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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2024年9月時点)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2023年4月以降、40%台で推移しており、2024年7月は44%となった。テレワーク(在宅勤務)実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している(図表-11)。
公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」によれば、「自宅での勤務で効率が上がったか」との質問に対し、効率が向上(「効率が上がった」と「やや上がった」の合計)したとの回答は、34%(2020 年5月)から79%(2024 年7月)へと2倍以上に増加した。また、「今後もテレワークを行いたいか」との質問に対し、テレワークを行いたい意向(「そう思う」と「どちらか言えばそう思う」の合計)は、62%(2020 年5月)から79%(2024 年7月)へ増加した。今後もテレワークを取り入れた働き方を希望する就業者は多いと言える。
また、東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」(2023年11月実施)によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワーク導入目的をたずねたところ、「非常時(新型コロナウイルス、地震等)の事業継続対策(88%)」との回答が多く、次いで「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減(42%)」、「育児・介護中の従業員への対応(40%)」、「生産性の向上(31%)」との回答が多かった(図表-12)。企業も、BCP対応や介護離職の防止等の観点から、テレワークの導入にメリットを感じているようだ。
以上の状況を鑑みると、「テレワーク」を取り入れたフレキシブルな働き方は、今後も継続することが予想される。
ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024春」によれば、「今後増設・新設したスペース」について、「会議室(個室)」(25.0%)との回答が最も多く、次いで「リモート会議用ブース」(24.9%)、「フリーアドレス席」(17.3%)、「リフレッシュルーム」(15.1%)、「オープンなミーティングスペース」(14.3%)の順に多かった(図表-13)。リモート会議用ブースや会議室の設置など、テレワークへの対応とともに、ミーティングスペースやリフレッシュルーム等を充実させる企業は多い。テレワークが浸透するなか、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されている。
また、テレワークが普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「レンタルオフィス6」や「シェアオフィス7」、「コワーキングスペース8」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。
東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワークの形態をたずねたところ、「サテライトオフィス(専用型9)」との回答は7%、「サテライトオフィス(共用型10)」は12%であった。また、従業員数の多い企業ほど「サテライトオフィス」を導入している割合は増加し、「従業員数1000人以上の企業」では、「サテライトオフィス(専用型)」との回答は16%、「サテライトオフィス(共用型)」は28%に達している(図表-14)。
弊社の調査12によれば、市区町村別にみた「サードプレイスオフィス」の拠点数は、「港区」(261拠点)が最も多く、次いで「千代田区」(210拠点)、「渋谷区」(179拠点)が多かった。「中央区」と「新宿区」も100拠点を超えており、東京都心5区合計で、全国の約4分の1(24%)を占めている。
テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、引き続き都心5区のオフィス需要を下支えすると考えられる。
4 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
5 「フリーアドレスを導入している(固定席はない)」(36%)と「フリーアドレスを利用でき、それとは別に固定席もある」(15%)の合計
6 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
7 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
8 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。
9 自社・自社グループ専用として利用され、従業員が営業活動で移動中、あるいは出張中などに立ち寄って就業できるオフィススペース
10 複数の企業がシェアして利用するオフィススペース。シェアオフィス、コワーキングスペースなど。
11 第25回日本オフィス学会 ワークスタイル研究部会報告「これからの時代の「働く」を捉えるために」
12 吉田資『わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年11 月30日
ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2024春」によれば「オフィス施策を実施する上で、重視すること」は、「生産性の向上 (69%)」との回答が第1位となり、次いで「従業員の満足度向上(64%)」と「従業員のモチベーション向上(56%)」が多かった(図表-16)。
コロナ禍前(2019年)と比較して、「生産性の向上(2019年:56%⇒2024年:69%)」や「従業員の満足度向上 (同28%⇒69%)」、「社内のコミュニケーション活性化 (同41%⇒51%)」、との回答が大幅に増加している。
一方、「オフィスコストの削減(2019年31%⇒2020年44%⇒2024年37%)」や「業務の効率化(2019年47%⇒2020年56%⇒2024年52%)」との回答は、コロナ禍で大幅に増加した後、減少傾向で推移している。
オフィス環境の整備において、コスト削減や業務効率への意識は依然として高いものの、その優先度は低下している。一方、従業員満足度の向上やコミュニケーションの活性化に重点がシフトしている模様だ。
人手不足等を背景に、従業員の満足度向上等が重要視されるなか、施設利用者の快適性や健康性に配慮したワークプレイスの構築が続くと考えられる。
(2024年09月26日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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