2024年12月24日

「地域ケア会議」はどこまで機能しているのか-多職種連携の促進に効果も、運用のマンネリ化などに懸念

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

文字サイズ

1――はじめに~「地域ケア会議」はどこまで機能しているのか~

多職種連携などを目的とする「地域ケア会議」が制度化されて概ね10年になる。これは市町村または中学校単位の地域包括支援センターが設置する会議体で、医師、看護師、介護保険サービスの調整などを担うケアマネジャー(介護支援専門員)といった医療・福祉専門職が個別事例の解決を探る役割とともに、ネットワークの構築や地域課題の発見、政策形成などの機能が期待されている。2015年制度改正で会議の設置が市町村の努力義務とされた(法改正は2014年)。

地域ケア会議の運用については、これまでに国の委託事業を含めて、手引きなどが数多く公表されており、同時期に創設された「在宅医療・介護連携推進事業」などと相俟って、多職種連携を進める効果があったと考えられる。

しかし、市町村の「実情」を見ていると、個別の課題を地域共通の課題に普遍化できない傾向などが見受けられる。その結果、会議の開催が目的化したり、運営がマンネリ化したりしている印象も否めず、現場に「会議疲れ」の雰囲気が広がっている。本稿では「地域ケア会議」の概要や制度改正の動向を取り上げるとともに、市町村の「実情」を踏まえつつ、今後の方向性を模索する。

2――地域ケア会議とは何か

2――地域ケア会議とは何か

1地域ケア会議の教科書的な説明
地域ケア会議の概要から述べる。厚生労働省の説明資料では、「高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法」と定義1されており、埼玉県和光市の事例を参考に、2015年度改正(法改正は2014年)を通じて、市町村に対して設置が努力義務とされた。

設置するのは市町村、または中学校単位で運営されている地域包括支援センターで、図表1の厚生労働省の資料に沿うと、(1)個別課題解決、(2)ネットワーク構築、(3)地域課題発見、(4)地域づくり・資源開発、(5)政策形成――が主な機能になる。
図表1:地域ケア会議に期待される5つの機能のイメージ
ただ、図表1は煩雑であり、以下ではX市Y地区に住む「要支援認定後、身体機能が落ちた80歳代男性Aさん」という事例について、5つの機能を整理する。

まず、多職種が連携しつつ、Aさんの課題解決に当たることで、(1)の「個別課題解決」と(2)の「ネットワーク構築」が図られる。ここまでの機能については、ケアマネジメントに組み込まれている「サービス担当者会議」と似ている。ここで言うサービス担当者会議とは、ケアプラン(介護サービス計画)の見直しを含めて、本人や家族を含めた参加者が支援の改善策を話し合う場である。

一方、3番目以降の「地域課題の発見」が地域ケア会議の特徴である。例えば、Aさんと近所に住む同年代の男性のBさんやCさんの事例を並べることで、「男性高齢者の外出機会が少ない」というY地区に共通する現象を明らかにしたり、「周辺に外出できる場が少ない」「歩道が狭い」といった課題を抽出したりする。言わば「点」のケースを「面」に発展させることで、個別課題を普遍化させるイメージである。あるいは「今は顕在化していないが、今後は同様のケースが増える」という将来予測を加味することもあり得る。

その上で、(4)の「地域づくり・資源開発」では高齢者の外出機会を増やすサークルをY地区で作ることなどが目指され、(5)の「政策の形成」ではY地区の取り組みをX市に広げるための提言などが想定される。

これらが有効に機能すれば、多職種によるネットワーク形成や情報交換だけでなく、住民主体の体操教室など制度サービス以外の「インフォーマルケア」の活用も含めて、個別支援に関する情報や考え方を関係者の間で共有できる2。さらに、個別課題を地域の課題に普遍化させることで、地域全体を包摂した政策形成の実現も可能になる。
 
1 2014年制定の地域医療介護確保総合推進法では、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」などと定義されている。しかし、使い方は多様であり、本稿では引用を除けば、この言葉を使わない。地域包括ケアの多義的な側面については、介護保険20年を期した拙稿コラムの第9回を参照。
2 これは「規範的統合」と呼ばれており、本来は市町村を含めた関係者の合意形成と考えられる。だが、「市町村の考えを専門職に従わせること、あるいは浸透させること」と理解されている面があり、後述する通り、一部の市町村では地域ケア会議でケアプランを点検・変更している。これが現場の専門職の反発を招いている面があり、この言葉を本稿では使わない。
2地域ケア会議が必要な理由
そもそも、地域ケア会議のような場が求められる背景として、在宅ケアの複雑性を指摘できる。病院を中心とした医療の場合、医師を中心としたヒエラルキー構造の下、早期の治療と社会復帰が目指される。分かりやすく言うと、患者が医療専門職の都合に合わせるスタイルであり、患者の生活は「医療化」される3

