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- フィリピン経済:22年7-9月期の成長率は前年同期比7.6%増~インフレ下でも内需が堅調で、景気減速回避
2022年11月10日
2022年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比7.6%増1(前期:同7.5%増)と僅かに上昇し、市場予想2(同6.1%増)を上回る結果となった(図表1)。
7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、内外需ともに堅調に拡大した。
まず民間消費は前年同期比8.0%増(前期:同8.6%増)と低下したものの、高水準を維持した。民間消費の内訳を見ると、娯楽・文化(同46.0%増)とレストラン・ホテル(同38.2%増)、交通(同20.5%増)が二桁成長となり、また家具・住宅設備(同9.5%増)や通信(同7.3%増)、保健(同6.9%増)も高めの伸びとなった。一方、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同3.9%増)や教育(同5.4%増)、住宅・水道光熱(同1.3%増)は緩やかな伸びに止まったほか、衣服・履物(同5.5%減)が減少した。
政府消費は同0.8%増(前期:同11.1%増)と大きく鈍化した。
総固定資本形成は同10.1%増となり、前期の同13.6%増に続いて二桁成長となった。建設投資が同11.8%増(前期:同16.3%増)、設備投資が同11.6%増(前期:同11.9%増)となり、それぞれ好調を維持した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同12.2%減)と一般工業機械(同6.6%減)が落ち込んだものの、全体の約半分を占める輸送用機器(同33.0%増)の伸びが加速した。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.8%ポイントとなり、前期の▲4.0%ポイントからマイナス幅が縮小した。まず財・サービス輸出は同13.1%増(前期:同4.4%増)と、伸びが加速した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同32.5%増)が大幅に増加、財貨輸出(同4.5%増)もプラスの伸びに転じた。一方、財・サービス輸入も同17.3%増(前期:同13.8%増)と二桁成長が続いた。
供給項目別に見ると、主に第三次産業が好調だった(図表2)。
まずGDPの約6割を占める第三次産業は同9.1%増(前期: 同9.1%増)と高水準で推移した。宿泊・飲食業(同40.6%増)と運輸・倉庫業(同24.3%増)が二桁成長を続けたほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同9.1%増)や専門・ビジネスサービス業(同9.3%増)、情報・通信業(同7.8%増)、金融・保険業(同7.7%増)も順調に拡大した。一方、行政・国防(同0.7%増)や不動産業(同3.1%増)、教育(同5.2%増)は緩やかな伸びに止まった。
第二次産業は同5.8%増(前期:同6.4%増)となり、伸びが鈍化した。まず製造業は同3.6%増(前期:同2.2%増)と緩やかな伸びに止まった。製造業の内訳をみると、石油製品(同19.4%増)と化学製品(同14.9%増)、一般機械(同25.5%増)、輸送用機器(同8.6%増)などは好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同4.7%減)が落ち込むと共に、電気機械(同3.1%増)と食品加工(同5.1%増)が伸び悩んだ。また建設業(同12.2%増)と鉱業・採石業(同9.1%増)が好調だった一方、電気・ガス・水道(同3.9%増)は伸び悩んだ。
第一次産業は前年同期比2.2%増(前期:同0.2%増)とやや改善した。家畜(同4.8%増)がアフリカ豚熱の影響から順調回復すると共に、家禽(同6.4%増)が需要の増加に支えられて高成長となった。他方、台風の影響で漁業・養殖業(同2.2%減)が低迷したほか、コメ(同1.0%増)やココナッツ(同1.1%増)等の作物が伸び悩んだ。
1 2022年11月10日、フィリピン統計庁(PSA)が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査
まずGDPの約6割を占める第三次産業は同9.1%増(前期: 同9.1%増)と高水準で推移した。宿泊・飲食業(同40.6%増)と運輸・倉庫業(同24.3%増)が二桁成長を続けたほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同9.1%増)や専門・ビジネスサービス業(同9.3%増)、情報・通信業(同7.8%増)、金融・保険業(同7.7%増)も順調に拡大した。一方、行政・国防(同0.7%増)や不動産業(同3.1%増)、教育(同5.2%増)は緩やかな伸びに止まった。
第二次産業は同5.8%増(前期:同6.4%増)となり、伸びが鈍化した。まず製造業は同3.6%増(前期:同2.2%増)と緩やかな伸びに止まった。製造業の内訳をみると、石油製品(同19.4%増)と化学製品(同14.9%増)、一般機械(同25.5%増)、輸送用機器(同8.6%増)などは好調だったが、主力のコンピュータ・電子機器(同4.7%減)が落ち込むと共に、電気機械(同3.1%増)と食品加工(同5.1%増)が伸び悩んだ。また建設業(同12.2%増)と鉱業・採石業(同9.1%増)が好調だった一方、電気・ガス・水道(同3.9%増)は伸び悩んだ。
第一次産業は前年同期比2.2%増(前期:同0.2%増)とやや改善した。家畜(同4.8%増)がアフリカ豚熱の影響から順調回復すると共に、家禽(同6.4%増)が需要の増加に支えられて高成長となった。他方、台風の影響で漁業・養殖業(同2.2%減)が低迷したほか、コメ(同1.0%増)やココナッツ(同1.1%増)等の作物が伸び悩んだ。
1 2022年11月10日、フィリピン統計庁(PSA)が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査
