2024年12月03日

働くうえで性別による不利益や得を経験したことがあるか~男性は若年ほど「不利益」を経験。中高年以上女性の「不利益」は解消されないままか

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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(3) 結果のまとめと得られた示唆
「不利益だけ」は、図表1のとおり男性では若年ほど、女性で高年齢ほど多いことから、男女で背景が異なると考えられる。男性では、人並みの生活や裕福な暮らしをするための収入を得たいと考えていることや仕事で成功したいと考えており、就労や収入への期待は高いと考えられる。ただし、「職場で自分がいじめにあっている」や「同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがち」であり、働きやすさに欠けており不利益のみを感じている可能性が考えられる。一方、女性についてみると、やはり裕福な暮らしをするための収入を得たいと考えている。「能力や成果に応じて評価されるべきだ」「職場で自分がいじめにあっている」「同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ」がプラス、「職場では、いろいろな立場の人が職場の一員として尊重されている」「意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている」がマイナスであることから、職場の体制への不満や、自分自身が正当に評価されていないといった不満がありそうだ。「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべきだ」がプラス、「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい」がマイナスであることから、従前の男性は仕事、女性は家庭といった考えには賛同していないものと考えられる。図表1のとおり、比較的年齢層が高い女性に多く、現在ほど女性の就労体制が整っていない時代に苦労してきた人も多く含まれると考えられる。近年になって、女性の就労継続をサポートする体制ができても、当時の待遇等の不利益は解消されないままであることも、現在の不利益の1つとなり得ると考えられる。

「不利益も得も」も、人並みの生活や裕福な暮らしをするための収入を得たいと期待しているほか、家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したいと、収入を得ることや仕事で成功することへの期待は大きい。しかし、同時に、女性では家庭を優先するのが望ましいが高いほか、男性でも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視したり男性も育児休暇を取るべきだと考えており、夫が働き、妻は子育てを中心とするといった従来の役割分担の考えがありつつも、「得だけ」や「不利益だけ」「いずれもなし」と比べると、男女それぞれの子育てへの意欲も高い。このように、仕事も子育ても意欲が高い中で、男性では「職場では、いろいろな立場の人が職場の一員として尊重されている」が低いこと、男女とも「職場で自分がいじめにあっている」や「同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ」が高いことから、不利益も感じているようだ。その一方で、「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる」と回答しており、両立支援策を一定程度認めている点で、「不利益だけ」と異なる。

なお、「不利益だけ」と「不利益も得も」は、「職場で自分がいじめにあっている」と「休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ」が高く、性別にともなういじめかどうかは不明であるが、職場にハラスメントが横行していたり、休暇を取得した同僚の負担をカバーするために過負担となっている等の課題が考えられる。

続いて、男女とも若年齢で多かった「得だけ」とプラスの関係のある変数をみると、女性で末子が6歳以下と小さい子どもを育てていることがプラスとなっており、男女の26歳以上の子をもつ人ではマイナスになっている。近年、職場において女性の就労継続に向けて制度の拡充は、女性が出産を経ても働き続けることを念頭においたものであることを踏まえれば、小さな子どもを持つ女性が得したと感じることがあるとすれば、こういった制度の拡充が就労継続を後押ししている可能性が考えられる。男性では、人並みの生活や裕福な暮らしをするための収入、女性では裕福な暮らしをするための収入を期待しており、収入面での期待は大きい。女性は「能力や成果に応じて評価されるべきだ」と考えており、自分自身の業績にある程度自信があるものと推測できる。ワークエンゲージメントがプラスになっているのは男女とも「得だけ」の人であり、得をしたと感じるような機会を得ることでエンゲージメントが高まっている可能性もエンゲージメントが高いことで、恵まれていると感じている可能性も考えられる。

図表1でいずれの区分でも大半を占めていた「いずれもなし」は、男女とも年齢が高いこと、配偶者あり(無職)でプラスとなっていた。収入や評価についての考え方、職場の実態、両立についての考え方については、マイナスである項目が多く、不利益や得を感じた人と比べていずれの質問に対しても、あてはまる人が少ない傾向があった。職場において経験を積む中で、1つ1つの出来事を不利益や得として捉えていない可能性が考えられる。

3――おわりに

3――おわりに

以上のとおり、本稿では、「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」「働くうえで、性別を理由として得をしたと感じることがある」という2つの質問の回答を分析した。

性・年齢群団別にみると、男女とも不利益を被ったり得を感じた経験は若年ほど高い傾向があった。男性は、若年ほど、不利益も得も感じていたことから、「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」のいずれも若年ほど高かった。一方、女性は、得と感じた経験は若年ほど高かったが、不利益を被ったと感じた経験は年齢が高いほど高く、若年女性で「得だけ」が高く、高年齢女性で「不利益だけ」が高い結果となった。近年、企業等では、女性が妊娠中および出産後の健康を確保することや、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ること、男女の子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められており、若年ほど、特に女性で得をしたと感じていることは期待どおりと言えるだろう。

しかし、そういった環境変化の中、若年男性で不利益を被っていると感じる人も生じていた。職場環境は変化してきたが、それと同じスピードで意識は変化しておらず、若年男性にとっては働きやすい環境にはなっていない可能性がある。今回の結果では、世代間の差は、女性よりも男性で顕著である可能性がある。また、そういった両立支援を享受できなかった世代の女性も不利益を感じている割合が高かった。近年になって、女性の就労継続をサポートする体制ができても、当時の待遇等の不利益は解消されていない可能性があり、現在の不利益の1つとなり得ると考えられた。

収入や評価についての考え方、職場の実態、両立についての考え方の特徴をみると、今回の結果では、「不利益」や「得」を感じているのは、仕事で成功したいと考えており、収入を得ることに対しても比較的期待が高い人だった。そういった期待が高いからこそ不利益や得を感じている可能性が考えられる。なお、「不利益だけ」を感じている人では、男女とも職場にハラスメントが横行していたり、休暇中の人のカバーで過負担になっている等の特徴があり、職場環境や業務の負担に関しての改善の余地があるだろう。

一方、男女とも「得だけ」感じている人ではワークエンゲージメントが高く、従業員にとって働きやすい環境であることがうかがえる。

なお、今回の調査では、「不利益を被ったと感じた経験」「得したと感じた経験」を尋ねているが、その内容までは尋ねていない。人によっては性別を理由に昇進が早まった/遅れたといったものもあれば、仕事を押しつけられた・チャンスが得られた/やらせてもらえなかった・チャンスがなかった、性別にかかわることを言われた等、内容は人によって異なる可能性があるため、解釈には注意が必要だろう。

現在、就労している人には、男女雇用機会均等法成立前から働く人もいるが、今回分析した34歳以下は、成立後に生まれた世代であり、考え方も年齢や育った環境、職場によってかなり差があると考えられ、職場環境の変化と同じスピードで意識は変化していない可能性がある。各就労者が、自分の仕事と家庭を両立しながら、周囲の考え方を尊重し、職場で安心して働けるよう、職場でも、両立支援のための環境整備だけでなく、従業員のキャリア形成を支援し、従業員の働く意欲を評価できるよう意識のすり合わせをしていく必要があるだろう。

(2024年12月03日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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