一方、自宅を中心とした医療・生活支援の場合、患者・利用者は自宅を中心に元の暮らしを続けており、医療・福祉専門職が患者・利用者のニーズに合わせるスタンスが求められる。

そのため、一人の専門職をトップにするヒエラルキー構造ではなく、多くの専門職が専門性と情報を持ち寄り、患者・利用者の暮らしを支えることが求められる。その際には、病気の治療だけでなく、数字で計測しにくいQOL(生活の質)の向上も目指されるため、本人や家族の納得感を含めて合意形成が重要となる。

こうした違いを分かりやすく対比させたのが図表2であり、専門職の情報共有や合意形成の舞台として、地域ケア会議は重要な存在となる。敢えて大袈裟な言葉を使うと、多様な専門性が交差することで、参加者が思わぬ視点に気付いたり、施策のヒントが生み出されたりする可能性を含んでいる点で、地域ケア会議はイノベーションの場になり得る。

さらに、市町村は現在、高齢者数の違いなど「地域の実情」に沿った介護・福祉の体制整備が求められており、個別ケースを地域の普遍的な課題に発展できる地域ケア会議は「地域の実情」を把握する重要な手段である4
図表2:病院を中心とした医療と、自宅を中心とした医療・生活支援の違い
 
3 医療化とは医療社会学の概念であり、本稿では一般的な意味として「医学で解決しなくても済む健康上の課題について、医療や医学が必要以上に介入すること」と整理する。Ivan Illich(1976)"Limits to Medicine”[金子嗣郎(1998)『脱病院化社会』晶文社]などを参照。
4 この点は医療・介護制度改革で多用されている「地域の実情」という言葉に着目した拙稿コラムの第1回でも述べた。
3|地域ケア会議の運用の一例
次に、国のマニュアルなど幾つかの資料や文献に加えて、筆者が見聞きした事例を再構成しつつ、地域ケア会議の運用を具体的に検討する。

一般的に地域ケア会議では、ケアマネジャーなどの専門職が受け持っている事例について、「要介護認定を受けて気分が塞ぎ込み、外出しにくくなっている」「何とか杖を使えば近くに買い物ぐらい行けそうだが、一人で長時間の外出は困難」「遠くに息子夫婦が住んでおり、最近は関係が切れているが、近隣住民との付き合いは細々と続いている」などと報告する。

その上で、医師や看護師、薬剤師、リハビリテーション職、管理栄養士、ケアマネジャー、住民の支え合いなどの場を発見・開発する「生活支援コーディネーター」などが専門性と関心事に応じる形で、高齢者の身体状況や栄養・服薬情報、経済状況、家族関係、居住環境や家の段差などを確認し、医学的に気を付ける必要がある点とか、リハビリテーションで体力を回復する可能性、介護予防の観点に立って外出する気分を高めるための工夫、息子夫婦に関わってもらえる可能性などについて、知恵を出し合う形が取られる。ケースは概ね1回20分、1回の会議で3~4件取り上げている形が多い。

こうした機能や会議の進め方などについては、これまでに様々なハンドブックやマニュアルが公表されているほか、地域の好事例が書籍や専門誌、イベントなどで取り上げられている5
 
5 主な文献や資料として、地域ケア会議運営ハンドブック作成委員会編(2016)『地域ケア会議運営ハンドブック』、長寿社会開発センター編(2023)「政策形成につなげる地域ケア会議の効果的な活用の手引き」、同センター編(2023)『地域ケア会議の効果的な運営の推進に関する調査研究報告書』、同センター編(2013)『地域ケア会議運営マニュアル』に加えて、三菱総合研究所(2023)「地域ケア会議等におけるケアプラン検証の在り方に関する調査研究事業報告書」、日本総合研究所(2020)「地域ケア会議に関する総合的なあり方検討のための調査研究事業報告書」、エム・アール・アイ・リサーチアソシエイツ(2019)「地域ケア会議等におけるケアプラン検証の在り方に関する調査研究事業報告書」(いずれも老人保健事業推進費等補助金)を参照。事例については、厚生労働省が2014年3月に公表した「地域包括ケアの実現に向けた地域ケア会議実践事例集」に加えて、松本小牧(2024)「地域ケア会議を活用した地域課題解決策の展開」『地域ケアリング』Vol.26 No.4、小黒一正編著(2016)『2025年、高齢者が難民になる日』日経BPマーケティング、足立理江(2015)『兵庫・朝来市発 地域ケア会議サクセスガイド』メディカ出版のほか、『地域ケアリング』2017年4月号、2014年3月~2015年8月の『介護保険情報』連載記事、『ケアマネジメント・オンライン』配信記事で紹介された奈良県生駒市などの事例、2019年2月に開催された国立社会保障・人口問題研究所の「厚生政策セミナー」資料を参照。
4地域ケア会議の運用の多様性
ただ、地域ケア会議の多様性には注意を要する。2016年6月に示された『地域ケア会議運営ハンドブック』によると、5つの機能のうち、個別課題は「地域ケア個別会議」で話し合う一方、地域包括支援センターや市町村単位で設置された「地域ケア推進会議」では地域の課題を論じると整理されているが、市町村の「実情」を見ると、名称や目的、進め方は現場ごとに大きく異なる。

