2024年01月31日

フィリピン経済:23年10-12月期の成長率は前年同期比5.6%増~輸出と政府支出の減少により成長鈍化

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期5.6%増1(前期:同6.0%増)と低下し、市場予想2(同5.2%増)を上回る結果となった(図表1)。

なお、2023年通年の成長率は前年比5.6%増(2022年:同7.6%増)と低下、政府の成長率目標の6.0%~7.0%に届かなかった。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、輸出と政府消費の減少が成長率低下に繋がった。

まず民間消費は前年同期比5.3%増(前期:同5.1%増)と小幅に上昇した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同16.2%増)と交通(同12.2%増)が二桁成長となったほか、教育(同7.8%増)や娯楽・文化(同7.3%増)、保健(同7.0%増)が堅調に推移した。一方、衣服・履物(同1.4%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.5%増)と家具・住宅設備(同0.5%増)、住宅・水道光熱(同4.4%増)、通信(同4.5%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同1.8%減(前期:同6.7%増)となり2四半期ぶりに減少した。

総固定資本形成は同10.2%増(前期:同8.1%増)と上昇した。設備投資は同14.6%増(前期:同1.7%増)と大きく上昇し、また建設投資は同10.1%増(前期:同12.6%増)と二桁増が続いた。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同26.9%増)が好調だったが、前期に回復した産業用機械(同3.5%増)と一般工業機械(同3.2%増)が緩やかな伸びにとどまった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.7%ポイントとなり、前期の+1.3%ポイントから悪化した。まず財・サービス輸出は同2.6%減(前期:同2.6%増)となり約2年ぶりに減少した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同12.3%増)が好調を維持したが、財貨輸出(同11.6%減)が落ち込んだ。一方、財・サービス輸入は同2.9%増(前期:同1.1%減)とプラスに転じた。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同7.4%増(前期:同6.8%増)と加速した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同19.2%増)と金融・保険業(同11.8%増)が二桁成長となったほか、運輸・倉庫業(同9.7%増)と教育(同7.9%増)、行政・国防(同8.6%増)、専門・ビジネスサービス業(同6.0%増)が堅調な伸びとなった。しかし、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.2%増)や情報・通信業(同3.6%増)、不動産業(同3.9%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

また第二次産業は同3.2%増(前期:同5.6%増)と鈍化した。まず製造業は同0.6%増(前期:同1.8%増)と低下した。製造業の内訳をみると、石油製品(同38.7%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同5.8%減)や化学製品(同1.3%減)、食品加工(同1.1%増)など低調な業種が多かった。他方、鉱業・採石業(同10.3%増)と建設業(同8.5%増)、電気・ガス・水道(同6.4%増)は揃って高めの成長となった。

第一次産業は前年同期比1.4%増(前期:同0.9%増)と小幅に上昇した。トウモロコシ(同1.8%減)やココナッツ(同1.6%減)、キャッサバ(同2.5%減)などの農作物、漁業・養殖業(同5.2%減)が減少したものの、家禽(同7.8%増)やサトウキビ(同12.9%増)や家畜(同2.7%増)などが増加した。
 
1 2024年1月31日、フィリピン統計庁(PSA)が2023年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、2022年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と上昇するなど好調だった。しかし、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気減速傾向が続いた。今回発表された10-12月期の成長率は前年同期比+5.6%(7-9月期:同+6.0%)と低下、2023年通年の成長率も前年比+5.6%と6%台を下回る結果となった。

10-12月期の景気減速は輸出と政府消費が減少した影響が大きい。政府消費(前年同期比▲1.8%)は、選挙実施やコロナ対応による2022年の財政悪化を受けてフィリピン政府が財政健全化に取り組んだため再び減少した。また外需は、財貨輸出(同▲11.6%)が世界的な金融引き締めの影響による海外需要の減退により電子部品(同▲17.6%)や農産品(同▲3.1%)など主要輸出品の出荷が低調だった。輸出全体の5割弱を占めるサービス輸出(同+12.3%)はインバウンド需要の回復により好調を維持したものの、財貨輸出の落ち込みを相殺するには至らなかった。

一方、消費と投資は回復した。まず民間消費は前年同期比+5.3%(前期:同+5.1%)と小幅に上昇した。昨年11月の失業率は3.6%と、2005年以来の最低水準まで低下しており、雇用環境の改善が消費の回復に繋がったとみられる。また総固定資本形成は同+10.2%となり、前期の同+8.1%から更に上昇した。建設投資(同+10.1%)の好調が続くなか、設備投資(同+14.6%)が回復した。マルコス大統領はドゥテルテ前政権が推進した大規模インフラ整備計画を拡大させており、10月のインフラ支出は前年同期比+75.2%と大きく伸びている。
 
フィリピン経済は昨年を通して景気の減速傾向が続いており、世界経済の減速により輸出が低迷するなか、内需も力強さに欠く展開となっている。足元ではインフレ率が落ち着きつつあるものの、10-12期の消費者物価上昇率は前年同期比+4.3%とフィリピン中銀のインフレ目標を上回る水準で推移し(図表3)、また昨年5月から実施している同中銀の金融引き締めは累計利上げ幅が+4.5%に達している。こうした物価高と金利上昇が引き続き内需の下押し要因となっており、10-12月期もGDPの約7割を占める民間消費に力強さが戻っていない。

また外国人観光客数は昨年半ばにコロナ禍前の7割近い水準まで戻ったものの、足元では回復の動きが鈍っており(図表4)、観光関連産業を中心とした雇用情勢の改善は一服する可能性がある。このため、当面はインフレ率が鈍化しても個人消費の伸び悩む展開が続くものとみられる。

2024年の政府の成長率目標は6.5%~7.5%と高めの水準となっている。2024年度国家予算ではマルコス政権のインフラ整備計画「Build Better More」プログラムに1.4兆ペソ(前年度比+6.6%)が割り当てられており、公共投資の拡大は引き続き景気の下支えとなるだろう。また海外労働者からの国内送金やIT-BPO産業の急成長、観光業の持続的な回復も期待できる。しかしながら、金融引き締めの影響は経済全体に浸透しきっていないため、今年予想される米国の利下げ転換が遅れるなどしてフィリピンの高金利が続く展開となれば、政府の成長目標の達成は難しくなりそうだ。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)フィリピン訪比外客数
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年01月31日「経済・金融フラッシュ」)

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