2023年11月09日

フィリピン経済:23年7-9月期の成長率は前年同期比5.9%増~政府支出の拡大で4四半期ぶりに成長加速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期5.9%増1(前期:同4.3%増)と上昇し、市場予想2(同4.7%増)を上回る結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、政府消費の回復と総固定資本形成の加速が成長率上昇に繋がった。

まず民間消費は前年同期比5.0%増(前期:同5.5%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同15.4%増)とレストラン・ホテル(同14.9%増)、交通(同14.5%増)が二桁成長となったほか、保健(同6.0%増)と教育(同6.5%増)、通信(同5.6%増)が堅調に推移した。一方、衣服・履物(同11.4%減)と家具・住宅設備(同1.1%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.3%増)と住宅・水道光熱(同4.5%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同6.7%増(前期:同7.1%減)となり回復した。

総固定資本形成は同7.9%増(前期:同4.0%増)と上昇した。設備投資は同1.7%増(前期:同10.5%増)と失速したものの、建設投資が同12.4%増(前期:同2.4%増)が急上昇した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同9.4%増)が好調だったが、前期に回復した産業用機械(同14.2%減)が急減したほか、一般工業機械(同0.4%増)が停滞した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.4%ポイントとなり、前期の+1.1%ポイントから改善した。まず財・サービス輸出は同2.6%増(前期:同4.4%増)と鈍化した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同11.7%増)が好調を維持したが、財貨輸出(同2.6%減)が低迷した。一方、財・サービス輸入は同1.3%減(前期:同0.2%増)と小幅に減少した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第三次産業と第二次産業の加速が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同6.8%増(前期:同6.0%増)と加速した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同20.0%増)と運輸・倉庫業(同11.6%増)が二桁成長となったほか、金融・保険業(同9.5%増)と専門・ビジネスサービス業(同6.6%増)、教育(同6.1%増)が堅調な伸びとなった。しかし、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.0%増)や、情報・通信業(同4.4%増)、不動産業(同4.2%増)、行政・国防(同3.6%増)は緩やかな伸びにとどまった。

また第二次産業は同5.5%増(前期:同2.1%増)と持ち直した。まず製造業は同1.7%増(前期:同1.1%増)と伸び悩んだ。製造業の内訳をみると、石油製品(同53.3%増)や化学製品(同6.6%増)、輸送用機器(同10.3%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同1.6%増)や食品加工(同0.3%増)など低調な業種が多かった。他方、建設業(同14.0%増)と電気・ガス・水道(同7.0%増)が加速したほか、鉱業・採石業(同4.5%減)が3期ぶりの増加に転じた。

第一次産業は前年同期比0.9%増(前期:同0.2%増)となり小幅な増加にとどまった。家畜(同2.7%増)と家禽(同2.9%増)は増加したものの、サトウキビ(同20.2%減)やココナッツ(同1.5%減)、キャッサバ(同2.9%減)などの農作物、漁業・養殖業(同4.1%減)が減少した。
 
1 2023年11月9日、フィリピン統計庁(PSA)が2023年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、2022年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と上昇するなど好調だった。しかし、今年4-6月期は物価高と金利上昇を受けて成長率が前年同期比+4.3%と伸び悩むなど3四半期連続で成長率の低下が続いていたが、今回発表された7-9月期の成長率は同+5.9%と勢いが回復した。

7-9月期の景気回復は内需が持ち直した影響が大きい。まず総固定資本形成は同+7.9%となり、伸び悩んだ前期の同+4.0%から回復した。設備投資(同+1.7%)は外需低迷や金利上昇などから企業部門の投資意欲が乏しかったが、建設投資(同+12.4%)が好調で投資全体を押し上げた。マルコス大統領はドゥテルテ前政権が推進した大規模インフラ整備計画を拡大させており、7-8月平均のインフラ支出は前年同期比+54.7%と大きく伸びている。また政府消費(同+6.7%)は、昨年の大統領・副大統領選の実施に伴う支出拡大の反動減により押し下げられた前期の同▲7.1%から回復した。

GDPの約7割を占める民間消費は前年同期比+5.0%(前期:同+5.5%)と鈍化した。足元ではインフレが落ち着きつつあるものの、7-9期の消費者物価上昇率は前年同期比+5.4%と高めの水準にある上(図表3)、昨年5月から実施しているフィリピン中銀の金融引き締めは累計利上げ幅が+4.5%に達するなど、物価高と金利上昇が内需の下押し要因となっている。またフィリピン中銀の金融引き締めにより通貨ペソが今年に入って底堅く推移しており、海外就労者の送金額(ペソベース)が7-8月平均で同+2.1%と伸び悩んだことも、消費の減速に繋がったとみられる。

外需については、輸入減少により純輸出の成長率寄与度が小幅に改善したものの、財貨輸出(同▲2.6%)は海外需要の縮小により電子部品(同▲0.7%)や農産品(同▲18.6%)など主要輸出品の出荷が低調だった。昨年2月以降の入国規制の段階的緩和によりインバウンド需要が回復して、輸出全体の4割を占めるサービス輸出(同+11.7%)は好調を維持したが、財貨輸出の落ち込みを相殺するには至っていない。

フィリピン経済は7-9月期に景気回復したとはいえ、政府消費と政府のインフラ投資が拡大した影響が大きく、民間部門の勢いは鈍っている。インフレ率は年内に中銀の物価目標圏内(+2~4%)に落ち着くとみられるが、当面は米国の金融引き締めの長期化を受けてフィリピン中銀も高金利を維持すると予想される。また外国人観光客数はコロナ禍前の7割弱の水準まで戻ったものの、足元では回復の動きが鈍っており(図表4)、昨年から続く観光関連産業を中心とした雇用情勢の改善は一服したかにみえる。このため、当面は企業の投資と個人消費は伸び悩む展開が続きそうだ。今年1-9月累計の成長率は前年同期比5.5%となった。今後も政府部門が景気を下支えるだろうが、政府の通年目標(+6.0~7.0%)の達成は極めて難しい状況だ。
 
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)フィリピン訪比外客数
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年11月09日「経済・金融フラッシュ」)

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