具体的には、重度な認知症の人など複雑・困難な案件を論じる専門の会議体に加えて、介護予防に特化した「自立支援型地域ケア会議」などのパターンがある。実際、図表1に掲げた厚生労働省の下側には「参加者や規模は、検討内容によって異なる」と小さく書かれている。本稿では、先に触れた5つの機能を中心に述べる。

3――地域ケア会議の効果と現場の悩み

3――地域ケア会議の効果と現場の悩み

1制度改正でのテコ入れ
以上のような地域ケア会議が約10年間、実施された効果の一つとして、多職種の垣根が低くなったことは間違いない。管見の限り、制度ができる前と比べると、別稿6で触れた「在宅医療・介護連携推進事業」や報酬改定の影響と相俟って、かなり多職種連携は一般的になった。

さらに、国が地域ケア会議を政策誘導の手段に使っている影響も見逃せない。例えば、市町村の取り組み状況を採点した上で、その状況に応じて国からの予算額を増減させる「介護保険保険者努力支援交付金」では、「地域ケア会議における個別事例の検討割合(個別事例の検討件数/受給者数)」などが評価項目になっており、市町村が会議を開催するインセンティブとなっている。

このほか、多職種連携を促す場としても、地域ケア会議が活用されており、2021年度からスタートした「地域連携薬局」という制度では、薬剤師や薬局が在宅ケアに関わってもらう観点に立ち、要件の一つとして、地域ケア会議への継続参加が組み込まれている。近年の診療報酬改定でも身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医機能」を評価する「機能強化加算」「地域包括診療科」の加算要件の一つに、「担当医が地域ケア会議に出席した実績」が加えられた7

こうした政策誘導は今後も続く可能性が高く、市町村や現場のスタッフが地域ケア会議を使いこなすことが重要になる。
2地域ケア会議を巡る現場の悩み
しかし、現場の「実情」を見ていると、会議の開催が自己目的化し、市町村と専門職の双方に「会議疲れ」の様子が見受けられる。実際、国の委託調査で2023年3月に作られた「政策形成につなげる地域ケア会議の効果的な活用の手引き」8(以下は「手引き」)では、「建設的な議論ができない」「地域課題の解決に向けた政策を形成できない」など、地域ケア会議の運用を巡る困難が11個も例示されている。その上で、「他者が理解できるレベルまでキーワード化する」など実に50個のチェックリストが示されている(末尾の参考資料を参照)。

裏を返して言えば、地域ケア会議が開催されているものの、内実を伴わない形式主義的な運営に悩んでいる関係者が多いことの証であろう。この辺りの事情については、筆者が藤田医科大を中心とした市町村支援プログラム9などで見聞きしている傾向とも一致している。

だが、こうした市町村の悩みが生まれる根本的な原因を整理しなければ、「手引き」が有効に使われず、むしろ膨大なチェックリストを埋める作業が市町村で起き、形式主義的な運用が続く可能性も否定できない。以下では「手引き」と重なる部分もあるが、(1)個別課題から地域課題に発展できない問題、(2)議論が活発にならない問題――という2つの論点について、その背景と改善策を考える。
 
8 長寿社会開発センター編(2023)「政策形成につなげる地域ケア会議の効果的な活用の手引き」(老人保健事業推進費等補助金)。
9 藤田医科大、愛知県豊明市を中心としたプログラム(老人保健事業推進費等補助金)。
http://www.fujita-hu.ac.jp/~chuukaku/kyouikushien/kyouikushien-96009/index.html

(2024年12月24日「保険・年金フォーカス」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【「地域ケア会議」はどこまで機能しているのか-多職種連携の促進に効果も、運用のマンネリ化などに懸念】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「地域ケア会議」はどこまで機能しているのか-多職種連携の促進に効果も、運用のマンネリ化などに懸念のレポート Topへ