2022年11月21日

タイ経済:22年7-9月期の成長率は前年同期比4.5%増~観光業の回復が続き、約1年ぶりの高成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.5%増1(前期:同2.5%増)と上昇、Bloomberg調査の市場予想と一致する結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に民間部門とサービス輸出の回復が成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比9.0%増(前期:同7.1%増)と上昇した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同88.4%増)と交通(同18.7%増)が大きく上昇、娯楽・文化(同7.8%増)や保健衛生(同6.3%増)が堅調に推移したほか、食料・飲料(同3.4%増)と衣類・靴(同4.5%増)が順調に回復した。一方、住宅・水道・電気・燃料(同0.8%増)と通信(同0.2%減)は停滞した。

政府消費は同0.6%減(前期:同2.8%増)と減少した。

総固定資本形成は同5.2%増(前期:同1.0%減)とプラスの伸びに転じた。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同11.0%増(前期:同2.3%増)と二桁増となった。民間設備投資(同13.9%増)が好調だったほか、民間建設投資(同2.3%増)が8期ぶりのプラス成長となった。一方、公共投資は同7.3%減(前期:同9.3%減)と3期連続のマイナス成長となった。公共建設投資(同5.9%減)と公共設備投資(同11.6%減)が揃って減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.6%ポイントと、前期の▲0.7%ポイントから改善した。まず財・サービス輸出は同9.5%増となり、前期の同8.5%増に続いて堅調に拡大した。財貨輸出が同2.7%増(前期:同4.6%増)と鈍化したものの、サービス輸出が同87.0%増(前期:同54.5%増)と更に上昇した。一方、財・サービス輸入は同8.2%増(前期:同9.5%増)となり、小幅に鈍化した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
7-9月期の実質GDPを供給項目別に見ると、第三次産業と第二次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まず全体の6割弱を占めるサービス業は同5.3%増(前期:同4.5%増)と改善した。サービス業の内訳を見ると、ホテル・レストラン業(同53.6%増)が大幅に増加すると共に、運輸・倉庫業(同9.9%増)の伸びが加速した。このほか、保健衛生・社会事業(同3.8%増)と情報・通信業(同4.9%増)、管理及び支援サービス(同3.9%増)、小売・卸売業(同3.5%増)、不動産業(同3.0%増)、教育(同3.1%増)の緩やかな伸びが続いた一方、建設業(同2.8%減)や芸術・娯楽等(同0.5%増)、金融・保険業(同0.5%増)は停滞した。

鉱工業は同4.7%増(前期:同1.8%減)とプラス成長に転じた。まず主力の製造業は同6.3%増(前期:同0.5%減)と回復した。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同11.8%増)が3期ぶりのプラス成長となったほか、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同3.7%増)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同4.3%増)の伸びが加速した。また電気・ガス業が同5.8%増(前期:同1.4%増)と上昇した一方、鉱業は同14.8%減(前期:同22.4%減)となり、主要油田の生産量が減少して5期連続のマイナス成長となった。

農林水産業は前年同期比2.3%減(前期:同4.4%増)と減少した。キャッサバなどの作物、ドリアンやパイナップルなどの果物、漁業・養殖業の減少が影響した。
 
1 11月21日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済はコロナ禍からの回復が続いている。21年半ばにはデルタ株の感染拡大に伴い活動制限措置を厳格化した影響により実質GDPが落ち込んだが、その後は活動制限の緩和が進み、21年通年の成長率は前年比+1.5%(20年:同▲6.2%)に回復した。そして今年に入ると、成長率は1-3月期が前年同期比+2.3%、4-6月期が同+2.5%と上昇、そして今回発表された7-9月期は同+4.5%と更に伸びが加速した。

7-9月期の景気回復は、比較対象となる前年同期の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたことも影響したが、前期比(季節調整済)の成長率は7-9月期が+1.2%と、4-6月期の同+0.7%から伸びが加速しており、経済活動が順調に回復していることは確かとみられる。

タイでは今年4月にオミクロン株の感染拡大が落ち着き始めると、タイ政府は段階的にコロナ対策の規制緩和を進めてきた。タイ政府は5月にワクチン接種者に対する行動制限を緩和すると共に、隔離なしの入国制度「テスト・アンド・ゴー」などの入国規制を緩和、また6月にはパブやバー、カラオケ店などの娯楽施設の営業を再開、公共の場でのマスクの着用義務を解除、全国の警戒レベル指定を感染状況の深刻度が最も低い水準に引き下げた。そして7月には入国申請システム「タイランドパス」や医療保険証が廃止、バーやパブの営業時間が延長されるなど、更なる規制健和が進められた。

入国規制の緩和により7-9月期の外国人旅行者数は360万人(4-6月期:158万人)と急増(図表3)、また政府の国内旅行キャンペーンにより国内旅行者は5,028万人(前期:4,823万人)と引き続き増加した。GDPの約2割を占める観光関連産業を中心に経済活動が回復するなか、失業率は今年初の1.9%から9月には1.2%まで低下するなど雇用環境の改善が進んでいる。7-9月期は海外経済の減速により財貨輸出(前年同期比+2.7%)は伸び悩んだものの、コロナ規制の緩和に伴う経済活動の活発化が民間消費(同+9.0%増)と民間投資(同+11.0%)、サービス輸出(同+87%)の好調に繋がった。もっとも、コモディティ価格の上昇等によりインフレが高進(CPI上昇率:同7.2%増)したことは消費の重石となっていることも確かだ(図表4)。民間消費(季節調整済み)は前期比でみると+1.7%増(4-6月期:同+5.7%)と鈍化している。
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイのインフレ率と政策金利
タイ政府は2022年の成長率を+3.2%と、従来の予測レンジ(2.7%~3.2%)の上限を見込み、23年は+3~4%成長と予測している。23年の外国人観光客が2,350 万人(22年:1,020 万人)と更なる増加を予想し、観光関連産業の回復に支えられた成長が続くとみている。しかしながら、世界的な需要減退による財貨輸出の更なる鈍化が予想されるほか、インフレの加速に伴う金融引き締めも進められており、国内需要の回復の勢いは弱まりそうだ。タイ中銀は9月に2会合連続の利上げを実施しており、11月末の会合でも0.25%の追加利上げを行うと予想される。当面は物価の高止まりが続くなか、利上げを緩やかなペースに留めることで景気回復の腰折れを回避できるかが注目といえる。
 
 

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(2022年11月21日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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