2025年03月17日

アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(2)~倉庫管理システムと冷蔵・冷凍機能を拡充。地震対策・電源確保と自動化が一層進む。従業員の健康配慮を重視。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(3)利用施設の環境配慮・省エネ型設備
「標準的に導入している環境配慮・省エネ型設備の設備」について、荷主企業、物流企業ともに、「LED照明」(荷主企業85%・物流企業82%)が最も多く、次いで「外壁・屋根断熱」(同52%・54%)が多かった(図表-8)。

エネルギー効率の良いLED照明は、24時間稼働の物流施設等では、消費電力・コストやCO2の大幅な削減効果7ができることから、多くの施設で導入されている。また、施設内の温度上昇および低下を抑える「外壁・屋根断熱」も導入が進んでいる。

また、「今後、強化・拡充したい環境配慮・省エネ型設備」について荷主企業に質問したところ、「LED照明」(52%)が最も多く、次いで「庫内空調管理システム」(50%)が多かった。物流企業では、「庫内空調管理システム」(68%)が最も多く、次いで「屋上太陽光発電システム」(47%)が多かった。

施設内の温度管理により省エネを実現する「庫内空調管理システム」は、施設内の労働環境の改善にも寄与することから、導入に積極的な企業が多いものと思われる。
図表-8  利用施設の環境配慮・省エネ型設備
 
7 大和ハウス工業HP「ディーズ スマート ロジスティクス」によれば、蛍光灯と比較して、LED照明によるCO2削減量は約45%、ランニングコスト削減量は約45%。

5.物流施設に関わるコスト(許容できる支払い賃料水準)

5.物流施設に関わるコスト(許容できる支払い賃料水準)

「許容できる支払い賃料の水準」について荷主企業に質問したところ、「東京湾岸エリア」、「外環道エリア」、「16号線沿線エリア」、「圏央道エリア」では「4,000円以上5,000円未満」が最も多く、それ以外のエリアでは、「3,000円以上4,000円未満」が最も多かった(図表-9)。

物流企業では、「東京湾岸エリア」、「外環道エリア」、「16号線沿線エリア」では「4,000円以上5,000円未満」が最も多く、それ以外のエリアでは、「3,000円以上4,000円未満」が最も多かった。また、物流企業は、荷主企業と比べて、「6,000円以上」との回答割合が多かった。好立地、高機能な物流施設に対して、相応の賃料負担を許容する意向であることが回答結果に反映していると考えられる。
図表-9 許容できる支払い賃料の水準 ※ 単位は円/月・坪(共益費込み) 

6.企業の物流施設利用の方向性

6.企業の物流施設利用の方向性

本レポートでは、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で実施したアンケート調査の一部を紹介し、物流施設利用の現状と方向性について概観した。

物流施設のスペック(施設仕様)に関して、(1)BCP対応、(2)多頻度郵送への対応(トラックバースの数)、(3)一定水準以上の床荷重および天井高、(4)従業員の健康配慮(空調施設)を重視している。

物流施設の機能では、集配送機能と保管(ドライ)機能が中心であるが、WMS(倉庫管理システム)を拡充し、一連の庫内作業を効率化したい企業の意向がうかがえる。また、冷凍食品市場の拡大等に伴い、冷蔵・冷凍機能を拡充したい企業が増えていると考えられる。

施設の災害対策に関して、建物の地震対策および災害時の電源確保は、特に重視されている模様だ。また、施設の自動化について、荷主企業は、搬送・棚卸・ピッキング・荷上げの工程を、物流企業は、棚移動・ピッキング・仕分けの工程について、拡充したい意向が強い。

環境配慮・省エネ対策に関して、荷主企業、物流企業ともに、LED照明と外壁・屋根断熱の導入が進んでいる。庫内空調管理システムは、施設内の労働環境の改善にも寄与することから、導入に積極的な企業が多い。

また、物流施設に関わるコストについて、物流企業は、好立地、高機能な物流施設に対して、相応の賃料負担を許容する意向がうかがえた。

7.結びに

7.結びに

本稿では、4回にわたり、本調査結果をもとに、企業の物流戦略の現状と課題を確認した上、物流施設利用の現状と方向性について考察した。

企業は、「2024年問題」で顕在化した人手不足および輸送コスト高騰等への対策に着手するも、まだ十分でないと認識している。今後、長期的なビジョンを持って、商慣行の是正や共同配送、パレット等の規格統一、物流DX等を推進し、対策に本格的に取り組むことが求められている(図表-10)。

こうしたなか、物流効率化・BCP・施設老朽化への対応と相まって、物流施設の見直しが進むと考えられる。本調査によれば、見直しに伴い利用面積を増加する企業が多く、賃貸施設の利用が進み、地方都市で拡張意欲が高まっている模様だ。以上を鑑みると、物流施設需要は引き続き堅調に推移すると見込まれる。

一方、物流施設に求める機能や設備は高度化している。企業は、庫内作業を効率化するWMS(倉庫管理システム)と冷蔵・冷凍機能を拡充したい意向が強い。また、BCP対応(地震対策・電源確保等)と従業員の健康配慮に対応した施設を求めている。物流施設の自動化についても本格的に取組みが進展することが見込まれる(図表-11)。

日本ロジスティクスフィールド総合研究所によれば、大型物流施設の新規供給面積は、2025年に700万㎡、2026年に約600万㎡と高水準で推移する見通しである。施設選択の幅が広がるなか、施設仕様や設備等により、需給格差が拡大する可能性があり、注視が必要であろう。
図表-10  企業の物流戦略に関する回答結果
図表-11  企業の物流施設利用に関する回答結果

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月17日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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