2023年08月08日

ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は中国向けが改善も、域内向けが落ち込み前年割れ続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

2023年6月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.4%減(前月:同5.0%減)と減少幅が拡大して4カ月連続の前年割れとなった(図表1)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、昨年11月以降は前年割れが続いている。直近はゼロコロナ政策が終了した中国向けの輸出が上向きつつあり、前月比では増加しているが、当面は金融引き締めの影響により欧米経済が減速するため持ち直しの動きは限定的となりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東南アジア向けが同22.3%減(前月:同15.6%減)、北米向けが同17.9%減(前月:同6.6%減)、EU向けが同16.0%減(前月:同2.3%減)となり、それぞれ減少幅が拡大した(図表2)。一方、中国向け(同3.3%増)が改善した東アジア向けは同4.0%減(前月:同5.4%減)と減少幅が縮小した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの6月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比11.1%減(前月:同9.1%減)の294億ドルと、再び減少幅が拡大した(図表3)。輸出の基調は昨年後半までコロナ禍からの世界経済の再開や電子製品の需要拡大により増加傾向が続いたが、その後は世界経済の減速により主力のスマートフォンや電子製品、アパレル製品の出荷が振るわず減少傾向にある。また輸入額は前年同月比18.0%減(前月:同20.8%減)の263億ドルと低迷した。結果として貿易収支は+30.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から10.8億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比8.8%減(前月:同28.9%減)、コンピュータ、電子製品・同部品が同3.5%減(前月:同7.8%減)となり、それぞれ減少幅が縮小した(図表4)。一方、アパレル関連については履物が同25.4%減(前月:同11.8%減)、織物・衣類が同15.1%減(前月:同6.4%減)となり、大幅な減少となった。農林水産物を見ると、水産物(同23.4%減)と天然ゴム(同23.3%減)、コメ(同3.8%減)は減少したものの、野菜(同158.2%増)とコーヒー(同19.5%増)、カシューナッツ(同18.6%増)が増加するなど、品目によってばらつきが見られた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同11.3%減(前月:同11.6%減)、地場企業が同10.1%減(前月:同2.5%減)とそれぞれ二桁減少となった。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.4%減(前月:同4.6%減)の248億ドルとなり、9ヵ月連続の前年割れとなった(図表5)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いたが、その後は物価高と金利上昇に伴う海外需要の鈍化により減少傾向で推移している。また輸入額も前年同月比10.3%減(前月:同3.2%減)の247ドルと二桁減少となった。結果として、貿易収支が0.6億ドルとなり、前月の▲10.8億ドルから黒字化した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同2.7%減(前月:同1.8%増)と2ヵ月ぶりに減少した(図表6)。製造品の内訳を見ると、家電製品(同8.5%増)と自動車・部品(同6.0%増)、機械・装置(同3.1%増)が増加したものの、石油化学製品(同18.6%減)と金属・鉄鋼(同14.7%減)、電子製品(同7.6%減)が減少した。また鉱業・燃料は同26.9%減(前月:同44.2%減)となり、石油製品(同26.2%減)を中心に大幅に減少した。農産物・同加工品は同7.8%減(前月:同13.6%減)となり、2ヵ月連続で減少した。農産物・同加工品の内訳をみると、ドリアン(同40.7%増)は増加したものの、天然ゴム(同43.0%減)やゴム製品(同14.8%減)、コメ(同15.0%減)、加工食品(同10.3%減)など減少した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの6月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比18.4%減(前月:同3.8%減)の267億ドルとなり、減少幅が拡大した(図表7)。輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、その後は世界的な需要減退と商品価格の下落により伸び悩み、年明けから減少傾向が続いている。また輸入額も前年同月比23.0%減(前月:同6.5%減)の212億ドルと減少した。結果として、貿易収支が+55.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から21.0億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同1.4%減(前月:同0.1%減)となり、主力の電気・電子製品(同1.9%減)を中心に低迷した(図表8)。また鉱物性燃料は同8.1%減(前月:同0.7%増)と2カ月ぶりに減少した。鉱物性燃料の内訳をみると、原油(同46.5%減)に加えて石油製品(同40.0%減)と天然ガス(同43.7%減)が減少した。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同49.4%減)や動植物性油脂(同3.9%減)、化学製品(同2.2%減)なども減少が続いた。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比21.2%減(前月:同0.9%増)の206億ドルとなり、2ヵ月ぶりに減少した(図表9)。輸出は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の再開や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は海外経済の減速やパーム油、石炭などの主要商品価格の下落により増勢が鈍化し、今年3月から減少傾向にある。5月の輸出はレバラン(断食明け大祭)の休暇明けで貿易取引が増えてプラスに転じたが、一時的な動きにとどまった。また輸入額も前年同月比18.3%減(前月:同14.3%増)の171億ドルとなり、2ヵ月ぶりに減少した。結果として、貿易収支が+34.5億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から30.3億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同21.3%減(前月:同1.9%増)、石油ガス輸出が同18.7%減(前月:同12.5%減)となり、それぞれ大幅な減少となった(図表10)。化学製品(同36.3%減)や鉱産物(同32.5%減)、プラスチック・ゴム製品(同28.4%減)、織物類(同18.9%減)、動植物性油脂(同18.8%減)、自動車・同部品(同4.4%減)、電気機械(同4.0%減)、機械類(同1.9%減)、鉄・鉄鋼(同2.7%減)など幅広い品目で減少した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの6月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比13.1%減(前月:同12.0%減)の110億ドルとなり、10カ月連続で減少した(図表11)。輸出の基調は昨年半ばまで世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、その後はアジア向けを中心に電子製品、非電子製品が振るわず減少している。

総輸出額は同14.9%減(前月:同12.5%減)の394億ドル、総輸入額が同19.2%減(前月:同18.1%減)の348億ドルとなり、それぞれ低迷した。結果として、貿易収支は+46.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から8.5億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同13.5%減(前月:同24.8%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同78.6%増)が約1年ぶりに増加したものの、主力のIC(同29.9%減)とPC(同42.6%減)が揃って減少した。また全体の約3割を占める化学品も同30.5%減(前月:同17.7%減)となり、2カ月連続で減少した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同32.1%減)と医薬品(同27.5%減)がそれぞれ減少した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比0.8%増(前月:同2.4%増)の67億ドルと鈍化した(図表13)。輸出の基調は昨年後半に電子製品を中心に増加傾向がみられたが、その後は世界的な需要が軟化するなかで主力の電子製品の出荷が落ち込み、減少傾向にある。足元では輸出は欧米向け、中国向け輸出が改善してプラスとなったが、輸入は低迷しており一時的な動きにとどまるとみられる。一方、輸入額は前年同月比15.2%減(前月:同8.1%減)の106億ドルとなり減少幅が拡大して8カ月連続の前年割れとなった。結果として、貿易収支は▲39.2億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から5.3億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同11.7%増(前月:同6.7%増)となり、2ヵ月連続で増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同30.0%減)は減少したが、主力の半導体デバイス(同22.2%増)が増加した。その他9品目については、化学品(同42.9%減)とその他鉱業品(同38.3%減)が減少したものの、銅精鉱(同74.8%増)と精錬銅(同38.5%増)、その他(同24.2%増)、イグニッションワイヤーセット(同14.6%増)、機械・輸送用機器(同12.2%増)、生鮮バナナ(同10.9%増)、金属部品(同0.4%増)は増加するなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月08日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は中国向けが改善も、域内向けが落ち込み前年割れ続く】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は中国向けが改善も、域内向けが落ち込み前年割れ続くのレポート Topへ