2022年08月09日

フィリピン経済:22年4-6月期の成長率は前年同期比7.4%増~外出・移動制限の緩和により内需が回復、5期連続のプラス成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比7.4%増1(前期:同8.2%増)と低下し、市場予想2(同8.4%増)を下回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費の鈍化と純輸出の悪化が成長率低下に繋がったことが分かる。

まず民間消費は前年同期比8.6%増(前期:同10.0%増)と鈍化した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同35.0%増)とレストラン・ホテル(同32.3%増)、交通(同25.7%増)、通信(同10.3%増)が二桁成長となったほか、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同5.8%増)や教育(同7.2%増)、住宅・水道光熱(同7.0%増)、衣服・履物(同4.5%増)は増加傾向が続いた一方で、保健(同2.4%減)が減少した。

政府消費は同11.1%増(前期:同3.6%増)と大きく上昇した。

総固定資本形成は同13.2%増(前期:同11.8%増)と、高い伸びが続いた。建設投資が同15.7%増(前期:同14.7%増)、設備投資が同11.7%増(前期:同9.9%増)となり、それぞれ伸びが加速して二桁成長となった。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同3.8%減)が減少したものの、全体の約半分を占める輸送用機器(同25.1%増)と一般工業機械(同8.2%増)の伸びが加速した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲4.0%ポイントとなり、前期の▲2.9%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず財・サービス輸出は同4.3%増(前期:同10.4%増)と、伸びが鈍化した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同12.6%増)が大きく増加したが、財輸出(同2.1%減)が減少した。一方、財・サービス輸入は同13.6%増(前期:同15.4%増)となり、二桁成長が続いた。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同9.1%増(前期: 同9.9%増)と伸びが鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。運輸・倉庫業(同27.1%増)と宿泊・飲食業(同29.9%増)が二桁成長を続けたほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同9.7%増)や行政・国防(同9.1%増)、専門・ビジネスサービス業(同7.7%増)、情報・通信業(同10.7%増)がそれぞれ底堅い伸びとなった。一方、保健衛生・社会活動(同1.8%増)や不動産業(同3.9%増)、金融・保険業(同4.2%増)は緩やかな伸びに止まった。

第二次産業は同6.3%増(前期:同10.5%増)となり、伸びが鈍化した。まず製造業は同2.1%増(前期:同9.8%増)と鈍化した。製造業の内訳をみると、化学製品(同9.6%増)の好調こそ続いたものの、主力のコンピュータ・電子機器(同1.3%増)や輸送用機器(同2.1%増)、食品加工(同2.1%増)が伸び悩んだほか、石油製品(同11.8%減)が大幅に減少した。また建設業(同19.0%増)が好調、電気・ガス・水道(同5.4%増)が底堅い伸びを維持した一方、鉱業・採石業(同7.3%減)は減少した。

第一次産業は前年同期比0.2%増(前期:同0.2%増)と停滞した。前期までアフリカ豚熱発生の影響により低迷していた家畜(同2.3%増)が回復した一方、サトウキビ(同50.1%減)やマンゴー(同3.8%減)などの農作物が減少したほか、漁業・養殖業(同2.3%減)が低迷した。
 
1 2022年8月9日、フィリピン統計庁(PSA)が2022年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は新型コロナウイルスの感染拡大を背景に2020年に景気が悪化して実質GDP成長率が前年比▲9.5%と減少したが、昨年4-6月期以降は経済活動の再開や前年同期の落ち込みからの反動増(ベース効果)によってプラス成長が続いている。今回発表された22年4-6月期の成長率は前年同期比+7.4%となり、前期の同8.2%増から低下したものの、高成長を維持した。

4-6月期は新型コロナの感染状況が落ち着き、経済活動の再開が進んだため、内需が堅調だった。1-3月はオミクロン株到来による感染拡大が生じて(図表3)、フィリピン政府は首都圏の外出・移動制限措置の警戒レベルを5段階中3番目に厳しい水準に引き上げるなどの活動制限を短期的に強化したが、4-6月は新規感染者数が平均300人弱で推移するなど感染状況が落ち着いていたため、外出・移動制限措置はほとんどの地域で規制が最も緩い水準で維持された。コロナ規制が緩和されたことで4-6月期は人流と消費者心理が改善した。実際、小売・娯楽関連施設への移動量をみると4-6月平均はコロナ前と比べて10.3%増となり、1-3月平均の同3.5%減から改善した(図表4)。また5月9日の総選挙・大統領選挙に向けて政党等による選挙関連支出が加速したことや、ペソ安を背景に海外就労者の送金が大きく増加したことも追い風となり、民間消費は同8.6%増(前期:同10.0%増)と高い伸びを維持した。          

投資は同13.2%増と大幅な増加が続いた。政権交代による政策変更の可能性にもかかわらず、企業の設備投資(同11.7%増)の抑制は見られなかったほか、5月の選挙を前に建設活動が一時禁止されていたものの、建設投資(同11.7%増)も好調だった。

財貨輸出は同2.1%減と減少した。中国の都市封鎖によるサプライチェーンの混乱や世界的な景気減速が輸出の重石となった。一方、内需の回復により財貨輸入は大幅に増加(同11.3%増)しており、外需は成長率の押し下げ要因となった。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)フィリピンの外出状況
フィリピンの足元の新規感染者数は1日4000人程度まで増加するなど感染リスクはやや高まりつつあるが、現在のところ活動制限が厳格化されるほどには感染状況や医療体制は悪化していない。今後も新型コロナウイルスワクチンの更なる普及などにより、当面は感染が抑制された状況が続いて企業・消費者マインドの改善や雇用情勢の改善を通じて内需の回復が続くものと予想される。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻を背景とするコモディティ価格の高騰やペソ安による輸入物価の上昇によりフィリピンではインフレが高進しており、消費者の購買力に悪影響を及ぼしつつある。7月の消費者物価上昇率は前年同月比6.4%増となり、フィリピン中銀のインフレ目標である2.0~4.0%を上回るペースで推移している。フィリピン中銀は足元のインフレ率の上昇と国内経済の回復を背景に金融緩和策の縮小に舵を切り、今年に入って政策金利(翌日物借入金利)を1.25%引き上げて3.25%としている。8月も0.5%の追加利上げが実施され、その後も金融引き締めが進められる展開が予想される。このほか、足元では欧州や米国が景気後退に陥る懸念が高まり、輸出の逆風は更に強まってきている。フィリピン経済はコロナ禍からの回復局面が続いているものの、こうした不確実要素が今後の同国経済の回復を妨げるリスクに注意する必要があるだろう。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2022年08月09日「経済・金融フラッシュ」)

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