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- マレーシア経済:22年4-6月期の成長率は前年同期比+8.9%~感染改善とコロナ対策の緩和により高成長、年後半は景気減速へ
2022年08月12日
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2022年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比8.9%増1(前期:同5.0%増)と上昇し、市場予想2(同7.0%増)を上回る結果となった(図表1)。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大と堅調な輸出が成長率上昇に繋がったことが分かる。
GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比15.3%増(前期:同5.7%増)と大きく上昇して3四半期連続のプラス成長となった。
また政府消費は前年同期比2.6%増(前期:同6.7%増)と再び上昇した。
総固定資本形成は同5.8%増(前期:同0.1%増)と上昇した。設備投資が同9.6%増(前期:同12.0%増)と好調を維持して、建設投資が同3.8%増(前期:同7.9%減)が持ち直した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同6.3%増(前期:同0.4%増)、公共部門が同3.2%増(前期:同0.9%減)となり、それぞれ回復した。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.7%ポイント(前期:▲1.5%ポイント)と更に低下した。まず財・サービス輸出は同10.4%増(前期:同8.0%増)と堅調に拡大した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同7.4%増)が堅調に拡大したほか、サービス輸出(同49.1%増)は一段と上昇が続いた。また財・サービス輸入は同14.0%増(前期:同11.1%増)となり、6期連続の二桁増となった。
供給側を見ると、主に第三次産業の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。
まずGDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比12.0%増(前期:同6.5%増)と大きく上昇して3期連続のプラス成長となった。金融・保険(同1.4%減)こそ減少したものの、宿泊・飲食業(同35.3%増)や運輸・倉庫(同35.8%増)、不動産・ビジネスサービス(同21.7%増)、卸売・小売(同17.3%増)が好調だったほか、情報・通信(同5.9%増)、政府サービス(同5.4%増)なども順調に増加した。
第二次産業は前年同期比7.2%増(前期:同4.6%減)と伸びが加速した。まず製造業は同9.2%増(前期:同6.6%増)と再び上昇した。内訳を見ると、動植物性油脂(同8.8%減)とゴム製品(同22.4%減)が減少、石油製品(同2.8%増)と化学製品(同2.0%増)も緩やかな伸びに止まったが、主力の電気電子機器(同19.3%増)や輸送用機器(同21.0%増)、食品加工(同9.7%増)は好調だった。また建設業は同2.4%増(前期:同6.2%減)とプラスに転じた一方、鉱業は同0.5%減(前期:同1.1%減)と停滞した。
第一次産業は同2.4%減(前期:同0.1%増)と減少した。漁業・養殖業(同3.5%増)こそ増加したものの、主要産品であるパーム油(同3.9%減)や畜産業(同1.2%減)、その他農業(同1.5%減)、天然ゴム(同16.9%減)などが減少した。
1 2022年8月12日、マレーシア中央銀行が2022年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
まずGDPの6割弱を占める第三次産
第二次産業は前年同期比7.2%増(前期:同4.6%減)と伸びが加速した。まず製造業は同9.2%増(前期:同6.6%増)と再び上昇した。内訳を見ると、動植物性油脂(同8.8%減)とゴム製品(同22.4%減)が減少、石油製品(同2.8%増)と化学製品(同2.0%増)も緩やかな伸びに止まったが、主力の電気電子機器(同19.3%増)や輸送用機器(同21.0%増)、食品加工(同9.7%増)は好調だった。また建設業は同2.4%増(前期:同6.2%減)とプラスに転じた一方、鉱業は同0.5%減(前期:同1.1%減)と停滞した。
第一次産業は同2.4%減(前期:同0.1%増)と減少した。漁業・養殖業(同3.5%増)こそ増加したものの、主要産品であるパーム油(同3.9%減)や畜産業(同1.2%減)、その他農業(同1.5%減)、天然ゴム(同16.9%減)などが減少した。
1 2022年8月12日、マレーシア中央銀行が2022年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、2020年の実質GDP成長率が前年比▲5.5%に落ち込んだ。昨年半ばにもデルタ株の感染拡大に伴い実質GDPが再び落ち込んだが、その後は経済の回復が続いている。そして、今回発表された22年4-6月期の成長率は前年同期比+8.9%となり、前期の同+5.0%から更に上昇、3カ月連続のプラス成長となった。
