2023年11月20日

タイ経済:23年7-9月期の成長率は前年同期比1.5%増~輸出と政府支出が縮小して1%台の低成長

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比1.5%増1(前期:同1.8%増)と低下し、市場予想2(同2.2%増)を下回る結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出と政府消費の低迷が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比8.1%増(前期:同7.8%増)と小幅に加速した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同36.9%増)は大幅な増加が続いたほか、娯楽・文化(同6.2%増)やその他財サービス(同5.5%増)、食料・飲料(同4.4%増)、住宅・水道・電気・燃料(同4.4%増)、交通(同4.3%増)、保健衛生(同4.3%増)も順調に増加した。一方、家具 、備品、メンテナンス(同1.4%減)は減少、通信(同2.7%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同4.9%減(前期:同4.3%減)と低迷した。現物社会給付が同38.6%減と減少したほか、財・サービスの購入(同0.5%増)と雇用者報酬(同0.2%増)が小幅の増加にとどまった。

総固定資本形成は同1.5%増となり、前期の同0.4%増に続いて低調だった。投資の内訳を見ると、民間投資が同3.1%増(前期:同1.0%増)と持ち直したが、公共投資が同2.6%減(前期:同1.1%減)と低迷した。

在庫投資は成長率寄与度が▲7.1%ポイントと、前期の▲1.5%ポイントからマイナス幅が拡大して成長率を押し下げた。米や砂糖、宝石類、プラスチック・ゴム、医薬品、コンピュータ・周辺機器などの在庫が減少しており、在庫調整が進んでいる様子がみられた。

純輸出は成長率寄与度が+8.0%ポイントとなり、前期の+2.1%ポイントから拡大した。まず財・サービス輸出は同0.2%増(前期:同0.6%増)と鈍化した。サービス輸出が同23.1%増と大幅に増加したものの、財貨輸出が同3.1%減(同5.7%減)と低迷した。一方、財・サービス輸入は同10.2%減(前期:同2.3%減)と更に落ち込み、輸出の伸びを下回った。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の減少が成長率低下に繋がった(図表2)。

鉱工業は同2.8%減(前期:同2.0%減)となり、4四半期連続で減少した。まず主力の製造業は同4.0%減(前期:同3.2%減)と低迷した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同5.1%減)、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同3.7%減)、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同3.5%減)が揃ってマイナス成長となった。一方、鉱業は同1.1%増(前期:同1.2%減)と、天然ガスとコンデンセートの生産量が改善して9期連続ぶりに増加したほか、電気・ガス業が同4.7%増(前期:同5.7%増)と順調に増加した。

一方、全体の6割を占めるサービス業は同3.9%増となり、前期の同4.0%増から概ね横ばいの伸びとなった。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同14.9%増)が二桁成長となり、運輸・倉庫業(同6.8%増)と、金融・保険業(同4.7%増)、保健衛生・社会事業(同4.7%増)、小売・卸売業(同3.3%増)、情報・通信業(同3.1%増)は順調に増加した。一方、管理及び支援サービス(同2.3%増)と不動産業(同1.9%増)、芸術・娯楽等(同1.8%増)、教育(同0.8%増)、建設業(同0.6%増)は緩慢な伸びにとどまった。

農林水産業は前年同期比0.9%増(前期:同1.2%増)と鈍化した。干ばつによりコメ(同3.2%減)やアブラヤシ(同16.8%減)、キャッサバ(同22.9%減)などの主要作物の収量の減少が響いた。
 
1 11月20日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2023年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は7-9月期の成長率が前年同期比+1.5%となり、4-6月期の同+1.8%に続いて2期連続で1%台の低成長となった。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、7-9月期には成長率が同+4.6%と加速したが、現在は成長ペースが大きく鈍化している。

7-9月期は輸出と政府支出の低迷により成長率が低下した。まず財貨輸出(前年同期比▲3.1%)は4期連続で減少した。世界経済の減速による外需の悪化やソリッドステートドライブ(SSD)の普及を背景とするハードディスクドライブ(HDD)の需要減退等により主要輸出品であるコンピュータ部品(同▲32.7%)が減少した影響が大きい。またゴム(同▲33.8%)や化学・石油化学製品(同▲12.7%)、食品(同▲6.2%)、金属・鉄鋼(同▲3.9%)などの輸出が減少した。

政府消費(同4.9%減)も縮小、5四半期連続のマイナス成長となった。2022年のコロナ関連の高水準の医療費支出の反動減により現物社会給付(同38.6%減)が減少したことが響いた。

一方、インバウンド需要の回復は引き続き景気の下支え役となった。タイでは入国規制を緩和した昨年から外国人観光客数が増加している。7-9月期の外国人観光客数は708万人とアジアからの観光客を中心に増加、コロナ禍前の7割の水準まで持ち直した結果、サービス輸出(同+23.1%)が好調だった(図表3)。こうした観光業の回復により雇用情勢が改善して、失業率は1%前後の低水準で推移すると共に家計の収入も増加、そして消費者信頼感指数の回復が続いた(図表4)。加えて、7-9期はインフレ率が更に低下して家計の購買力が向上したこともあり、民間消費(同+7.8%)が加速した。

投資(同+1.5%)も加速したが、緩慢な伸びにとどまった。タイでは5月の総選挙の後、遅れていた新政権の発足により政治の不透明感が和らいだため、工場建設が加速するなど民間投資(同+3.1%)が回復した。一方で交通インフラの維持管理費用が減少するなど公共投資(同▲2.6%)は低迷した。
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイの産業景況感と消費者信頼感
このように7-9月期は成長率が2四半期連続で低下することとなったが、消費と投資(在庫投資を除く)からなる内需は前年同期比+4.4%と、前期の同+4.0%から伸びが加速した。観光業の回復により消費が堅調に推移しているため、表面の数値が示すほどタイ経済は弱くないとみられる。

先行きは成長率が次第に上向くものの、緩やかな伸びが続くこととなりそうだ。タイでは10月から始まる2024年度予算の編成の遅れにより、公共投資の停滞が引き続き景気の重石となるだろうが、足元では輸出が底入れしており今後は外需による成長率の押し下げが縮小するだろう。またタイ新政府は来年5月から16歳以上の5000万人の国民を対象にデジタル通貨1万バーツを配付する方針を示しており、個人消費の追い風となると見込まれる。このように内外需要が順調に推移するようになると、企業は控えていた設備投資を再び活発化させるとみられる。しかしながら、海外経済の先行きは不透明感が強く、輸出の大幅な回復は期待できない。タイ政府は2024年の輸出が前年比+3.8%(23年:同▲2.0%)と増加し、成長率が2.7%~3.7%と今年の2.5%から上昇すると予測している。現在の観光頼みの危うい経済から脱却できるか、新政府の経済運営に集まっている。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年11月20日「経済・金融フラッシュ」)

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