2023年01月10日

ASEANの貿易統計(1月号)~11月の輸出が前年割れ、世界的な景気減速の影響が鮮明に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.4%減(前月:同3.1%増)と低下し、2年3カ月ぶりに減少した(図表1)。輸出はコロナ禍で停滞した世界経済の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰により好調が続いていたが、昨年後半から資源価格の軟化や欧米を中心とした外部環境の悪化により増勢が急速に弱まってきている。先行きは中国経済の正常化や半導体不足の解消が輸出の押し上げ要因となるが、世界的な高インフレと金融引き締めを背景とした世界経済の減速によりごく緩やかな増加傾向にとどまるものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、11月は景気が減速している北米向けが同8.2%減(前月:同1.8%増)、EU向けが同0.5%減(前月:同7.2%増)と減少に転じると共に、コロナ禍からの回復に一服感がみられる東南アジア向けも同4.3%減(前月:同7.0%増)と前年割れとなった(図表2)またゼロコロナ政策の影響で中国向け(同2.2%減)が低迷して、東アジア向け(中国を含む)が同0.3%増(前月:同3.9%増)と鈍化した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.9%減(前月:同5.2%増)の290億ドルと、1年2ヵ月ぶりのマイナスの伸びとなった(図表3)。輸出の基調はコロナ禍からの世界経済の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いたが、足元では世界経済の減速により主力のスマートフォンや電子機器、縫製品の出荷が振るわず減少に転じている。また輸入額は前年同月比7.7%減(前月:同6.7%増)の282億ドルとなり、輸出同様に減少した。結果として、貿易収支は+7.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から18.3億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比15.2%減(前月:同5.4%減)と減少幅が拡大し、電気製品・同部品は同12.4%減(前月:同12.1%増)と急減した(図表4)。アパレル関連では、履物が同21.2%増(前月:同109.4%増)と大幅な伸びが続いたが、織物・衣類は同5.0%減(前月:同2.0%増)と減少した。農林水産物を見ると、コーヒー(同25.4%増)と野菜(同8.9%増)など増加した品目はあるものの、カシューナッツ(同17.5%減)や天然ゴム(同4.2%減)、水産物(同13.3%減)、コメ(同2.1%減)など総じて減少した品目が多かった。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同7.1%減(前月:同9.6%増)のマイナスの伸びとなった。また地場企業は同13.6%減(前月:同5.9%減)と3カ月連続で減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.0%減(前月:同4.4%減)の223億ドルとなり、2カ月連続で減少した(図表5)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いてきたが、足元では海外需要の鈍化や中国の都市封鎖の影響で主力の工業製品の出荷が振るわず、減少傾向に転じている。一方、輸入額は前年同月比5.6%増(前月:同2.1%減)の236億ドルとプラスの伸びに転じた。結果として、貿易収支が▲13.4億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から7.5億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同0.4%減(前月:同6.3%減)と停滞した(図表6)。製造品の内訳を見ると、主要製品である自動車・部品(同7.4%増)、機械・装置(同5.4%増)、家電製品(同6.5%増)がプラスに回復したものの、石油化学製品(同17.0%減)や金属・鉄鋼(同13.7%減)、電子機器(同0.5%減)は前月に続いて減少した。また鉱業・燃料は同33.2%減(前月:同22.6%減)と、石油製品(同32.8%減)を中心に4ヵ月連続で減少した。このほか、農産物・同加工品は同2.8%増となり、前月(同4.0%減)から持ち直した。天然ゴム(同31.5%減)やコメ(同0.8%減)が減少した一方、加工食品(同7.0%増)やゴム製品(同14.1%増)、ドリアン(同135.4%増)が増加しており、品目によってばらつきが見られた。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年11月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比4.7%増の282億ドルとなり、前月の同1.9%増から上昇した(図表7)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、足元では世界的な需要の鈍化を受けて伸び悩んでいる。一方、輸入額は前年同月比4.7%増(前月:同14.5%増)の234億ドルと鈍化した。結果として、貿易収支が+48.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から9.9億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同17.5%増(前月:同3.6%増)となり、主力の電気・電子製品(同19.6%増)を中心に再び加速した(図表8)。大幅な増加が続いた鉱物性燃料は同28.8%増(前月:同70.3%増)と鈍化した。天然ガス(同53.5%増)と原油(同77.5%増)は好調だったが、石油製品(同13.7%増)は増勢が弱まった。また化学製品(同5.6%減)と動植物性油脂(同21.1%減)は前月に続いて減少したほか、ゴム手袋(同61.3%減)がコロナ禍で需要が急増した反動で低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比5.6%増の241億ドルとなり、大幅な伸びが続いた前月の同11.9%増から鈍化した(図表9)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や国際商品市況の上昇により好調が続いたが、足元では海外経済の減速により輸出の勢いが鈍化傾向にある。一方、輸入額は前年同月比1.9%減(前月:同17.4%増)の189億ドルと減少した。結果として、貿易収支が+51.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から4.3億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同6.8%増(前月:同11.5%増)と鈍化、石油ガス輸出が同15.2%減(前月:同21.0%増)と約2年ぶりに減少した(図表10)。概ね素材産業の輸出が弱含んでおり、プラスチック・ゴム製品(同27.5%減)や織物類(同15.1%減)、木材・木製品(同39.7%減)に続いて化学製品(同9.8%減)が減少した。一方、自動車・同部品(同20.3%増)や電気機械(同14.2%増)、機械類(同4.9%増)など機械工業は底堅く推移した。また鉱産物(同13.1%増)は二桁増を維持したほか、動植物性油脂(同13.8%増)や鉄・鉄鋼(同16.9%増)は増加ペースが再び加速した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年11月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比16.5%減(前月:同10.8%減)の103億ドルとなり、2ヵ月連続の二桁減少となった(図表11)。輸出は世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、昨年後半から中国向けの輸出が振るわず減少に転じている。なお、総輸出額は同6.3%減(前月:同0.7%増)の391億ドル、総輸入額が同2.2%減(前月:同5.4%増)の365億ドルとなり、それぞれ大きく鈍化した。結果として、貿易収支が+26.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.2億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同22.0%減(前月:同13.9%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同23.2%増)が増加したものの、主力のIC(同25.5%減)やディスクメディア(同60.6%減)が落ち込んだ。また全体の約3割を占める化学品は同24.8%減(前月:同23.8%減)も弱含んだ。化学品の内訳を見ると、医薬品(同27.1%減)と石油化学製品(同22.6%減)がそれぞれ低調だった。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比13.2%増(前月:同20.3%増)の71億ドルとなり、2ヵ月連続で二桁増となった(図表13)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した世界経済の再開に伴う回復の動きに一服感がみられていたが、エレクトロニクスセクターの急増に支えられて増勢が強まっている。一方、輸入額は前年同月比1.9%減(前月:同7.5%増)の107億ドルとなり、1年10カ月ぶりのマイナスの伸びとなった。結果として、貿易収支は▲36.8億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から3.9億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同22.9%増(前月:同39.7%増)と3ヵ月連続で増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同31.2%減)の大幅な減少が続いたものの、主力の半導体デバイス(同42.5%増)が大きく増加した。その他9品目についてはその他鉱業品(同51.0%増)やイグニッションワイヤーセット(同23.1%増)や製錬銅(同8.7%増)、その他製造品(同4.8%増)が増加したものの、ココナッツオイル(同35.2%減)や金属部品(同19.2%減)、化学品(同15.1%減)、電子機器・部品(同2.9%減)、機械・輸送用機器(同0.2%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年01月10日「経済・金融フラッシュ」)

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