月08日

再エネのポテンシャル考-ポテンシャルを人間の潜在能力で例えると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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エネルギー工学の分野では、再生可能エネルギー(再エネ)の潜在的な量をあらわす際に、「ポテンシャル」という用語が用いられる。これは、石油や石炭で“埋蔵量”と言っていたものの延長線にあたる概念と見られる。
 
石油などの化石燃料では、原則として、いまあるものを使えば終わりとなるので埋蔵量に注目が集まる。一方、再エネの場合、名前の通り再生可能なため、1年間にどれだけのエネルギーが利用できるか、といった潜在的な量がポイントとなる。
 
ただ、このポテンシャルにはいろいろな種類があって、ややわかりにくい。そもそも日常会話で、ポテンシャルと言えば、「新入社員の〇〇さんはポテンシャルが高い」などと、人間の潜在的な能力を表す言葉として用いられている。
 
そこで今回は、再エネのポテンシャルを、人間の潜在的な能力に例えながら、見ていくことにしたい。なお、例が多少強引なケースもあるかもしれないが、その点はご容赦いただきたい。

◇ 再生可能エネルギー源は、太陽光、風力、バイオマスなど7種類が挙げられている

まず、最近メディアでよく目にする、再生可能エネルギーとはどういうものか、確認しておこう。これは、簡単に言えば、使用しても、それ以上のスピードで自然界から補充されるエネルギーということになる。つまり、エネルギーとして永続的に利用できるものだ。再エネは利用時に二酸化炭素(CO2)を出さないため、地球温暖化問題に対処するために、重要なエネルギーとなる。
 
ただし、太陽光のソーラーパネルや、風力発電の風車など、発電のための設備を作ったり、導入したりする際にはCO2を排出する。また、バイオマスでは、原料となる穀物や木を収穫したり、伐採したりするときにCO2を排出するので、少し注意が必要だ。
 
日本では、2009年に、エネルギー供給構造高度化法(正式名称は「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)が施行されている。その施行令で、再生可能エネルギー源として、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱その他の自然界に存する熱、バイオマス(動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの)の7つが挙げられている。
 
再エネのポテンシャルには、利用の可能性の点から、いくつかの種類がある。ヨーロッパでまとめられた文献によれば、理論的、地理的、技術的、経済的、市場の5つに分けられるという。(*)
 
(*) “Global Potential of Renewable Energy Sources: a Literature Assessment – Background Report”Monique Hoogwijk and Wina Graus (ECOFYS, PECSNL072975, March 2008)
 
これらのポテンシャルについて、順番に見ていこう。

◇ 理論的ポテンシャルは推定方法によって大きく異なる

まず、理論的ポテンシャル。これは、理論的に導き出されるエネルギーの総量を指す。エネルギー工学では、「賦存量」とも呼ばれる。抽出や利用にあたってのさまざまな制約をいったん横に置いて、理論的にどれだけのエネルギーが存在しうるかを推定する。ただ、どのような理論やデータに基づいて推定するかによって、その量は大きく異なってくる。
 
これを人間の能力でいえば、まだ当人が気づいていないものも含めた、すべての潜在能力ということになるだろう。例えば、ある子どもが、未就学児のうちに、100個の漢字を読み書きできるようになったとする。いま小学1年生で習う漢字の数が80個であることを踏まえると、これは未就学児としてはすごいことだと言える。だが、この子が潜在的な言語面の能力をどれだけ有しているかとなると、推定は難しい。そもそも漢字を読み書きできることが言語能力にどれほど関係しているか。習得した漢字の個数と言語能力の関係はどうみたらよいか。推定方法により、評価が大きく異なってくると思われるためだ。

◇ 地理的ポテンシャルは地理的限界を踏まえた潜在能力

次に、地理的ポテンシャル。これは、土地利用の限界を踏まえたポテンシャルだ。例えば、地熱の場合、日本は活火山が多く、世界有数の地熱大国と言われている。しかし、地熱の多くは、活火山を有する自然公園の領域内にあり、自然保全の点から開発規制が敷かれている。また、掘削にあたり温泉の活用となるため、温泉法の制限を受ける。つまり、地理的ポテンシャルは、限られてしまう。
 
また、風力発電で陸上に風車を設置しようとする場合、急傾斜地では土砂災害に見舞われる可能性があるため設置が困難となることがある。やはり、地理的ポテンシャルは、限られてしまう。
 
