2023年08月07日

インドネシア経済:23年4-6月期の成長率は前年同期比+5.17%~消費と投資が回復して7四半期連続の+5%成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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インドネシアの2023年4-6月期の実質GDP成長率1は前年同期比(原系列)5.17%増(前期:同5.04%増)と上昇し、市場予想2(同+5.00%)を上回る結果となった。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費と投資の拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.30%増(前期:同4.58%増)と上昇した。費目別に見ると、引き続き輸送・通信(同7.53%増)とホテル・レストラン(同6.76%増)が堅調に拡大した一方、食料・飲料(同3.84%増)や住宅設備(同3.80%増)が伸び悩んだ。保健・教育(同5.51%増)はコロナ後で最も高い伸びとなった。

政府消費は前年同期比10.62%増(前期:同3.45%増)となり、二桁成長に加速した。

総固定資本形成は前年同期比4.63%増(前期:同2.11%増)と持ち直した。機械・設備投資(同7.67%増)が再び加速すると共に、前期まで停滞していた建設投資(同3.32%増)が持ち直した。

純輸出は成長率寄与度が▲0.04%ポイントとなり、前期の+2.01%ポイントから大幅に低下した。まず財・サービス輸出は前年同期比2.75%減(前期:同12.17%増)と急減し、2年半ぶりのマイナス成長となった。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同43.14%増)は好調を維持したものの、財輸出(同5.64%減)が落ち込んだ。また財・サービス輸入も同3.08%減(前期:同3.80%増)と減少し、輸出を下回る伸びとなった。
(図表1)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドネシア 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業と第三次産業の拡大が成長率上昇に繋がった(図表2)。

第三次産業は前年同期比7.15%増(前期:同6.08%増)と加速し、3四半期ぶりの+7%成長となった。内訳を見ると、運輸・倉庫(同15.28%増)とその他サービス(同11.89%増)をはじめとしてホテル・レストラン(同9.89%増)やビジネスサービス(同9.59%増)、行政・国防(同8.15%増)、情報・通信(同8.02%増)が好調だったほか、構成割合の大きい卸売・小売(同5.25%増)や教育サービス(同5.43%増)も堅調に拡大した。一方、金融・不動産(同2.08%増)は引き続き伸び悩んだ。

第二次産業は前年同期比4.94%増(前期:同3.42%増)と加速した。内訳を見ると、全体の2割を占める製造業(同4.88%増)と鉱業(同5.01%増)が堅調に推移すると共に、建設業(同5.23%増)と電気・ガス・水供給業(同3.15%増)が回復した。

第一次産業は前年同期比2.02%増(前期:同0.43%増)と上昇した。
 
1 2023年8月7日、インドネシア統計局(BPS)が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

インドネシア経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により2022年は成長率が前年比+5.31%(2021年:同3.70%増)と上昇するなど景気回復が続いた。そして今回発表されたGDP統計では、2023年4-6月期の実質GDP成長率(前年同期比+5.17%)と過去3四半期で最も高い水準となり、順調な成長が続いていることが明らかとなった。

4-6月期は世界経済の減速と一次産品価格の下落により輸出が落ち込んだにもかかわらず、消費と投資の回復に支えられて成長が加速した。まずGDPの半分以上を占める民間消費(同+5.30%)は昨年の一連の行動制限の緩和によりコロナ前の生活に近づくなかで依然として活発であり前期の同+4.58%から加速した。今年6月にはジョコ大統領が新型コロナウイルス感染症についてパンデミック状態からエンデミックに移行したと宣言、感染対策として適用していた国内外での移動や大規模イベント、公共施設でのマスク着用義務が廃止された。またインドネシア中銀の金融引締め策は引き続き民間消費の重石となっているとみられるが、足元ではインフレ圧力が後退しており4-6月期の消費者物価上昇率が前年同月比+3.9%と、インドネシア中銀の物価目標圏内(+2~4%)まで低下したほか(図表3)、23月3月の貧困率が9.36%と、前回調査(22年9月:9.57%)から0.21%ポイント低下するなど、物価・雇用指標の緩やかな改善が消費の拡大に繋がったとみられる。また投資(前年同期比+4.63%)は建設投資と機械・設備投資がそれぞれ回復して3四半期ぶりに上昇したが、先行きの不透明感が強いなかで企業の様子見姿勢がうかがわれる。

一方、財・サービス輸出(同▲2.75%)は前期の二桁成長(同+12.17%)から急減して、純輸出の成長率寄与度がマイナスとなった。財貨輸出(前年同期比▲5.64%)は昨年の一次産品主導の輸出ブームによって前期まで好調に推移していたが、パーム油や石炭など主力輸出品の価格下落や世界的な需要の低迷により落ち込んだ。一方、サービス輸出(同+43.14%)はインバウンド需要の回復により大幅な増加が続いた。インドネシアでは昨年3月以降、入国規制が段階的に緩和されており、今年6月の外国人旅行者数は前年比120%増の106万人となり、コロナ禍前の約8割の水準まで回復している(図表4)。
(図表3)インドネシアのインフレ率と政策金利/(図表4)インドネシアの外国人観光客数
先行きは一次産品価格の下落と世界需要の鈍化を背景とした輸出低迷が続くことにより当面景気に下押し圧力がかかるだろうが、足元のインフレは沈静化しており消費者の購買力の増加などから個人消費が堅調に推移することにより底堅い成長を維持するだろう。また来年2月には大統領選挙を控えており、今年後半には選挙関連支出によるGDPの押し上げが見込まれる。さらに足元では政策金利の引下げ余地が広がっている。インドネシア中銀は今年2月から6ヵ月連続で政策金利を据え置いているが、今年末にかけて景気下支えを目的に金融緩和を実施する展開が予想される。もっとも世界経済の不確実性の高まりやエルニーニョ現象を背景とした干ばつに伴う食品インフレなどのリスクが顕在化した場合は物価と通貨の安定を優先して金融緩和が見送られる可能性もある。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月07日「経済・金融フラッシュ」)

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