2023年01月27日

フィリピン経済:22年10-12月期の成長率は前年同期比7.2%増~リベンジ消費により高成長を維持

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比7.2%増1(前期:同7.6%増)と低下したものの、市場予想2(同6.6%増)を上回る結果となった(図表1)。

なお、2022 年通年の成長率は前年比7.6%増(2021年:同5.7%増)と上昇、政府の成長率予測の6.5%~7.5%を上回った。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、消費と輸出が堅調に拡大した。

まず民間消費は前年同期比7.0%増と、前期の同8.0%増から低下したものの、堅調に推移した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同24.7%増)と娯楽・文化(同15.2%増)、教育(同11.6%増)が二桁成長となったほか、家具・住宅設備(同9.8%増)や衣服・履物(同9.8%増)、交通(同8.1%)も高めの伸びとなった。一方、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同3.8%増)や住宅・水道光熱(同4.3%増)、通信(同5.7%増)、保健(同5.6%増)は緩やかな伸びに止まった。

政府消費は同3.3%増(前期:同0.8%増)とやや持ち直した。

総固定資本形成は同6.3%増となり、前期の同9.9%増から低下した。建設投資が同8.4%増(前期:同11.2%増)、設備投資が同3.7%増(前期:同12.1%増)となり、それぞれ増勢が鈍化した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同16.3%減)が落ち込んだものの、全体の約半分を占める輸送用機器(同8.2%増)が堅調に拡大したほか、一般工業機械(同20.2%増)が大きく伸びた。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.5%ポイントとなり、前期の▲2.9%ポイントからプラスに転じた。まず財・サービス輸出は同14.6%増(前期:同13.4%増)と大幅な増加が続いた。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同21.9%増)に続いて財貨輸出(同10.6%増)も二桁増となった。一方、財・サービス輸入は同5.9%増(前期:同17.8%増)と鈍化した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、引き続き第三次産業が好調だった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同9.8%増となり、前期の同9.2%増に続いて高水準となった。宿泊・飲食業(同36.1%増)と運輸・倉庫業(同19.2%増)、専門・ビジネスサービス業(同10.0%増)が二桁成長となったほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同8.7%増)や金融・保険業(同9.8%増)、不動産業(同7.4%増)も順調に拡大した。一方、行政・国防(同3.4%増)や教育(同5.2%増)、情報・通信業(同5.6%増)は比較的緩やかな伸びに止まった。

第二次産業は同4.8%増(前期:同5.8%増)となり、増勢が鈍化した。まず製造業は同4.2%増(前期:同3.8%増)と上昇したが、緩やかな伸びにとどまった。製造業の内訳をみると、主力のコンピュータ・電子機器(同1.9%増)が小幅ながらプラスの伸びに回復、また化学製品(同10.1%増)や一般機械(同12.4%増)、輸送用機器(同13.6%増)も好調だったが、電気機械(同0.3%減)と食品加工(同2.4%増)が低調、石油製品(同5.4%増)も鈍化した。また建設業(同6.3%増)と電気・ガス・水道(同5.6%増)は底堅さを保ったが、鉱業・採石業(同1.7%増)が前期の同10.0%増から大きく鈍化した。

第一次産業は前年同期比0.3%減(前期:同2.1%増)と小幅に減少した。コメ(同2.5%減)やトウモロコシ(同7.0%減)、マンゴー(同6.1%減)などの作物が減少したほか、漁業・養殖業(同3.0%減)が低迷した。一方、家畜(同3.1%増)はアフリカ豚熱の影響から順調回復し、家禽(同1.6%増)が小幅に増加した。
 
1 2023年1月26日、フィリピン統計庁(PSA)が2022年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済はコロナ禍からの経済回復が続いている。2022年の実質GDPは前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)となり1976年以来となる高成長を記録、コロナ禍前(2019年)の水準を上回った。四半期ベースでみると、10-12月期の成長率は前年同期比+7.2%となり、7-9月期の同+7.6%から鈍化したものの、順調な成長が続いていることが明らかとなった。

10-12月期はコロナ禍が収束に向かうなかで、いわゆるリベンジ消費が続いており、GDPの約7割を占める民間消費が+7%成長を維持して景気の牽引役となった。マニラ首都圏では、昨年3月以降、新型コロナウイルス規制の基準が5段階で最も緩い「1」に引き下げられており、8月には全国の学校で対面授業を再開、9月には屋外のマスク着用義務を解除(10月に屋内の着用義務も解除)された。一連の行動制限の緩和によりコロナ前の生活に近づいていくなかで雇用環境が改善し、11月の失業率は4.2%とコロナ禍前の水準を下回るまで低下した。またペソ安を背景に海外就労者の送金額(ペソベース)が大きく増加(10-11月平均が同+20.5%)したことも消費の追い風となった。

財・サービス輸出(同+14.6%)も好調だった。輸出全体の4割を占めるサービス輸出(同+21.9%)は前期に続いて大幅に増加している。フィリピンでは今年2月以降、入国時の隔離や陰性証明書の提示を不要とするなど入国規制を段階的に緩和しており、12月の外国人観光客数は37万人(コロナ禍前の5割強の水準)まで回復(図表3)、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。また財貨輸出(同+10.6%)も電子部品の出荷が伸びて二桁成長に加速した。

一方、投資は同+6.3%となり、前期の同+9.9%から増勢が鈍化した。消費需要やインバウンド需要の回復が企業の設備投資意欲を喚起しているものの、足元の世界経済の減速やフィリピン中央銀行の急激な利上げ(22年累計で+3.5%)の影響が広がり始めている(図表4)。

このように10-12月期はコロナ禍からの経済の回復の勢いが強く、高めの成長率が続いたものの、経済成長を牽引する内需の勢いは弱まりつつある。フィリピンではエネルギーと食品価格の高騰やペソ安に伴う輸入インフレに起因した物価上昇が続いており、12月の消費者物価上昇率は前年同月比+8.1%に上昇(図表4)、中銀の物価目標である+2~4%を大幅に上回っている。足元では対米ドルでのペソ安進行に歯止めが掛かり、近いうちにインフレはピークを迎えるものの、当面は高止まりするだろう。このためフィリピン中銀は年前半まで金融引き締めを継続(2月の会合では0.5%の追加利上げを予想)すると予想される。こうしたインフレの高止まりや借入コストの上昇により内需(消費・投資)は下押し圧力がかかる状況が続くだろう。さらに世界経済の減速により12月の輸出額(通関ベース)が前年同月比9.7%減と急減し、好調だった輸出に変調の動きが出始めている。

従って、先行きのフィリピン経済はリベンジ消費の勢いが弱まる一方、経済への逆風は続くとみられ成長ペースの鈍化は避けられないだろう。フィリピン政府の成長率予測(2023年:+6~7%)の達成は難しそうだ。もっとも、足元の中国経済の再開はフィリピンの財貨輸出やインバウンド需要の増加につながるため、景気は底堅さを維持するだろう。
(図表3)フィリピン訪比外客数/(図表4)フィリピンのインフレ率と政策金利
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年01月27日「経済・金融フラッシュ」)

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