2022年08月16日

タイ経済:22年4-6月期の成長率は前年同期比2.5%増~新型コロナ規制の緩和により消費と観光業が回復、3期連続プラス成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比2.5%増1(前期:同2.3%増)と小幅に上昇、市場予想2(同3.1%増)を下回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費の回復が成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比6.9%増(前期:同3.5%増)と上昇した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同56.9%増)と保健衛生(同9.9%増)、交通(同7.2%増)、娯楽・文化(同6.8%増)が堅調に拡大したほか、食料・飲料(同3.1%増)と衣類・靴(同2.4%増)の増加傾向が続いた。一方、住宅・水道・電気・燃料(同0.4%増)と通信(同0.1%増)は停滞した。

政府消費は同2.4%増(前期:同7.2%増)と伸びが鈍化した。

総固定資本形成は同1.0%減(前期:同0.8%増)と小幅に減少した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同2.3%増(前期:同2.9%増)と増勢が鈍化した。民間設備投資(同3.3%増)は前期に続いて増加したが、民間建設投資(同1.3%減)が低迷した。一方で公共投資は同9.0%減(前期:同4.7%減)と2期連続のマイナス成長となった。公共建設投資(同6.6%減)と公共設備投資(同17.0%減)が揃って減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.4%ポイントと、前期の+3.5%ポイントから悪化した。まず財・サービス輸出は同8.5%増となり、前期の同12.1%増に続いて堅調に増加した。財貨輸出が同4.6%増(前期:同10.2%増)と鈍化したものの、サービス輸出が同54.3%増(前期:同32.5%増)と一段と上昇した。一方、財・サービス輸入は同9.1%増(前期:同6.2%増)となり、伸びが加速した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
4-6月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主に第三次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まず農林水産業は前年同期比4.4%増(前期:同4.7%増)と順調に拡大した。主要作物のコメ(同35.6%)や果物(同26.9%)、サトウキビ (同7.6%)、トウモロコシ(同6.7%)の収穫が増加したほか、漁業・養殖業も引き続き増加した。

鉱工業は同1.8%減(前期:同0.6%増)と減少した。まず主力の製造業は同0.5%減(前期:同2.0%増)と小幅に減少した。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同3.2%減)が低迷したほか、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同0.5%増)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同0.3%増)が停滞した。また電気・ガス業は同1.4%増(前期:同2.1%増)と小幅の増加が続いたものの、鉱業が同22.4%減(前期:同18.5%減)と低迷した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同4.6%増(前期:同2.9%増)と改善した。サービス業の内訳を見ると、コロナ禍で建設業(同4.5%減)や芸術・娯楽等(同0.9%減)は引き続き減少したものの、ホテル・レストラン業(同44.9%増)が大幅に増加したほか、保健衛生・社会事業(同6.7%増)や情報・通信業(同6.2%増)、運輸・倉庫業(同5.3%増)が順調に増加した。このほか、小売・卸売業(同3.1%増)や不動産業(同2.4%増)、教育(同1.7%増)、金融・保険業(同1.6%増)、管理及び支援サービス(同0.1%増)が緩やかな伸びとなった。
 
1 8月15日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2022年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、2020年に経済が停滞して、実質GDP成長率が前年比▲6.2%と減少した。昨年半ばにもデルタ株の感染拡大が生じ、活動制限措置を厳格化した影響を受けて実質GDPが落ち込んだが、その後は活動制限の緩和により経済が回復傾向にある。そして、今回発表された22年4-6月期の成長率は前年同期比+2.5%となり、前期の同+2.3%から小幅に上昇、3四半期連続のプラス成長となった。

4-6月期は新型コロナの感染状況が改善して経済活動の再開が進んだため、消費の回復が続いた。タイではオミクロン株の感染拡大が生じて感染者数は2月下旬から4月中旬にかけて1日2万人台の高水準で推移した(図表3)。タイ政府は1月に新型コロナ感染に対する警戒レベルを「レベル3」から「レベル4」(レベル5が最高)に引き上げていたが、5月に入って感染状況の改善が進むと警戒レベルを再び「レベル3」に引き下げ、ワクチン接種者に対する行動制限を緩和した。また6月からパブやバー、カラオケ店などの娯楽施設の営業が再開、同月下旬には公共の場でのマスクの着用義務を解除、そして全国の警戒レベルを最も低い水準に引き下げるなど期末にかけて活動制限の解除が更に進んだ。ロシアのウクライナ侵攻を背景とするコモディティ価格の上昇等によりインフレが高進(4-6月期のCPI上昇率は6.4%増)したことは消費の重石となったが(図表4)、民間消費は前年同期比6.9%増と、前期の同3.5%増から上昇して4-6月期の景気の牽引役となった。

またGDPの約2割を占める観光業の回復に向けて、政府は5月からワクチン接種済みの旅行者を対象にした隔離なしの入国制度「テスト・アンド・ゴー」と入国時のPCR検査の廃止など入国規制の緩和を進めた。中国人観光客の戻りが鈍く、本格回復には至らなかったが、4-6月累計の外国人旅行者数は52.7万人(1-3月累計:16.5万人)と回復してサービス輸出の大幅な増加(同54.3%増)に繋がった。

一方、中国経済の減速による財貨輸出の減速(同4.6%増)や、年内開業予定であるバンコク首都圏のモノレールの建設減少による投資(同1.0%減)の悪化は経済成長の押し下げ要因となり、実質GDP成長率は同2.5%と緩やかな伸びに止まった。コロナ禍からの経済回復が進む他の東南アジア諸国と比べると、タイ経済には回復の遅れがみられる。
(図表3)タイの新規感染者数の推移/(図表4)タイのインフレ率と政策金利
オミクロン株の感染は依然として続いているが、管理可能な状況にあるため、タイ政府は10月から新型コロナウイルスの扱いを季節性インフルエンザなどと同様にエンデミックとして扱う準備を進めている。これにより旅行規制が完全に解除される見込みである。またタイ政府は既に7月から入国申請システム「タイランド・パス」や医療保険証を廃止している。このため、7-9月期も外国人旅行者数が増加し、観光業の回復傾向は続きそうだ。このほか、7-9月期はデルタ株の感染拡大に伴い経済が落ち込んだ前年同期からの反動増により成長率が押し上げられる展開が予想される。

タイ政府は2022年のGDP成長率見通しを2.7%~3.2%(従来は2.5%~3.5%)とし、予測レンジの上限を小幅に引き下げた。今後も観光客の増加と個人消費の回復は続くものの、世界的な需要減退によるモノの輸出の増勢鈍化が予想される。また今後はインフレの加速に伴う金融政策の舵取りが注目される。5~7月の消費者物価上昇率は3カ月連続で前年同月比+7%台と、物価目標の上限である+3%を上回って推移しており、タイ中銀は8月に政策金利を0.25%引き上げて0.75%とした。当面は物価の高止まりが続くだろうが、利上げを緩やかなペースに留めて景気回復の腰折れを回避することができるか注目といえる。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年08月16日「経済・金融フラッシュ」)

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