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- Meta、ByteDanceのDSA違反の可能性-欧州委員会による暫定的見解
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コラム
2025年11月06日
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要旨
- 欧州委員会は、MetaとByteDanceに対してDigital Services Act(DSA)違反であるとの暫定的見解を示したことを公表した。
- 指摘事項は3点あるが、最も重要な点としては、Metaに対して違法コンテンツにかかる「通知と措置の仕組み」の通知の仕組みが複雑すぎるとの指摘がある。これによりDSAの基本的な投稿削除等の仕組みが動かない可能性がある。
- 日本の該当法ではDSAにあるような通知を「容易に行うことができるような措置」といった規定振りではなく、単に「方法を定め、公表しなければならない」とだけしており、日本への影響は大きくないと考えられる。
2025年10月24日、欧州委員会はTikTokとMetaがデジタルサービス法(Digital Services Act、以下、「DSA」)に違反している可能性があるとの暫定的見解を公表した1。DSAは、偽情報や犯罪を招きかねない情報など違法コンテンツ(illegal content)全般についてオンラインプラットフォームから排除することを目的とする、EU全体に適用される規則である2。
今回、暫定的見解でDSA違反嫌疑があるとされた行為は三点である。
一つ目は、Facebook、Instagram(以上の運営はMeta)、TikTok(同ByteDance)に関する指摘である。DSAでは、特に大きなオンラインプラットフォーム提供者(MetaおよびByteDanceが該当する。以下、「提供者」)は、当局が認定した研究者に対して、システミックリスクの特定や理解に資する目的で、公表データ3へアクセスすることを認めなければならない(DSA40条4項、前文98)とされている。システミックリスクとはプラットフォームにおいて違法・不適切な情報が大規模に拡散するリスクのことであるが、これを抑止するために専門家の研究が不可欠との認識に立つ規定である。MetaとByteDanceは認定研究者に対する公表データの提供にあたって、不当に過重な請求手続きを課したことが当該規定に違反していると判断された。
二つ目はMetaにのみ関する指摘である。DSAでは違法コンテンツの削除にあたり「通知と措置の仕組み(Notice and Action mechanisms)」を取り入れている。これは利用者から、違法コンテンツがプラットフォーム上に存在するという申し出を受けて、提供者が削除等の対応を行うこととなる手続きである(DSA16条1項、6項)。
この仕組みは違法コンテンツの削除等に向けた、DSAでも核心となる規定である。そのため、提供者は通知が容易に行えるよう、適切な措置を講じる必要がある(DSA16条2項)。ところが、Metaは児童に対する虐待やテロ行為を助長するおそれのあるコンテンツについて違法コンテンツであるとして通知を行おうとする利用者に対して不必要な手続きと追加的な要求を行っていると認められた。欧州委員会はMetaの採用している通知と措置の仕組みは、ダークパターン(利用者に意図せずに不利な選択をさせる仕組み)か、あるいは欺瞞的な画面配置であるとまで述べている。
これら公表文に記された文言からも欧州委員会の危機意識が読み取れる。この仕組みが適切に機能しない場合、違法コンテンツの発見が阻害され、DSA全体の実効性が損なわれることになる。
三つ目もMetaにのみ関する指摘である。DSAは利用者(法文上は通知を行った利用者およびコンテンツを投稿した者の両方を含む)に対して、提供者がおこなった投稿を削除するかどうか、あるいはアカウントを停止するかしないかといった措置決定(content moderation decisions)への異議申し立てを社内苦情処理制度および裁判外紛争解決制度に対して行うことができるとされている(DSA20条、21条)。
欧州委員会はMetaの異議申し立ての制度では、利用者の申し立てを補強する説明を行うこと、あるいは証拠を提示することを認めるようにはみることができないとする。このため、Metaの異議申し立て制度は実効的なものになっていないと指摘している。
今般の暫定的見解を受けて、MetaおよびByteDanceは書面にて意見を述べることができ、指摘事項について修正することができる。他方、暫定的見解が最終的に確認された場合には、世界売上高の6%を上限とする制裁金が命ぜられる可能性があるとする。
次に、これらの動きが日本に与える影響について考察する。ここでは最も重要な通知と措置の仕組みに関して考えてみる。日本では「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下、「対処法」)」が「通知と措置の仕組み」に類似した規定を定めている(対処法22条、25条)。ただ、対処法違反は即座に制裁金や課徴金の対象になるわけではなく、いったん総務大臣の是正措置の勧告や命令を行うこととされている(対処法30条1項、2項)。命令違反に対しては刑事罰が科される(対処法35条、37条)。
また、対処法では利用者からの申出(DSAの通知に該当)を行うための「方法を定め、公表しなければならない」とだけしており、DSAのような「容易に行うことができるような措置」という書き方をしていない。このように、対処法には手続きの容易性に関する明文規定がないため、Metaの手続きが複雑であることのみを理由に、直ちに勧告等を行うことは難しい4。現時点では日本への直接的影響は限定的と考えられるが、制度趣旨等を踏まえた観点から今後の検討が必要である。
1 https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/commission-preliminarily-finds-tiktok-and-meta-breach-their-transparency-obligations-under-digital 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行-欧州における違法コンテンツへの対応」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74016_ext_18_0.pdf?site=nli 参照。
3 なお、暫定的見解が発出された段階では公表データに限定されているが、2025年10月29日から一部の非公表データにもアクセスすることができるようになった。
4 手続きが実質的に申出を妨害するようなものであれば改善措置勧告等の対象になることはあり得る。
(2025年11月06日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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