2023年08月10日

フィリピン経済:23年4-6月期の成長率は前年同期比4.3%増~物価高と金利上昇による消費の鈍化で景気減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期4.3%増1(前期:同6.4%増)と低下し、市場予想2(同6.0%増)を大きく下回る結果となった(図表1)。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、内需の鈍化が成長率低下に繋がった。

まず民間消費は前年同期比5.5%増(前期:同6.4%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、交通(同30.1%増)とレストラン・ホテル(同23.3%増)、娯楽・文化(同20.1%増)が二桁成長となったほか、保健(同8.7%増)と教育(同7.0%増)、住宅・水道光熱(同6.1%増)が高めの伸びとなった。一方、衣服・履物(同27.3%減)と家具・住宅設備(同2.7%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.4%増)と通信(同5.0%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同7.1%減(前期:同6.2%増)と減少した。

総固定資本形成は同3.9%増(前期:同10.9%増)と低下した。設備投資は同10.8%増(前期:同8.1%増)と加速したが、建設投資が同2.1%増(前期:同14.6%増)が失速した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同16.9%増)と一般工業機械(同13.6%増)が二桁成長となったほか、前期まで低迷していた産業用機械(同6.6%増)が回復した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.9%ポイントとなり、前期の▲1.6%ポイントからプラスに転じた。まず財・サービス輸出は同4.1%増(前期:同1.0%増)と加速した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同0.9%減)が低迷したものの、サービス輸出(同9.6%増)が好調を維持した。一方、財・サービス輸入は同0.4%増(前期:同4.7%増)と更に鈍化した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第三次産業と第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同6.0%増と堅調を維持したが、高成長だった前期の同8.4%増から鈍化した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同28.3%増)と運輸・倉庫業(同17.3%増)が二桁成長となり、専門・ビジネスサービス業(同6.8%増)と教育(同6.4%増)が堅調だった。しかし、全体の約2割を占める卸売・小売(同5.3%増)や金融・保険業(同5.0%増)、情報・通信業(同4.1%増)、不動産業(同2.8%増)が鈍化したほか、行政・国防(同2.4%減)は減少した。

第二次産業は同2.1%増(前期:同4.0%増)と鈍化した。まず製造業は同1.2%増(前期:同1.9%増)と停滞した。製造業の内訳をみると、石油製品(同15.7%増)や輸送用機器(同12.9%増)は好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同2.3%減)をはじめ、一般機械(同17.0%減)や化学製品(同4.9%減)、食品加工(同2.4%増)など低調な業種が多かった。また建設業(同3.5%増)と電気・ガス・水道(同4.8%増)が伸び悩んだほか、鉱業・採石業(同3.5%減)は2期連続で減少した。

第一次産業は前年同期比0.2%増(前期:同2.2%増)と低下した。漁業・養殖業(同13.7%減)は2期ぶりに減少したほか、コメ(同2.3%増)やバナナ(同0.7%増)、ココナッツ(同2.3%増)、トウモロコシ(同0.8%減)などの作物、家畜(同1.6%増)、家禽(同1.2%増)が低調だった。
 
1 2023年8月10日、フィリピン統計庁(PSA)が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、2022年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と上昇するなど好調だったが、今回発表されたGDP統計は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+4.3%(前期:同+6.4%)と低下し、過去2年間の+6%以上の高成長から鈍化した。

4-6月期の景気減速は内需が鈍化した影響が大きい。GDPの約7割を占める民間消費は前年同期比+5.5%(前期:同+6.4%)と鈍化した。フィリピンは足元でインフレが鈍化傾向にあるものの、食品価格の高騰やペソ安に伴う輸入インフレなどにより4-6月期の消費者物価上昇率は前年同期比+6.0%と高水準で推移しており(図表3)、また昨年5月からフィリピン中銀が実施した金融引き締めにより累計利上げ幅は+4.25%に達している。こうした物価高と金利上昇が内需の下押し要因となると共に、前年同月の大統領選挙実施の反動減やリベンジ消費の一巡も支出の鈍化に繋がったものとみられる。もっともフィリピンは昨年からの一連のコロナ規制の緩和により観光関連産業を中心に雇用情勢が改善して6月の失業率は4.5%と、前年同月の6.0%から低下しており、またペソ安を背景に海外就労者の送金額(ペソベース)が4-5月平均で同+9.9%と高水準だったため、消費は大幅な減速を免れた。このほか、投資の鈍化(前年同期比+3.9%)や政府支出の縮小(同▲7.1%)も成長の押し下げ要因となった。

一方、純輸出は改善した。財貨輸出(同▲0.9%)は海外経済の減速を背景に電子部品(同+2.1%)や農産品(同▲25.1%)など主要輸出品の出荷が低調だったが、輸出全体の4割を占めるサービス輸出(同+9.6%)が好調を維持した。フィリピンは昨年2月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。4-6月期の外国人観光客数は130万人となり、コロナ禍前の6割強の水準まで回復している(図表4)。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)フィリピン訪比外客数
フィリピン経済は4-6月期の成長率が低下したことで今年の政府の成長目標(+6.0~7.0%)の達成は難しくなった。当面は輸出停滞により昨年ほどの高成長は望めない。インフレ率は年内に中銀の物価目標圏内(+2~4%)に沈静化し、今年7月のマニラ首都圏の最低賃金引き上げ(上昇率+7.1%)も民間消費の追い風になるだろうが、7月の大型台風とエルニーニョ現象の悪影響により食品価格が高騰する可能性もあり、年内は高金利が維持されるものと予想される。もっとも政府は外国人観光客数が今年480万人(昨年265万人)に達すると予測しており、観光業関連産業の回復により雇用情勢の安定が続くとみられるため、内需を中心とした底堅い成長は続きそうだ。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月10日「経済・金融フラッシュ」)

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