2022年11月14日

マレーシア経済:22年7-9月期の成長率は前年同期比+14.2%~内外需ともに堅調、約1年ぶりの二桁成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比14.2%増1(前期:同8.9%増)と上昇し、市場予想2(同12.5%増)を上回る結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の拡大と堅調な輸出が成長率上昇に繋がったことが分かる。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比15.1%増となり、前期の同18.3%増に続いて好調を維持した。

政府消費は前年同期比4.5%増(前期:同2.6%増)と上昇した。

総固定資本形成は同13.1%増(前期:同5.8%増)と二桁成長となった。建設投資が同16.7%増(前期:同3.8%増)と大きく上昇したほか、設備投資が同10.7%増(前期:同9.7%増)と好調を維持した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同13.2%増(前期:同6.3%増)、公共部門が同13.1%増(前期:同3.2%増)となり、それぞれ上昇した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.0%ポイント(前期:▲1.7%ポイント)とプラスに転じた。まず財・サービス輸出は同23.9%増(前期:同10.4%増)と好調だった。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同19.5%増)とサービス輸出(同77.0%増)がそれぞれ大幅に増加した。一方、財・サービス輸入も同24.4%増(前期:同14.0%増)と伸びが加速し、7期連続の二桁増となった。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に第三次産業の改善が成長率上昇に繋がったことが分かる(図表2)。
まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比16.7%増となり、前期の同12.0%増に続いて好調だった。宿泊・飲食業(同51.3%増)や運輸・倉庫(同41.4%増)、不動産・ビジネスサービス(同35.1%増)、卸売・小売(同24.4%増)が大幅に増加したほか、金融・保険(同4.4%増)がプラスに転じた。一方、情報・通信(同4.5%増)、政府サービス(同4.0%増)はやや鈍化し、緩やかな伸びにとどまった。

第二次産業は前年同期比11.9%増(前期:同7.2%増)と伸びが加速して二桁成長となった。まず製造業は同13.2%増の堅調に拡大した前期の同9.2%増から更に上昇した。内訳を見ると、ゴム製品(同12.9%減)と動植物性油脂(同0.3%減)が低迷、化学製品(同3.7%増)が緩やかな伸びに止まったが、主力の電気電子機器(同19.1%増)や輸送用機器(同41.5%増)、石油製品(同10.5%増)、食品加工(同8.3%増)が好調だった。また建設業が同15.3%増(前期:同2.4%増)、鉱業が同9.2%増(前期:同0.5%減)とそれぞれ急上昇した。

第一次産業は同1.2%増(前期:同2.4%減)と小幅に増加した。主要産品であるパーム油(同5.1%増)と畜産業(同2.5%増)がプラスに転じたほか、漁業・養殖業(同3.8%増)が順調に増加した。一方、天然ゴム(同16.4%減)とその他農業(同3.7%減)は低迷した。
 
1 2022年11月11日、マレーシア中央銀行が2022年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済はコロナ禍からの回復傾向が続いている。21年半ばはデルタ株の感染拡大により実質GDPが落ち込んだが、その後は経済活動の再開が進み、21年通年の成長率が+3.1%(20年:▲5.5%)とプラス成長に回復した。そして今年に入ると成長率は1-3月期が前年同期比+5.0%、4-6月期が同+8.9%と加速、そして今回発表された7-9月期は同+14.2%と更に上昇し、約1年ぶりの二桁成長となった。

7-9月期は高成長を記録したが、これは比較対象となる前年同期の実質GDPがデルタ株の感染拡大と活動制限により落ち込んでいたため、ベース効果が働いた影響が大きい。ただし、前期比(季節調整済)でみると、7-9月期の成長率は+1.9%と、4-6月期の同+3.5%から減速しているものの、順調に伸びており経済活動の回復が続いていることは確かだ。

7-9月期はコロナ規制の緩和により経済活動の再開が進んだため内需が順調に回復、民間消費(前年同期比+13.1%)と投資(同+13.1%)がそれぞれ好調だった。マレーシアではオミクロン株の感染が落ち着き始めた今年4月以降、政府がエンデミックへの移行を宣言し、ワクチン接種完了を条件に隔離なしの入国を再開したほか、飲食店・小売店の営業時間規制や人員制限などを廃止、更には5月に屋外で、9月には屋内でのマスク着用義務を撤廃した。こうした新型コロナ規制の緩和により小売・娯楽関連施設への移動量は7-9月平均がコロナ前比▲1.1%と、前年同期の同▲3.3%から小幅に改善すると共に(図表3)、流通業売上高が前年同期比+32.3%(4-6月期の同25.3%増)と大きく増加した。また失業率の低下や賃金上昇など労働市場の改善が続いていることや(図表4)、政府の価格統制と補助金によりインフレ圧力が抑えられて家計の可処分所得の減少が限定的だったことも消費の伸びを支えている。さらに、こうした消費需要の回復が続く中で事業環境の改善した企業の設備投資は回復しつつあるようだ。

財・サービス輸出(前年同期比+23.9%)も好調だった。引き続き電気・電子製品の強い需要によって財貨輸出(同+19.5%)が堅調に推移すると共に、入国規制の緩和に伴うインバウンド需要の回復によりサービス輸出(同+77.0%%)が大幅に増加した。
(図表3)小売・娯楽施設への移動量/(図表4)マレーシア雇用統計
このように7-9月期は高成長となったが、10-12月期はベース効果が剥落するため成長率の低下は避けられない。内需は引き続き雇用情勢の改善や観光業の回復により底堅い伸びを保つだろうが、マレーシア中銀は11月にインフレの高止まり(9月の消費者物価上昇率は前年同月比+4.5%)を背景に4会合連続の金融引き締め(計1%ポイントの利上げ)を実施しており、物価・金利の上昇は消費者の購買力に悪影響を及ぼしつつある。また今後の欧州や米国の景気後退入りにより輸出の悪化が予想され、内需と外需の両面で逆風が強まっていると言える。2023年度予算案では公共投資などの開発支出が大幅に増額(前年度比+32.3%)されており、拡張財政が続く見込みである。11月19日に予定される総選挙後には新政権が打ち出す景気下支え策に注目が集まりそうだ。
 
 

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(2022年11月14日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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