7-9月期のGDPの評価と先行きのポイント
フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の再開によりプラス成長が続いており、21年の成長率は前年比+5.7%(20年:同▲9.5%)と上昇、今年前半は8%弱の成長ペースで推移した。そして今回発表された7-9月期の成長率は同+7.6%となり、堅調に拡大した。
7-9月期はコロナ規制の緩和により経済活動の再開が続いたため内需が順調に回復、特にGDPの約7 割を占める民間消費は+8%成長を維持して景気の牽引役となった。フィリピン政府はオミクロン株による感染拡大が落ち着き始めた2月以降、全国的に外出・移動制限措置を緩和していき、3月以降はマニラ首都圏の警戒レベルを5段階で最も緩い「1」に引き下げている。また8月に学校の対面授業を再開、9月に屋外のマスク着用義務を解除(10月には屋内の着用義務も解除)した。こうしたコロナ規制の緩和によりフィリピンでは人流の増加が続いており、7-9月平均は小売・娯楽関連施設への移動量がコロナ前と比べて+18.5%と、4-6月平均の同+10.3%から更に拡大している(図表3)。また失業率は7-9月期に5.2%と、コロナ禍前の水準まで低下していることや、ペソ安を背景に海外就労者の送金額(ペソベース)が大きく増加(7-8月平均が同+15.1%)したことも消費の追い風となった。
財・サービス輸出(同13.1%増)は二桁成長に加速した。財貨輸出(同4.5%増)が緩やかな伸びに止まったが、サービス輸出が同32.5%増と大幅に増加した。フィリピンでは今年2月から5月にかけてワクチン接種者を対象に入国時の隔離や陰性証明書の提示が不要になるなど入国制限が緩和されており、7-9月期の外国人観光客数は66万人(コロナ前の3割程度の水準)まで回復している。
投資(同10.1%)も好調を維持した。消費や観光業の回復が企業の設備投資意欲の改善に繋がったほか、今年5月の統一選挙を前に建設活動が一時禁止されていたために事業の実施を急いだことが建設投資の拡大に繋がったとみられる。
このように7-9月期はコロナ禍からの経済活動の回復の勢いが強く、高めの成長率が続いたが、フィリピンでは燃料や食料価格の高騰、そしてペソ安に伴う輸入インフレに起因した物価上昇が続いている。10月の消費者物価上昇率は前年同月比+7.7%と、中銀の物価目標である2~4%を大きく上回り、消費者の購買力に悪影響を及ぼしつつある(図表4)。またフィリピン中銀はインフレ対策や通貨防衛策として積極的な金融引き締めを進めており、今年に入って政策金利(翌日物借入金利)を2.25%ポイント引き上げて4.25%としている。中銀は11月の会合でも0.75%の利上げを実施する見込みであり、その後も米国の利上げに追随して金融引締め策を続けるものと予想される。
このほか、足元では欧州や米国が景気後退に陥る懸念が高まり、輸出の逆風は強まってきている。フィリピン経済はコロナ禍からの回復局面が続いているものの、こうした不確実要素が今後の同国経済の回復を妨げるリスクに注意する必要があるだろう。
7-9月期はコロナ規制の緩和により経済活動の再開が続いたため内需が順調に回復、特にGDPの約7 割を占める民間消費は+8%成長を維持して景気の牽引役となった。フィリピン政府はオミクロン株による感染拡大が落ち着き始めた2月以降、全国的に外出・移動制限措置を緩和していき、3月以降はマニラ首都圏の警戒レベルを5段階で最も緩い「1」に引き下げている。また8月に学校の対面授業を再開、9月に屋外のマスク着用義務を解除(10月には屋内の着用義務も解除)した。こうしたコロナ規制の緩和によりフィリピンでは人流の増加が続いており、7-9月平均は小売・娯楽関連施設への移動量がコロナ前と比べて+18.5%と、4-6月平均の同+10.3%から更に拡大している(図表3)。また失業率は7-9月期に5.2%と、コロナ禍前の水準まで低下していることや、ペソ安を背景に海外就労者の送金額(ペソベース)が大きく増加(7-8月平均が同+15.1%)したことも消費の追い風となった。
財・サービス輸出(同13.1%増)は二桁成長に加速した。財貨輸出(同4.5%増)が緩やかな伸びに止まったが、サービス輸出が同32.5%増と大幅に増加した。フィリピンでは今年2月から5月にかけてワクチン接種者を対象に入国時の隔離や陰性証明書の提示が不要になるなど入国制限が緩和されており、7-9月期の外国人観光客数は66万人(コロナ前の3割程度の水準)まで回復している。
投資(同10.1%)も好調を維持した。消費や観光業の回復が企業の設備投資意欲の改善に繋がったほか、今年5月の統一選挙を前に建設活動が一時禁止されていたために事業の実施を急いだことが建設投資の拡大に繋がったとみられる。
このように7-9月期はコロナ禍からの経済活動の回復の勢いが強く、高めの成長率が続いたが、フィリピンでは燃料や食料価格の高騰、そしてペソ安に伴う輸入インフレに起因した物価上昇が続いている。10月の消費者物価上昇率は前年同月比+7.7%と、中銀の物価目標である2~4%を大きく上回り、消費者の購買力に悪影響を及ぼしつつある(図表4)。またフィリピン中銀はインフレ対策や通貨防衛策として積極的な金融引き締めを進めており、今年に入って政策金利(翌日物借入金利)を2.25%ポイント引き上げて4.25%としている。中銀は11月の会合でも0.75%の利上げを実施する見込みであり、その後も米国の利上げに追随して金融引締め策を続けるものと予想される。
このほか、足元では欧州や米国が景気後退に陥る懸念が高まり、輸出の逆風は強まってきている。フィリピン経済はコロナ禍からの回復局面が続いているものの、こうした不確実要素が今後の同国経済の回復を妨げるリスクに注意する必要があるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年11月10日「経済・金融フラッシュ」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
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