2023年05月11日

フィリピン経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比6.4%増~輸出急減と物価高による消費の鈍化で景気減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

2023年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比6.4%増1(前期:同7.1%増)と低下したものの、市場予想2(同6.2%増)を上回る結果となった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、輸出の悪化と消費の鈍化が成長率低下に繋がった。

まず民間消費は前年同期比6.3%増と堅調な伸びを維持したが、前期の同7.0%増から低下した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同28.1%増)とレストラン・ホテル(同23.8%増)、交通(同14.4%)が二桁成長となったほか、保健(同7.2%増)と教育(同6.3%増)が高めの伸びとなった。一方、家具・住宅設備(同3.1%減)と衣服・履物(同3.8%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.8%増)と住宅・水道光熱(同4.3%増)、通信(同4.6%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同6.2%増(前期:同3.3%増)と上昇した。

総固定資本形成は同10.4%増(前期:同6.0%増)の二桁増となった。建設投資が同14.3%増(前期:同8.6%増)、設備投資が同7.2%増(前期:同2.6%増)となり、それぞれ加速した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同6.1%減)が落ち込んだものの、全体の約半分を占める輸送用機器(同10.9%増)と一般工業機械(同10.1%増)が好調だった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.6%ポイントとなり、前期の+1.1%ポイントから低下した。まず財・サービス輸出は同0.4%増(前期:同14.6%増)と大きく鈍化した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同19.5%増)の大幅な増加は続いたが、財貨輸出(同15.3%減)が急減した。一方、財・サービス輸入は同0.3%増(前期:同1.6%減)と停滞した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第三次産業と第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同8.4%増と堅調だったが、前期の同9.8%増から鈍化した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同26.9%増)と運輸・倉庫業(同14.3%増)が二桁成長となったほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同7.0%増)や金融・保険業(同8.8%増)、専門・ビジネスサービス業(同7.7%増)も順調に拡大した。一方、行政・国防(同1.5%増)や教育(同5.8%増)、情報・通信業(同5.1%増)、不動産業(同3.8%増)は比較的緩やかな伸びに止まった。

第二次産業は同3.9%増(前期:同4.6%増)となり、増勢が鈍化した。まず製造業は同2.0%増(前期:同3.9%増)と低下した。製造業の内訳をみると、輸送用機器(同21.8%増)や食品加工(同5.8%増)は増加したが、主力のコンピュータ・電子機器(同7.8%減)をはじめ、一般機械(同16.1%減)や化学製品(同4.4%減)、石油製品(同0.1%減)など減少した業種が多かった。また建設業(同10.8%増)と電気・ガス・水道(同6.8%増)は順調に増加したが、鉱業・採石業(同2.2%減)が減少した。

第一次産業は前年同期比2.2%増(前期:同0.3%減)と増加した。コメ(同4.5%増)やトウモロコシ(同3.2%増)、マンゴー(同7.6%増)などの作物が増加、また家畜(同5.0%増)がアフリカ豚熱の流行からの回復が続いた。このほか、家禽(同3.2%増)と漁業・養殖業(同0.3%増)も増加した。
 
1 2023年5月11日、フィリピン統計庁(PSA)が2023年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、昨年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と上昇するなど高成長となったが、今回発表されたGDP統計は2023年1-3月期の成長率が前年同期比+6.4%と、直近7四半期続いた+7%以上の成長率を下回る結果となった。

1-3月期の景気減速は外需が悪化した影響が大きい。財貨輸出(同▲15.3%)は海外経済の減速により急減、電子部品(同▲24.4%)や農産品(同▲13.7%)など主要輸出品の出荷が落ち込んだ。

またGDPの約7割を占める民間消費は前年同期比+6.3%と堅調を維持したが、前期の同+7.0%から鈍化した。フィリピンは昨年エネルギーと食品価格の高騰やペソ安に伴う輸入インフレに起因した物価上昇が続き、1-3月期の消費者物価上昇率(前年同期比+8.3%)は中銀の物価目標である+2~4%を大幅に上回った(図表3)。フィリピン中銀は昨年5月からインフレ抑制のための金融引き締めを実施しており、累計の利上げ幅は4.25%に達している。こうした物価高や金利上昇は内需の下押し要因となっているほか、リベンジ消費が一巡しつつあることも消費の鈍化に繋がったものとみられる。しかしながら、フィリピンは昨年からの一連のコロナ規制の緩和により観光関連産業を中心に雇用環境の改善が続いており、3月の失業率は4.7%と、前年同月の5.8%から低下している。また昨年大幅にペソ安が進んだため、海外就労者の送金額(ペソベース)が二桁増(1-2月平均が同+10.3%)となったことも下支えとなり、消費は大幅な減速を回避した。

一方、輸出全体の4割を占めるサービス輸出(同+19.5%)は前期に続いて大幅に増加した。フィリピンは昨年2月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。1-3月期の外国人観光客数は141万人(コロナ禍前の約6割の水準)まで回復した(図表4)。

また投資(+10.4%)は二桁増となった。フィリピン政府は9兆ペソ規模の大型インフラプロジェクト(全194件中71件はドゥテルテ前政権からの継続)を推し進めており、建設投資が好調に推移している。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)フィリピン訪比外客数
このようにフィリピン経済は1-3月期の成長率が鈍化したものの、6%を上回る成長を維持しており、政府の今年の成長率目標(+6.0~7.0%)に向けて好発進となった。先行きは当面輸出の低迷が続くため、昨年ほどの高成長は見込めないが、インフレ率は既に昨年末にピークアウトし、今年末にかけて中銀の物価目標圏内(+2~4%)まで緩和するとみられる。今後フィリピン中銀の利上げも停止に向かうだろう。政府は外国人観光客数が今年480万人(昨年260万人)に達すると予測しており、観光業関連産業の回復が続くとみられるほか、今年初の個人所得税減税による消費の押し上げ効果も期待されるため、内需を中心とした堅調な成長は続きそうだ。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年05月11日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【フィリピン経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比6.4%増~輸出急減と物価高による消費の鈍化で景気減速】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

フィリピン経済:23年1-3月期の成長率は前年同期比6.4%増~輸出急減と物価高による消費の鈍化で景気減速のレポート Topへ