2023年05月12日

マレーシア経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比+5.6%~輸出悪化で景気減速も、内需を中心に堅調を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

2023年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.6%増1(前期:同7.1%増)と低下したものの、市場予想2(同5.1%増)を上回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、輸出の急減と内需の鈍化が成長率低下に繋がった。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比5.9%増となり、前期の同7.3%増から低下したものの、堅調な伸びを維持した。

政府消費は前年同期比2.2%減(前期:同3.0%増)と減少した。

総固定資本形成は同4.9%増(前期:同8.8%増)と低下した。建設投資が同7.5%増(前期:同9.9%増)と堅調に拡大したが、設備投資が同2.6%増(前期:同8.6%増)と鈍化した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同4.7%増となり、公共部門の伸び(同5.7%増)を下回った。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.1%ポイント(前期:+1.5%ポイント)と拡大した。まず財・サービス輸出は同3.3%減(前期:同8.6%増)と減少した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同8.5%減)が前年割れとなる一方、サービス輸出(同58.2%増)は大幅な伸びが続いた。また財・サービス輸入も同6.5%減(前期:同7.2%増)と減少した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、第二次産業と第三次産業の鈍化が成長率低下に繋がったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比7.3%増(前期:同9.1%増)と堅調な伸びを維持した。運輸・倉庫(同17.0%増)と宿泊・飲食業(同12.0%増)、不動産・ビジネスサービス(同11.6%増)が前期に続いて二桁成長となり、また卸売・小売(同9.4%増)も好調だった。一方、金融・保険(同1.9%増)や情報・通信(同3.8%増)、政府サービス(同5.1%増)は比較的緩やかな伸びにとどまった。

第二次産業は前年同期比3.5%増となり、前期の同4.7%増から低下した。まず製造業は同3.2%増(前期:同3.9%増)と鈍化した。内訳を見ると、動植物性油脂(同13.5%増)と輸送用機器(同8.3%増)、石油製品(同6.3%増)は上昇したが、ゴム製品(同7.2%減)が低迷、主力の電子機器(同5.0%増)や化学製品(同2.6%増)、食品加工(同4.1%増)は鈍化した。また建設業は同7.4%増(前期:同10.1%増)、鉱業は同2.4%増(前期:同6.3%増)となり、それぞれ鈍化した。

第一次産業は同0.9%増(前期:同1.1%減)と小幅に低下した。主要産品であるパーム油(同3.4%増)こそ増加したものの、産業(同2.6%減)や漁業・養殖業(同1.4%減)が前期に続いて減少、その他農業(同2.6%減)も前年割れとなった。
 
1 2023年5月12日、マレーシア中央銀行が2023年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は2023年1-3月期の成長率が前年同期比+5.6%となり、10-12月期の同+7.1%から減速した。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、通年の成長率が前年比+8.7%(2021年:同+3.1%)と大きく上昇したが、現在はベース効果やペントアップ需要の押し上げ効果が薄れるなかで成長ペースは減速傾向にある。もっとも、コロナ禍前の成長率が5%程度であったことを踏まえると、1-3月期も堅調な成長ペースを維持したと言える。

1-3月期の景気減速は輸出の急減と内需の鈍化が響いた。まず前期まで好調だった財貨輸出(同▲3.3%)は世界経済の減速により電気・電子産業をはじめとする輸出志向の製造業活動が減速して急減した。外需の悪化やコスト上昇などから企業の設備投資マインドが低下して設備投資(同+2.6%)が伸び悩み、総固定資本形成(同+4.9%)も鈍化した。もっとも建設投資(同+7.5%)はインフラプロジェクトの継続により土木事業(同+16.0%)を中心に堅調な拡大が続いたため、総固定資本形成の停滞は回避された。

他方、サービス輸出(同58.2%増)は前期に続いて大幅に増加した。マレーシアは昨年4月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。今年3月の国内空港利用者数をみると、国内線がコロナ禍前の9割まで、国際線も6割強まで持ち直してきている(図表3)。

また民間消費(同+5.9%)は前期の同+7.3%から増勢が鈍化したものの、堅調な伸びを維持、前期比でみても+2.0%と増加するなど景気のけん引役となっている。マレーシアは昨年からの一連のコロナ規制の緩和により観光関連などのサービス業を中心に回復しており、2023年3月の雇用者数は前年同月比3.4%増の1,622万人と20カ月連続で増加、雇用所得環境の改善が消費の拡大に繋がっている(図表4)。
(図表3)マレーシア国内空港利用者数/(図表4)マレーシア雇用統計
マレーシア経済は当面はベース効果やペントアップ需要の押し上げ効果が薄れるなかで成長率の低下が続きそうだ。輸出は世界経済の減速により低迷すると予想され、またインフレ進行と金融政策正常化の利上げによる内需の減速も予想される。消費者物価上昇率は2023年3月が前年同月比+3.4%と、今年1月からの電力料金の一部引き上げで2%を下回ったコロナ禍前の水準と比べて高めの水準にある。またマレーシア中銀は国内経済の底堅さを背景に今年5月にも0.25%の追加利上げを実施して、政策金利をコロナ禍前の3%台に回復させている。

しかしながら、年後半は中国経済の再開によって輸出が持ち直しに向かうとみられる。また外国人観光客の更なる回復により良好な雇用情勢が続くほか、政府の低・中所得層向けの支援策により消費は底堅い伸びを保つだろう。さらに2023 年度国家予算は公共投資を中心とした開発支出が35.5%増の970億リンギに拡充されており、東海岸鉄道(ECRL)や軽量高架鉄道3号線(LRT3)、パン・ボルネオ・ハイウェイなどの大型インフラ整備計画の継続的な実施も投資の下支えとなる。内需の底堅い成長が維持されることで景気後退は回避される見通しだ。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年05月12日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【マレーシア経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比+5.6%~輸出悪化で景気減速も、内需を中心に堅調を維持】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

マレーシア経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比+5.6%~輸出悪化で景気減速も、内需を中心に堅調を維持のレポート Topへ