2024年03月12日

ASEANの貿易統計(3月号)~1月の輸出は旧正月の影響で上振れ、11カ月ぶりのプラスに

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年1月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)1は前年同月比11.9%増(前月:同2.8%減)の1,285億ドルとなり、11カ月ぶりに増加した(図表1)。

輸出の基調は2022年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、前年割れが続いた。しかし、輸出は既に底入れしており、負のベース効果が剥落したことから足元では増加傾向に転じたかにみえる。1月の輸出急増は中華圏の旧正月の時期が昨年とずれたことによる上振れの影響が大きく、2月はその反動で落ち込む可能性があるだろう。その後は中国経済の緩やかな回復により前年を上回って推移するものの、金融引き締めによる欧米の景気減速が重石になるとみられ、輸出持ち直しの動きは緩やかなものとなりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、北米向けが同30.9%増(前月:同3.4%増)と増勢が加速したほか、東アジア向けが同6.6%増(前月:同1.4%減)、東南アジア向けが同8.0%増(前月:同9.5%減)、EU向けが同4.5%増(前月:同10.5%減)と、それぞれ増加した(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの1月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比46.0%増(前月:同8.1%増)の345億ドルとなり5カ月連続で前年同月を上回った(図表3)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では電子部品の出荷が増えるなど持ち直しの動きがみられる。前年は1月にテト(旧正月)休暇があり営業日数が少なかった反動で輸出が上振れた。また輸入額も前年同月比46.0%増(前月:同8.1%増)の345億ドルとなり増勢が加速した。結果として貿易収支は+36.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から15.7億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比11.4%増(前月:同19.6%増)、コンピュータ、電子製品・同部品が同68.3%増(前月:同18.8%増)と、それぞれ二桁増となった(図表4)。アパレル関連については履物が同43.8%増(前月:同0.3%増)、織物・衣類が同38.9%増(前月:同0.8%減)と、それぞれ急増した。農林水産物を見ると、コメ(同94.5%増)やコーヒー(同133.7%増)、野菜(同103.9%増)、カシューナッツ(同126.0%増)、天然ゴム(同62.3%増)などの主要品目が幅広く増加した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同6.5%増(前月:同3.6%増)、地場企業が同12.5%増(前月:同16.1%増)となり、それぞれ増加傾向が続いた。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比10.0%増(前月:同4.7%増)の226億ドルとなり、6ヵ月連続で増加した(図表5)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、昨年後半から工業製品に加えてコメの出荷が伸びるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額も前年同月比2.6%増(前月:同3.0%減)の254億ドルとなり、2ヵ月ぶりに増加した。結果として、貿易収支が▲27.6億ドルとなり、前月から37.3億ドル減少して赤字化した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同6.7%増(前月:同2.1%増)となり4ヵ月連続で増加した(図表6)。製造品の内訳を見ると、家電製品(同3.2%減)や自動車・部品(同2.6%減)、機械・装置(同0.1%減)が減少したものの、金属・鉄鋼(同55.7%増)や電子製品(同27.7%増)、石油化学製品(同4.3%増)などが増加した。また農産物・同加工品は同6.6%増(前月:同2.3%減)となり2カ月ぶりに増加した。農産物・同加工品の内訳をみると、ドリアン(同33.0%減)やゴム製品(同16.1%減)が減少した一方、コメ(同45.9%増)や天然ゴム(同5.5%増)、加工食品(同2.3%増)などが増加するなど、品目によってまちまちだった。鉱業・燃料は同8.2%増(前月:同35.2%増)となり、石油製品(同4.3%増)を中心に増勢が鈍化した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの1月の輸出額(通関ベース、ドル換算)は前年同月比0.2%増(前月:同14.8%減)の261億ドルとなり、小幅ながら11カ月ぶりに前年を上回った(図表7)。輸出の基調は2022年末から世界的な需要減退と商品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では前年の高いベース効果の影響が剥落しており増加に転じつつある。また輸入額も前年同月比9.6%増(前月:同2.6%減)の239億ドルとなり11カ月ぶりに増加した。結果として、貿易収支が+21.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から3.6億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、鉱物性燃料は同3.5%増(前月:同12.4%減)となり2ヵ月ぶりに増加した。鉱物性燃料の内訳をみると、天然ガス(同16.4%減)こそ減少したものの、原油(同8.6%増)と石油製品(同17.2%増)が増加した。またコロナ特需終息後に低迷していたゴム手袋(同1.0%増)は2021年8月以来のプラスとなったほか、動植物性油脂(同7.9%増)も増加した。一方、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同10.1%減(前月:同16.8%減)となり、主力の電気・電子製品(同13.7%減)を中心に6ヵ月連続で減少した(図表8)。化学製品(同0.9%減)は前年割れとなった。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.1%減(前月:同5.8%減)の205億ドルとなり、8ヵ月連続の前年割れとなった(図表9)。輸出は2022年後半から海外経済の減速や石炭およびパーム油などの主要商品価格の下落により昨年3月から減少傾向が続いたが、足元では負のベース効果が和らぎ増加傾向に転じつつある。一方、輸入額は前年同月比0.4%増(前月:同3.8%減)の185億ドルとなり、2ヵ月ぶりに増加した。結果として、貿易収支が+20.2億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.7億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出は同8.2%減(前月:同6.3%減)と減少幅が拡大し、また石油ガス輸出は同6.1%減(前月:同1.4%増)と5カ月ぶりに減少した(図表10)。真珠・貴石・半貴石(同30.7%減)やオイル・ガスを除く鉱物性燃料(同28.0%減)、自動車・同部品(同15.3%減)、電気機械(同15.0%減)、鉄・鉄鋼(同9.6%増)、動植物性油脂(同6.2%減)、履物(同5.6%減)、機械(同4.8%減)など幅広い品目が減少した。スラグ・灰(同10.2%増)については二桁増となった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの1月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比15.8%増(前月:同0.0%増)の115億ドルとなり、増勢が加速した(図表11)。輸出の基調は2022年後半から電子製品、非電子製品が振るわず減少が続いたが、主力の電子製品の落ち込みが和らぎ増加傾向に変わってきた。

