2025年03月17日

アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(2)~倉庫管理システムと冷蔵・冷凍機能を拡充。地震対策・電源確保と自動化が一層進む。従業員の健康配慮を重視。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1.はじめに

昨今、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられている状況を踏まえ、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した1

前3回のレポート2では、本調査結果の一部を紹介し、企業の物流戦略の現状と課題や、物流施設の所有形態や、エリア別にみた物流施設の利用状況等について概観した。

本レポートでは、前回に続いて、本調査結果の一部を紹介し、物流施設に求める施設仕様や、利用施設が備えている機能や設備の状況(災害対策設備、自動倉庫関連、環境配慮・省エネ型設備)を概観した上で、物流不動産市場への影響等について考察したい。
 
1 アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期;2024年7月~9月  ・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
「ニッセイ基礎研究所と三菱地所リアルエステートサービスによる物流に関する共同アンケート調査
「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーの確保が喫緊の課題。
~物流施設の選択では、BCP対応や従業員の健康配慮等を重視。地方都市で拡張意欲が高い~
2 吉田資『アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)~「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーおよび倉庫内作業人員の確保が課題に~』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024 年12月19日
吉田資『アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(2)~商慣行見直しやドライバー負荷軽減、共同配送、標準化、物流DXを推進する長期ビジョン・中期計画策定の社会的要請高まる』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025 年1月15日
吉田資『アンケート調査から読み解く物流施設利用の現状と方向性(1)~物流効率化・BCP・施設老朽化対応で、利用面積を見直し。賃貸施設利用が進み、地方都市で拡張意欲が高まる。』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025 年2月20日

2.物流施設に求めるスペック(施設仕様)

2.物流施設に求めるスペック(施設仕様)

まず、荷主企業および物流企業が、物流施設に求めているスペック(施設仕様)について概観する。物流施設のスペックについて荷主企業に質問したところ、「重視」(「とても重視している」と「重視している」の合計)が6割を超えた施設仕様は、「BCP対応(免震等の構造)」(81%)、「BCP対応(非常用発電機等の設備)」(75%)、「トラックバースの多さ」(75%)、「空調設備の充実」(73%)「1.5t/m2以上の床荷重」(65%)、「5.5m以上の梁下有効天井高」(65%)であった(図表-1)。

多くの企業が自然災害等への対策を重視している。また、多頻度輸送への対応から、トラックバースの数も重視している。多くの荷役運搬機械を設置する施設も増えており、一定水準以上の床荷重および天井高が求められている。施設内で働く従業員の健康配慮から空調設備も重視している模様だ。

また、物流企業で「重視」との回答が6割をこえた施設仕様は、荷主企業で挙がった項目に加えて、「10m以上の柱スパン」(65%)と「環境対応(太陽光発電等の設備)」(61%)であった(図表-1)。荷主の様々な配送ニーズに対応するため、物流施設内のレイアウトを自由に変更できるように、一定程度の広さ(柱スパン)を求めているようだ。また、前述の「物流業務における課題」に尋ねた質問でも、「環境配慮の取組」との回答は上位にあがっており、太陽光発電等の設備へのニーズは高い模様だ。
図表-1  物流施設にもとめるスペック(施設仕様) 

3.物流施設の機能

3.物流施設の機能

物流業務の高度化が進むなか、物流施設が果たす役割・機能は保管機能を超えて、多岐にわたりつつある。そこで、本章では、物流施設の機能を概観する。

「利用施設の標準的な機能」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに、「集配送機能」(荷主企業70%・物流企業62%)が最も多く、次いで「保管(ドライ機能)」(同58%・57%)が多かった(図表-2)。

また、「事務・サービス機能」との回答も上位にあがった(荷主企業53%・物流企業50%)。近年、開発された大規模物流施設は、オフィスフロアを併設する事例が増えている。インターネット通販の貨物を扱う施設のなかには、撮影スタジオ等を併設しているケースもある。2017年に実施されたアンケート3によれば、事務・サービス機能が利用施設の標準的な機能であるとの回答は3割未満であった。業務効率化等の目的から物流拠点にオフィスを併設する企業が増加しているようだ。

「今後、強化・拡充したい機能」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに、「倉庫管理システム機能(WMS)」(荷主企業55%・物流企業43%)が最も多かった。インターネット通販の市場拡大等を背景に、貨物の多頻度小口化が進んだことで、WMS(倉庫管理システム)を拡充し、一連の庫内作業(入出荷、検品、ピッキング、梱包、施設内の労務管理など)を効率化したい企業の意向がうかがえる。
図表-2  利用施設の機能
また、「保管(冷蔵・冷凍機能)」との回答も一定数みられた(荷主企業34%・物流企業35%)。新型コロナウイルス感染症拡大時に、外食が大幅に減少して内食が増えたこと等に伴い、冷凍食品市場の拡大が続いている。総務庁「家計調査」によれば、1世帯当たりの「冷凍調理食品」の年間支出金額は増加しており、2024年には8,233円(2019年比+42%)に達している(図表-3)。市場拡大等に伴い、冷蔵・冷凍機能を拡充したい企業が増えている模様だ。

また、冷蔵・冷凍倉庫の冷媒は、フロン類(CFC、HCFC、HFC)が多く用いられてきたが、オゾン層破壊および地球温暖化防止の観点から段階的に生産・消費量が規制されている4。自然冷媒(CO2、NH3等)への転換が求められており、今後、冷蔵・冷凍倉庫の建て替え等が進む可能性がある。
図表-3 1世帯当たりの「冷凍調理食品」の年間支出金額
 
3 三井住友トラスト基礎研究所『「物流施設の利用意向に関するアンケート調査」~調査結果~』2017 年11月14 日
4 CFCとHCFCは2020年1月で製造禁止、HFC は2036年までに段階的に製造を85%削減。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月17日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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レポート紹介

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