人間の能力でいえば、土地や地域の影響を受ける能力ということになる。例えば、「アイススケートを一度もやったことがないという沖縄の離島で暮らす小学生が、実は、ものすごいフィギュアスケートの素質を持っていた」とする。だが、沖縄では、本島にアイススケートリンクが1つあるだけで、離島で暮らす人には、日常的にアイススケートを行うことは困難だ。その結果、この小学生は、自分の素質に気づかないか、気づいたとしてもそれを開花させることは難しいだろう。(しかしもし、この小学生が何かのきっかけでアイススケートの練習環境が整った場所に移住することがあれば、国を代表するようなフィギュアスケーターになるかもしれない。)

◇ 技術的ポテンシャルは技術進歩により増大することも

続いて、技術的ポテンシャル。これは、資源をエネルギーに転換する効率まで加味して、技術的に利用可能なエネルギーの量といえる。例えば、太陽光発電でいえば、ソーラーパネルが設置できて、その発電効率をもとにエネルギーとして取り出せる電気の量ということになる。再生可能エネルギーを考える上では、基本的な量といえる。
 
人間でいえば、訓練を行う環境が整備され、その人がやる気を出して取り組めば開発できる能力だ。ピアノのレッスンを例にとると、ピアノ本体と、防音設備などの練習するための環境。レッスンをつける優秀な指導者。そして、何より当人のピアノ演奏への思い、やる気。そうした諸条件がすべて整った場合に、どれだけピアノ演奏の才能が開花するかが、技術的ポテンシャルということになる。

◇ 経済的ポテンシャルは高いコスパにつながる潜在能力

さらに続いて、経済的ポテンシャル。これは、資源をエネルギーに転換する際のコスト限界を考慮したエネルギーの量といえる。つまり、採算が合うエネルギーの量だ。現在、日本では、再生可能エネルギーの普及促進のため、政府により、固定価格買取制度(FIT制度)が設けられている。例えば、50キロワット未満の陸上風力発電の場合、1キロワット時あたりの買取価格が2023年度は15円、24年度は14円とされている。これにより、政策的にコスト限界を引き上げて、経済的ポテンシャルを大きくしていることになる。
 
これを人間でいうと、仕事に役立てることのできる能力のポテンシャルということになるだろうか。例えば、会社が受講料を支払って、ある従業員が英会話のレッスンを受けたとする。その結果、その従業員の英語がペラペラになって、海外のビジネスで活躍でき、受講料を上回る儲けを会社にもたらす。つまり、会社から見て、高いコスト・パフォーマンス(コスパ)につながる。この場合、英会話の潜在能力が、経済的ポテンシャルといえるだろう。

◇ 市場ポテンシャルは競争力のある潜在能力

最後に、市場ポテンシャル。これは、市場での競争に打ち勝つことができるエネルギーの量といえる。つまり、競合先との比較をした場合に生き残ることのできるエネルギーの量となる。その計算にあたっては、エネルギーの需要、競合技術、関連する政策などを加味する必要がある。
 
これを人間でいうと、プロのスポーツ選手があてはまるだろう。プロ野球やJリーグなどの選手で、プロとしてやっていけるだけの潜在能力ということになる。いくら、技術的や経済的なポテンシャルが大きくても、勝てなければプロとして生き残ることはできない。その意味で、市場ポテンシャルは、価値を非常に厳格にとらえた場合の潜在能力ということになるだろう。

◇ ポテンシャルをどう引き出すか

以上、再エネのさまざまなポテンシャルについて、人間の潜在的な能力を例に見ていった。
 
地球温暖化の問題を考える際、CO2排出をどのように削減するかが、大きなカギとなる。そのためには、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めていくことが不可欠といえるだろう。再エネのポテンシャルをどう引き出すかについて、現在、さまざまな工夫・取り組みが進められている。
 
気候変動問題を考える際に、そうした動きに注目して見ていくことも重要と言えるだろう。

(参考文献)
 
「図解でわかるカーボンニュートラル ~ 脱炭素を実現するクリーンエネルギーシステム~ (未来エコ実践テクノロジー)」(一般財団法人 エネルギー総合工学研究所, 2021年)
 
“Global Potential of Renewable Energy Sources: a Literature Assessment – Background Report”Monique Hoogwijk and Wina Graus (ECOFYS, PECSNL072975, March 2008)
 
「さらなる普及に至るか 地熱発電をとりまく制度変更と課題」(自然エネルギー100%プラットフォーム, ニュース, 2022年3月14日)
https://go100re.jp/2879
 
「人間の9つの能力。あなたはいくつ持ち合わせてる?」(インフォグラフィック, 2023年9月9日)
https://info-graphic.me/business/4315/
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年11月08日「研究員の眼」)

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