2024年05月20日

タイ経済:24年1-3月期の成長率は前年同期比1.5%増~輸出不振と政府支出の減少により低調な景気

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比1.5%増1(前期:同1.7%増)と低下したが、市場予想2(同0.8%増)を上回る結果となった(図表1)。前期比(季節調整後)の成長率は1.1%増だった。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に純輸出の悪化と政府支出の減少が成長率低下に繋がった。

まず民間消費は前年同期比6.9%増(前期:同7.4%増)と好調を維持した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同42.7%増)の大幅な増加が続いたほか、通信(同7.1%増)や住宅・水道・電気・燃料(同6.7%増)、衣類・靴(同6.7%増)、娯楽・文化(同5.2%増)、食料・飲料(同4.3%増)、家具、備品、メンテナンス(同3.7%増)、保健衛生(同3.2%増)が順調に増加した。一方、交通(同0.6%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同2.1%減(前期:同3.0%減)と低迷した。前期に続いて雇用者報酬(同1.9%増)が増加したものの、現物社会給付(同10.7%減)と財・サービスの購入(同7.6%減)が減少した。

総固定資本形成は同4.2%減(前期:同0.4%減)とマイナス幅が拡大した。投資の内訳を見ると、民間投資が同4.6%増(前期:同5.0%増)と堅調に推移したが、公共投資が同27.7%減(前期:同20.1%減)と落ち込んだ。

純輸出は成長率寄与度が▲1.7%ポイントとなり、前期の+0.7%ポイントから減少した。まず財・サービス輸出は同2.5%増(前期:同4.9%増)と鈍化した。サービス輸出が同24.8%増と大幅な増加が続いたものの、財貨輸出が同2.0%減(同3.4%増)と再び減少した。一方、財・サービス輸入は同5.3%増(前期:同3.9%増)となり加速した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

全体の6割を占めるサービス業は同3.6%増(前期:同3.9%増)と鈍化したものの、底堅い伸びを保った。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同11.8%増)と運輸・倉庫業(同9.4%増)が好調だったほか、情報・通信業(同6.7%増)や保健衛生・社会事業(同4.8%増)、小売・卸売業(同4.3%増)が堅調に拡大した。一方、建設業(同17.3%減)は公共事業の縮小により大幅に減少した。また金融・保険業(同2.9%増)や教育(同2.0%増)、国防・社会保障(同1.4%増)、不動産業(同0.8%増)は緩やかな伸びにとどまった。

鉱工業は同1.2%減となり、前期の同1.5%減からマイナス幅が縮小したものの、6四半期連続の減少となった。まず主力の製造業は同3.0%減(前期:同2.4%減)と低迷した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同6.7%減)と食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同1.7%減)がそれぞれ低迷したほか、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同1.9%減)が2四半期ぶりに減少した。一方で電気・ガス業は同10.9%増(前期:同6.3%増)と好調だったほか、鉱業は同4.8%増(前期:同0.9%増)と加速、主要油田の生産量が改善して3四半期連続で増加した。

農林水産業は前年同期比3.5%減(前期:同0.6%減)と2四半期連続で減少した。エルニーニョ現象を背景とした高温と干ばつの影響によりコメやパーム油、サトウキビ、果物などの主要作物の収量が減少したことが響いた。
 
1 5月20日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2024年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は、2023年は輸出低迷が響いて通年の成長率が同+1.9%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により回復傾向にあった2022年の同+2.5%から低下した。そして今回発表された2024年1-3月期の成長率は前年同期比+1.5%と、2023年10-12月期の同+1.7%から小幅に低下し、緩慢な成長が続いていることが明らかとなった。

1-3月期の成長率低下は財輸出の悪化と政府支出の減少による影響が大きい。まず財貨輸出(同▲2.0%)は2四半期ぶりに減少した。仕向け地別にみると、欧米向けとASEAN向けは増加したが、中国向けと日本向けが減少した。品目別にみると、主要輸出品であるハードディスクドライブ(HDD)を含むコンピュータ部品(同▲11.3%)やエアコン(同▲15.4%)、ピックアップ・トラック(同▲15.3%)、乗用車(同▲7.3%)、ドリアン(同▲53.2%)、砂糖(同▲29.1%)、ゴム製品(同▲19.2%)などが減少した。

また投資(同▲4.2%)が低迷した。タイでは昨年の新政権発足により政治の不透明感が和らいで民間投資(同+4.6%)は堅調に推移したものの、政府の2024年度予算編成の遅れによって公共投資(同▲27.7%)の大幅な減少が続いた。政府消費(同▲2.1%)も同様の理由により縮小、コロナ関連の医療費支出が継続的に減少したことも加わり7四半期連続のマイナス成長となった。

一方、サービス輸出(前年同期比+24.8%)が好調だった。タイでは新型コロナ対策の入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いている。今年3月には中国との間で観光ビザの相互免除を開始した。1-3月期の外国人観光客数は937万人となり、アジアからの観光客を中心に増加、コロナ禍前の9割の水準まで持ち直している(図表3)。

こうした観光業の回復に加え、政府によるエネルギー価格の引下げ政策により低インフレが継続している。家計の実質的な購買力が向上して消費者信頼感指数は回復傾向にあり、民間消費(同+6.9%)は堅調に拡大した(図表4)。もっとも、民間消費の増勢は前期の+7.4%から鈍化しているが、これは失業率が1%程度の低水準ながら前期から若干上昇したことが影響したとみられる。
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイの産業景況感と消費者信頼感
先行きのタイ経済は2024年度政府予算の執行が本格化することにより、国内需要が押し上げられて成長率が3%台へと加速すると予想されるため、タイ経済の動向を悲観する必要はないようにみえる。しかしながら、デジタル通貨1万バーツの給付金事業は10月以降実施される予定であり、はっきりとした景気回復が現れるまでには時間がかかりそうだ。タイ政府は2024年の成長率が2.0%~3.0%と予測しており、従来予測の2.2%~3.2%から下方修正している。タイ政府は足元の低インフレ環境や景気回復の遅れを踏まえて、タイ中銀に対して政策金利の引下げを繰り返し要請しているが、中銀は先行きの景気回復を見込み、政策金利を据え置いており、政府と中銀の足並みは揃っていない。1-3月期のGDPも低成長だったため政府の利下げ要請は強まるだろうが、タイ中銀はタカ派的姿勢を維持して政策金利の据え置きを続けるものとみられる。
 
 

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(2024年05月20日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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