4-6月期は高成長(前年同期比+8.9%)となったが、これは比較対象となる前年同期の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いた影響が大きい。もっとも前期比(季節調整済)でみると、4-6月期の成長率は+3.5%(1-3月期:同+3.8%)となり、経済活動の回復が続いていることも確かだ。4-6月期は新型コロナウイルスの感染が落ち着き、経済活動の再開が進んだため、内需が堅調だった。マレーシアでは今年1-3月にオミクロン株到来による感染再拡大が生じて、3月上旬には新規感染者数が1日3万人台に達したが、その後は大規模なワクチン接種の実施を背景に急速に改善したため、4-6月は平均4000人弱で推移するなど感染状況が概ね落ち着いていた(図表3)。マレーシア政府は4月にパンデミックからエンデミックへの移行を宣言して、ワクチン接種完了を条件に隔離なしの入国を再開したほか、飲食店・小売店の営業時間の制限を撤廃した。新型コロナ対策として実施していた規制を緩和したことにより、4-6月期は人流と消費者心理が改善した。実際、小売・娯楽関連施設への移動量をみると4-6月平均はコロナ前比+3.1%となり、1-3月平均の同▲10.3%から改善した(図表4)。また、こうした経済活動の回復が続く中で雇用が改善したこと、インフレ圧力が安定していたことも民間消費(15.3%増)の追い風となった。
また財・サービス輸出(同10.4%増)は堅調な拡大が続いた。今年はウクライナ情勢悪化の影響が加わり一次産品の世界的な需要が高まるなかで石油・ガスやパーム油などの出荷が大きく伸びたほか、半導体需要を追い風に電気・電子製品の出荷が財貨輸出の拡大(同7.4%増)に繋がった。また4-6月期は入国規制の緩和により外国人観光客が増加したため、サービス輸出(同49.1%増)が急伸した。
4-6月期は高成長(前年同期比+8.9%)となったが、これは比較対象となる前年同期の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いた影響が大きい。もっとも前期比(季節調整済)でみると、4-6月期の成長率は+3.5%(1-3月期:同+3.8%)となり、経済活動の回復が続いていることも確かだ。4-6月期は新型コロナウイルスの感染が落ち着き、経済活動の再開が進んだため、内需が堅調だった。マレーシアでは今年1-3月にオミクロン株到来による感染再拡大が生じて、3月上旬には新規感染者数が1日3万人台に達したが、その後は大規模なワクチン接種の実施を背景に急速に改善したため、4-6月は平均4000人弱で推移するなど感染状況が概ね落ち着いていた(図表3)。マレーシア政府は4月にパンデミックからエンデミックへの移行を宣言して、ワクチン接種完了を条件に隔離なしの入国を再開したほか、飲食店・小売店の営業時間の制限を撤廃した。新型コロナ対策として実施していた規制を緩和したことにより、4-6月期は人流と消費者心理が改善した。実際、小売・娯楽関連施設への移動量をみると4-6月平均はコロナ前比+3.1%となり、1-3月平均の同▲10.3%から改善した(図表4)。また、こうした経済活動の回復が続く中で雇用が改善したこと、インフレ圧力が安定していたことも民間消費(15.3%増)の追い風となった。
また財・サービス輸出(同10.4%増)は堅調な拡大が続いた。今年はウクライナ情勢悪化の影響が加わり一次産品の世界的な需要が高まるなかで石油・ガスやパーム油などの出荷が大きく伸びたほか、半導体需要を追い風に電気・電子製品の出荷が財貨輸出の拡大(同7.4%増)に繋がった。また4-6月期は入国規制の緩和により外国人観光客が増加したため、サービス輸出(同49.1%増)が急伸した。
足元の感染者数はやや増加しつつあるものの、1日4,000人程度で推移しており、現在のところ活動制限が厳格化されるほどには感染状況や医療体制は悪化していない。今後も新型コロナウイルスワクチンの更なる普及などにより、当面は感染が抑制された状況が続いて企業・消費者マインドの改善や雇用情勢の改善を通じて内需の回復が続くだろう。特に海外からの観光客や出張者が増加してホテルや飲食店など観光関連産業の回復が期待される。しかし、これまで続いた経済正常化のペースは穏やかになってきているほか、インフレの加速と金融緩和の縮小が今後の内需の重石となりそうだ。6月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.4%と、年初の+2%台から緩やかな上昇が続き、マレーシア中銀は今年に入って2回利上げ(計+0.5%)を実施、年後半も追加利上げが予想される。また足元では欧州や米国が景気後退に陥る懸念が高まり、輸出の逆風は強まってきている。マレーシア経済はコロナ禍からの回復局面が続いているものの、年後半の経済成長ペースは鈍化しそうだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年08月12日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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