総輸出額は同15.7%増(前月:同3.2%減)の432億ドル、総輸入額が10.1%増(前月:同7.9%減)の368億ドルとなり、それぞれ急増した。結果として、貿易収支は+63.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から9.7億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同0.2%減(前月:同10.4%減)と停滞して18カ月連続のマイナスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同1.9%減)をはじめとしてPC(同4.8%減)やディスクメディア(同0.3%減)などの減少が続いた。一方、全体の約3割を占める化学品は同9.0%増(前月:同11.1%増)となり二桁増が続いた。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同7.8%増)が増加したものの、医薬品(同9.0%増)が大幅に増加した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比9.1%増(前月:同0.5%減)の59億ドルとなり5ヵ月ぶりに増加した(図表13)。輸出の基調は昨年4月を底に上向いたものの、その後の持ち直しの動きは鈍く、今年1月は前年同月の水準が高かったことによるベース効果の影響が剥落して増加した。一方、輸入額は前年同月比7.6%減(前月:同3.5%減)の101億ドルと低迷した。結果として、貿易収支が▲42.2億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から0.4億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同16.3%増(前月:同2.7%増)となり、2カ月連続で増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同19.9%増)が加速、電子データ処理機(同6.1%増)は約2年ぶりに増加した。その他9品目については、その他鉱業品(同22.7%減)とその他製造品(同14.3%減)、精錬銅(同2.9%減)が減少した一方、ココナッツオイル(同26.9%増)や金(同26.0%増)、銅精鉱(同25.1%増)、機械・輸送用機器(同20.3%増)、化学品(同6.7%増)と、増加した品目の方が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
1 シンガポールは地場輸出の値を用いて算出。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年03月12日「経済・金融フラッシュ」)

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