2022年11月04日

ASEANの貿易統計(11月号)~9月は輸出減速、中国向けの回復鈍い

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年9月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比12.1%増となり、前月の同23.0%増から伸びが鈍化した(図表1)。輸出はコロナ禍で停滞した世界経済の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰により増加傾向が続いているが、足元では資源価格が頭打ちして輸出の勢いに陰りが出始めている。先行きは世界的な高インフレと金融引き締め、欧米の景気減速懸念など外需の悪化懸念はあるが、当面は中国経済の正常化や域内経済の回復、半導体不足の解消により輸出の増加傾向が続くものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、9月は中国向けの回復が鈍かったため東アジア向け(中国を含む)が同8.8%増(前月:同13.2%増)と再び鈍化した。またEU向けは同16.1%増(前月:同36.1%増)、北米向けは同13.8%増(前月:同24.7%増)と二桁増を保ったものの、それぞれ減速した(図表2)。経済活動の回復が続く東南アジア向けは同21.6%増(前月:同39.5%増)となり、相対的に高い伸びが続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比9.9%増(前月:同27.8%増)の298億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表3)。輸出の基調はコロナ禍からの世界経済の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比4.9%増(前月:同12.8%増)の283億ドルと、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+14.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から24.3億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比12.3%減(前月:同9.7%増)と減少したほか、電気製品・同部品が同7.7%増(前月:同16.5%増)と伸びが鈍化した(図表4)。一方、アパレル関連では、履物が同163.9%増(前月:同173.8%増)、織物・衣類が同18.7%増(前月:同69.3%増)とそれぞれ好調を維持した。農林水産物を見ると、カシューナッツ(同31.4%減)や天然ゴム(同6.7%減)、コメ(同6.0%減)が減少した一方、水産物(同38.6%増)が好調に推移、野菜(同8.9%増)やコーヒー(同4.9%増)の増加も続くなど、品目によってばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同14.1%増(前月:同29.9%増)と二桁増が続く一方、地場企業が同1.6%減(前月:同21.7%増)と減少した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比7.8%増(前月:同7.5%増)の249億ドルとなり、堅調な伸びが続いた(図表5)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、増勢は緩やかに鈍化しつつある。一方、輸入額は前年同月比15.6%増(前月:同21.2%増)の257億ドルとなり、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が▲8.5億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から33.6億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同4.9%増(前月:同13.8%増)と伸びが鈍化した(図表6)。製造品の内訳を見ると、主要製品である電子機器(同16.9%増)は二桁増となったが、自動車・部品(同5.0%増)、家電製品(同1.6%増)が緩やかな伸びに止まると共に、石油化学製品(同15.8%減)や金属・鉄鋼(同9.8%減)、機械・装置(同0.3%減)などが減少した。また農産物・同加工品は同3.4%減(前月:同5.9%増)と減少に転じた。加工食品(同2.9%増)が緩やかな伸びに止まったほか、ドリアン(同85.2%減)や天然ゴム(同11.0%減)、コメ(同1.0%減)が減少するなど、総じて減少した品目が多かった。他方、鉱業・燃料は同3.6%減(前月:同7.5%増)となり、石油製品(同5.2%減)を中心に2ヵ月連続で減少した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年9月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比19.3%増の317億ドルとなり、前月の同39.9%増から鈍化したものの、好調が続いた(図表7)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比21.9%増(前月:同58.1%増)の247億ドルとなり、二桁増が続いた。結果として、貿易収支が+69.8億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から31.6億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同27.2%増(前月:同40.4%増)となり、主力の電気・電子製品(同28.2%増)を中心に12カ月連続の二桁増となった(図表8)。また鉱物性燃料は同79.2%増(前月:同121.9%増)と好調だった。石油製品(同72.7%増)と天然ガス(同121.8%増)、原油(同59.8%増)の大幅な増加が続いた。このほか、化学製品(同5.9%増)と動植物性油脂(同0.7%増)はそれぞれ伸びが鈍化したほか、ゴム手袋(同61.6%減)がコロナ禍で需要が急増した反動で低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比20.2%増の247億ドルと大幅な増加が続いているが、伸び率は前月の同29.9%増から鈍化した(図表9)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した経済活動の再開や国際商品市況の上昇により好調が続いている。また輸入額も前年同月比22.0%増(前月:同32.8%増)の198億ドルと、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+49.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から7.4億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同19.3%増(前月:同28.3%増)、石油ガス輸出が同41.8%増(前月:同61.4%増)となり、それぞれ伸びが鈍化した(図表10)。電気機械(同28.1%増)や自動車・同部品(同45.0%増)、機械類(同14.2%増)、鉱産物(同56.7%増)は好調を維持したが、一次産品価格の下落傾向により動植物性油脂(同7.9%増)や化学製品(同9.8%増)、鉄・鉄鋼(同4.1%増)など増加ペースが一桁に低下した品目もある。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年9月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比1.7%減(前月:同9.1%増)の114億ドルとなり、減少した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、今年に入り増勢が弱まり、9月は1年10か月ぶりに減少した。なお、総輸出額が同14.5%増(前月:同19.2%増)の441億ドル、総輸入額が同15.7%増(前月:同28.1%増)の394億ドルとなり、それぞれ大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が+47.2億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から12.0億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同14.8%減(前月:同6.5%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同16.1%減)とディスクメディア(同45.4%減)に続いてPC(同1.8%減)が減少に転じた。一方、全体の約3割を占める化学品は同4.9%減(前月:同12.5%増)となり、4か月ぶりのマイナスの伸びとなった。化学品の内訳を見ると、医薬品(同16.7%増)は二桁増だったが、石油化学製品(同15.1%減)が落ち込んだ。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年9月の輸出額(通関ベース)は前年同月比7.0%増(前月:同2.0%減)の71.6億ドルとなり、3ヵ月ぶりに増加した(図表13)。輸出の基調はコロナ禍で停滞した世界経済の再開を受けて増加傾向が続いた後、足元では輸出の回復に一服感がみられるが、9月はエレクトロニクスセクターの急増に支えられて増加した。一方、輸入額は前年同月比14.1%増の119億ドルとなり、前月の同26.2%増から鈍化した。結果として、貿易収支が▲48.2億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から12.0億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同10.9%増(前月:同0.9%減)と4ヵ月ぶりに増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同11.2%減)が引き続き減少したものの、主力の半導体デバイス(同28.2%増)が急増した。その他9品目についてはイグニッションワイヤーセット(同25.4%増)や機械・輸送用機器(同7.5%増)、電子機器・部品(同7.0%増)、その他製造品(同5.6%増)が増加した一方、化学品(同33.5%減)や製錬銅(同22.2%減)、ココナッツオイル(同20.0%減)、その他鉱業品(同19.3%減)、金属部品(同12.3%減)がそれぞれ減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年11月04日「経済・金融フラッシュ」)

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