2024年09月26日

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(2) テレワークの普及がオフィス需要に及ぼす影響
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2023年4月以降、40%台で推移しており、2024年7月は44%となった。テレワーク(在宅勤務)実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している(図表-11)。

公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「自宅での勤務で効率が上がったか」との質問に対し、効率が向上(「効率が上がった」と「やや上がった」の合計)したとの回答は、34%(2020 年5月)から79%(2024 年7月)へと2倍以上に増加した。また、「今後もテレワークを行いたいか」との質問に対し、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020 年5月)から79%(2024 年7月)へ増加した。今後もテレワークを取り入れた働き方を希望する就業者は多いと言える。

また、東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」(2023年11月実施)によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワーク導入目的をたずねたところ、「非常時(新型コロナウイルス、地震等)の事業継続対策(88%)」との回答が多く、次いで「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減(42%)」、「育児・介護中の従業員への対応(40%)」、「生産性の向上(31%)」との回答が多かった(図表-12)。企業も、BCP対応や介護離職の防止等の観点から、テレワークの導入にメリットを感じているようだ。

以上の状況を鑑みると、「テレワーク」を取り入れたフレキシブルな働き方は、今後も継続することが予想される。
図表-11 都内企業のテレワーク実施率/図表-12 テレワークの導入目的
企業のオフィスの利用形態も、「テレワーク」を取り入れたフレキシブルな働き方に即した形に変更されつつある。日経BP総合研究所イノベーションICTラボ「ワークスタイルに関する動向・意向調査」(2024年4月時点)によれば、机と座席の配置形態にたずねたところ、フリーアドレス4を利用できるとの回答5が51%に達した。テレワークの導入とともに、固定席の割合を減らしてフリーアドレスを導入する企業が増えている模様だ。

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024春」によれば、「今後増設・新設したスペース」について、「会議室(個室)」(25.0%)との回答が最も多く、次いで「リモート会議用ブース」(24.9%)、「フリーアドレス席」(17.3%)、「リフレッシュルーム」(15.1%)、「オープンなミーティングスペース」(14.3%)の順に多かった(図表-13)。リモート会議用ブースや会議室の設置など、テレワークへの対応とともに、ミーティングスペースやリフレッシュルーム等を充実させる企業は多い。テレワークが浸透するなか、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されている。

また、テレワークが普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「レンタルオフィス6」や「シェアオフィス7」、「コワーキングスペース8」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。

東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワークの形態をたずねたところ、「サテライトオフィス(専用型9)」との回答は7%、「サテライトオフィス(共用型10)」は12%であった。また、従業員数の多い企業ほど「サテライトオフィス」を導入している割合は増加し、「従業員数1000人以上の企業」では、「サテライトオフィス(専用型)」との回答は16%、「サテライトオフィス(共用型)」は28%に達している(図表-14)。
図表-13 今後増設・新設したスペース/図表-14  テレワークの形態
「働き方」に関するアンケート調査を行った先行研究11によれば、ワークライフにおけるウェルビーイング(幸福感)の高い就業者のグループは、「働く場所を選択できる」職場や、「多様性が重視される」職場で働いている傾向がみられた(図表-15)。企業経営においてウェルビーイングの重要性が高まるなか、「サードプレイスオフィス」を活用し、従業員の働く場所の選択肢を広げる企業は増えることが予想される。

弊社の調査12によれば、市区町村別にみた「サードプレイスオフィス」の拠点数は、「港区」(261拠点)が最も多く、次いで「千代田区」(210拠点)、「渋谷区」(179拠点)が多かった。「中央区」と「新宿区」も100拠点を超えており、東京都心5区合計で、全国の約4分の1(24%)を占めている。

テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、引き続き都心5区のオフィス需要を下支えすると考えられる。
図表-15 ウェルビーイング(幸福感)高群に見られる働き方・働く場の傾向
 
4 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
5 「フリーアドレスを導入している(固定席はない)」(36%)と「フリーアドレスを利用でき、それとは別に固定席もある」(15%)の合計
6 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
7 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
8 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。
9 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中などに立ち寄って就業できるオフィススペース
10 複数の企業がシェアして利用するオフィススペース。シェアオフィス、コワーキングスペースなど。
11 第25回日本オフィス学会 ワークスタイル研究部会報告「これからの時代の「働く」を捉えるために」
12 吉田資『わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年11 月30日
(3) 企業のオフィス環境整備の方針
ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024春」によれば「オフィス施策を実施する上で、重視すること」は、「生産性の向上 (69%)」との回答が第1位となり、次いで「従業員の満足度向上(64%)」と「従業員のモチベーション向上(56%)」が多かった(図表-16)。

コロナ禍前(2019年)と比較して、「生産性の向上(2019年:56%⇒2024年:69%)」や「従業員の満足度向上 (同28%⇒69%)」、「社内のコミュニケーション活性化 (同41%⇒51%)」、との回答が大幅に増加している。

一方、「オフィスコストの削減(2019年31%⇒2020年44%⇒2024年37%)」や「業務の効率化(2019年47%⇒2020年56%⇒2024年52%)」との回答は、コロナ禍で大幅に増加した後、減少傾向で推移している。

オフィス環境の整備において、コスト削減や業務効率への意識は依然として高いものの、その優先度は低下している。一方、従業員満足度の向上やコミュニケーションの活性化に重点がシフトしている模様だ。
図表-16 オフィス施策を実施する上で、重視すること
また、環境性、快適性、健康性に優れたオフィスビル(ESG不動産)への関心は高まっている。国土交通省「環境性、快適性、健康性に優れたオフィスビルに関する国内アンケート調査」(2019年4月)によれば、テナント入居者に、賃料(価格)や立地といった条件の他に、入居する不動産のESGにどの程度配慮しているかという設問に対して、「考慮している」(「ある程度配慮している(62%)」と「大いに配慮している(13%)」の合計)との回答が約7割を占めた(図表-17)。また、入居時にESGに配慮する理由として、「従業員の労働環境の改善(従業員の満足度向上)につながる(期待されるため)ため」との回答が最も多く、7割弱を占めた(図表-18)。

人手不足等を背景に、従業員の満足度向上等が重要視されるなか、施設利用者の快適性や健康性に配慮したワークプレイスの構築が続くと考えられる。
図表-17 入居時におけるESGに対する配慮の程度/図表-18 入居時にESGに配慮する理由

(2024年09月26日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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