2025年03月25日

「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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3-2.新規供給見通し
前述の通り、「梅田地区」がオフィス面積全体の約4割、「淀屋橋・本町地区」が約3割を占める。現在、これらのエリアでは大規模開発計画が進行中である。以下では、「梅田地区」と「淀屋橋・本町地区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1)「梅田地区」
「梅田地区」では、北区梅田3丁目の「大阪中央郵便局」跡地で、日本郵便、JR西日本、大阪ターミナルビル、JTBおよび日本郵政不動産が「JPタワー大阪」(地上 39 階建て・延床面積約22.7万m2)を開発し、2024年3月に竣工した11(図表-18 ①)。このうち、オフィスは11階から27階の17フロアで、賃貸面積は約6.8万m2、基準階面積は西日本最大級の約4千m2となっている。

また、JR西日本は、JR大阪駅の混雑緩和等の観点から、高架下に西口新改札を整備した。同時に、新改札口に隣接した地上 23 階建ての複合ビル「イノゲート大阪」(延床面積約6万m2)が2024年7月に竣工した12。オフィスは9階から22階の14フロアで、オフィス賃貸面積約2.3万m2となっている(図表-18 ②)。

さらに、JR大阪駅前では、三菱地所を代表企業とする開発事業者JV9社が、うめきた2期地区開発プロジェクト「グラングリーン大阪」(地区面積約9.1ha)を開発中である(図表-18 ③)。北街区のホテル、商業施設および都市公園の一部が2024年9月に先行開業し、2027年頃までに全面開業する予定である13。このうち、オフィスは、南街区で「パークタワー」(6~27階・貸室面積約9.3万m2)と「ゲートタワー」(5~17階・約2万m2)が2024年11月に竣工した。
図表-18 「梅田地区」におけるオフィス開発
 
11 日本郵政不動産株式会社「JP TOWER OSAKA」HP
12 JR西日本ステーションシティ株式会社「イノゲート大阪」HP
13 大阪市「うめきた2期区域の先行まちびらきの概要について」(2024年9月6日)
(2)「淀屋橋・本町地区」
「淀屋橋・本町地区」では、ダイビルが中央区南久宝寺町4丁目のオフィスビル(旧「御堂筋ダイビル」)の建て替えを行い、「御堂筋ダイビル」(地上20階建て・延床面積約2.0万m2)が2024年1月に竣工した14(図表-19 ①)。また、NTT都市開発が中央区淡路町4丁目で「アーバンネット御堂筋ビル」(地上21階建て・延床面積約4.2万m2[賃貸オフィス面積約2.3万m2])を開発し、2024年2月に竣工した15(図表-19 ②)。

その後も、複数の大規模開発が計画されている。中央日本土地建物と京阪ホールディングスは、淀屋橋駅東地区の「日土地淀屋橋ビル」と「京阪御堂筋ビル」を共同で、地上31階の複合ビル「YODOYABASHI Station One(淀屋橋ステーションワン)」(延床面積約7.3万m2)に建て替えを行い、2025年5月末に竣工予定である16(図表-19 ③)。淀屋橋駅西地区では、大和ハウス工業、住友商事、関電不動産開発が、3社が所有する敷地・建物を共同化し、地上29階のオフィス主体の複合ビル(延床面積約13.2万m2)を開発中で、2025年12月に竣工予定である17(図表-19 ④)。

また、大成建設と学校法人相愛学園が、本町4丁目で、オフィス・ホテル・学校の複合施設「(仮称)本町4丁目プロジェクト」(地上 26 階建て・延床面積約4.5万m2)を開発中で、2026年7月に竣工予定である(図表-19 ⑤)。このうち、オフィスは10階から25階の16フロアで、賃貸面積は約1.4万m2となる計画である18
図表-19 「淀屋橋・本町地区」におけるオフィス開発計画
 
14 ダイビル株式会社「「御堂筋ダイビル」竣工のお知らせ」(2024年1月31日)
15 NTT都市開発株式会社「関西最高水準のウェルネスオフィス「アーバンネット御堂筋ビル」竣工~2024年6月中旬グランドオープン予定~」(2024年3月6日)
16 中央日本土地建物株式会社 「YODOYABASHI Station One」HP
17 淀屋橋駅西地区市街地再開発組合(大和ハウス工業株式会社、住友商事株式会社、関電不動産開発株式会社)「御堂筋・玄関口の新たなランドマークとなるオフィスビルが誕生 「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」着工」(2022年11月1日)
18 大成建設株式会社 「(仮称)本町4丁目プロジェクト」HP
(3)大阪市の新規供給予定面積
2024年は「JPタワー大阪」や「イノゲート大阪」、「グラングリーン大阪」などの大規模ビルが竣工し、新規供給量は約8.9万坪に達し、過去最大となった。

2025年も淀屋橋駅周辺等で大規模ビルが竣工し、新規供給量は約3.2万坪を予定するが、2026年以降は、新規供給が落ち着く見通しである(図表-20)。
図表-20 大阪のオフィスビル新規供給見通し
3-3.賃料見通し
前述のオフィスビルの新規供給見通しや経済予測19等を前提に、2029年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-21)。

大阪府の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。今後、大阪中心部のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。また、人材確保を目的として、従業員満足度の向上に寄与する設備のグレードアップやアメニティの充実が進むと考えられる。

大阪でも、テレワークを取り入れたハイブリッドワークが広がりつつある。テレワークへの対応や、従業員間のコミュニケーション促進を目指したオフィス環境の整備が進むと考えられる。働き方の多様化を進むなか、「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」等のサードプレイスオフィス市場の拡大も期待される。

また、万博の経済波及効果は約2.9兆円と試算され、オフィス需要に対してもプラスの効果が見込まれる。ただし、想定よりも、工期に遅れが生じる、あるいは来場者が大幅に下回る場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向に注視が必要である。

以上の状況を踏まえると、都心部のオフィス需要は概ね底堅く推移すると見通しである。

一方、新規供給について、2025年は淀屋橋駅周辺等で大規模ビルが竣工するが、2026年以降、新規供給は落ち着く見通しである。以上を鑑みると、今後、大阪の空室率はほぼ横ばいで推移すると予想する。

このため、大阪のオフィス成約賃料は、安定的な需給環境のもと上昇基調で推移する見通しである。2024年の賃料を100とした場合、2025年の賃料は「101」、2026年の賃料は「103」、2029年は「107」に上昇すると予想する。
図表-21 大阪のオフィス賃料見通し
 
19 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2024~2034年度)」(2024年10月11日)、などを基に設定。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月25日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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