2024年01月10日

ASEANの貿易統計(1月号)~11月の輸出は伸び悩み、プラス転換を前に足踏み

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)1は前年同月比1.2%減(前月:同0.5%減)の1,272億ドルとなり、9カ月連続の減少となった(図表1)。

輸出の基調は2022年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、前年割れが続いた。しかし、輸出額は既に底入れしており、足元では減少幅が大きく縮小している。今後は中国の景気回復により前年同月を上回るようになるだろうが、金融引き締めによる欧米の景気減速が重石になるとみられ、輸出持ち直しの動きは緩やかなものとなりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、北米向けが同6.1%増(前月:同3.9%増)と拡大したものの、東アジア向けが同6.2%減(前月:同3.3%減)、東南アジア向けが同1.0%減(前月:同0.7%減)、EU向けが同6.2%減(前月:同6.9%減)となり低迷した(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの11月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比6.9%増(前月:同5.7%増)の311億ドルとなり3カ月連続で前年同月を上回った(図表3)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向にあるが、足元では電子部品の出荷が増えるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額も前年同月比4.3%増(前月:同6.0%増)の295億ドルとなり増加が続いた。結果として貿易収支は+15.4億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から11.9億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比3.6%減(前月:同1.2%減)となり2ヵ月連続で減少したものの、コンピュータ、電子製品・同部品が同25.2%増(前月:同6.7%増)となり二桁増に加速した(図表4)。アパレル関連については履物が同0.2%増(前月:同10.9%減)が小幅に増加した一方、織物・衣類が同6.0%減(前月:同5.6%減)と低迷した。農林水産物を見ると、コメ(同38.4%増)やカシューナッツ(同28.7%増)、野菜(同23.2%増)、コーヒー(同16.8%増)、天然ゴム(同1.3%増)、水産物(同0.1%増)など、主要品目が幅広く増加した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同3.6%増(前月:同2.4%増)となり、2ヵ月連続で増加した。また地場企業は同16.1%増(前月:同15.6%増)となり3ヵ月連続の二桁増となった。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.9%増(前月:同8.0%増)の234億ドルとなり、4ヵ月連続で増加した(図表5)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では工業製品に加えてコメの出荷が伸びるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額は前年同月比10.1%増(前月:同10.2%増)の258ドルとなり、2ヵ月連続で増加した。結果として、貿易収支が▲24.0億ドルとなり、赤字幅は前月から15.7億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同3.5%増(前月:同4.0%増)となり2ヵ月連続で増加した(図表6)。製造品の内訳を見ると、自動車・部品(同4.7%減)や石油化学製品(同3.3%減)が減少したものの、金属・鉄鋼(同24.0%増)が二桁増となったほか、電子製品(同8.1%増)や機械・装置(同2.7%増)、家電製品(同1.4%増)などが増加した。また鉱業・燃料は同40.9%増(前月:同60.7%増)となり、石油製品(同51.4%増)を中心に4ヵ月連続で大幅に増加した。このほか、農産物・同加工品は同2.8%増(前月:同7.1%増)となり3カ月連続で増加した。農産物・同加工品の内訳をみると、ゴム製品(同21.7%減)やドリアン(同67.3%減)、加工食品(同1.1%減)が減少した一方、コメ(同67.9%増)や天然ゴム(同14.5%増)などが増加しており、品目によってまちまちだった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの11月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比7.4%減の260億ドルとなり、前月の同5.5%減からマイナス幅が拡大、9カ月連続の前年割れとなった(図表7)。輸出の基調は2022年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加したが、その後は世界的な需要減退と商品価格の下落により伸び悩み、昨年は減少傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比0.0%増(前月:同1.4%減)の234億ドルとなり僅かながら増加した。結果として、貿易収支が+26.5億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.7億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同14.3%減(前月:同1.9%減)となり、主力の電気・電子製品(同15.2%減)を中心に4ヵ月連続で減少した(図表8)。一方、鉱物性燃料は同2.6%増(前月:同25.6%減)となり小幅ながら増加した。鉱物性燃料の内訳をみると、石油製品(同7.3%減)と天然ガス(同16.1%減)、原油(同24.4%減)が揃って減少した。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同6.9%減)や化学製品(同11.8%減)が低迷、動植物性油脂(同9.5%減)も2ヵ月ぶりに減少した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.6%減(前月:同10.4%減)の220億ドルとなり、6ヵ月連続の前年割れとなった(図表9)。輸出は2022年後半から海外経済の減速や石炭およびパーム油などの主要商品価格の下落により低迷し、昨年3月から減少傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比3.3%増(前月:同2.4%減)の195億ドルとなり、6ヵ月ぶりに増加した。結果として、貿易収支が+24.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から10.6億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出は同9.8%減(前月:同11.4%減)、と大幅な減少が続く一方、石油ガス輸出は同16.4%増(前月:同6.5%増)と3カ月連続で増加した(図表10)。動植物性油脂(同10.6%減)や鉱産物(同19.8%減)、電気機械(同7.7%減)、機械(同6.8%減)、織物類(同14.8%減)、鉄・鉄鋼(同2.2%減)など減少した品目が多かった。一方、プラスチック・ゴム製品(同4.9%増)や自動車・同部品(同4.0%増)、真珠・貴石・半貴石(同21.3%増)については増加した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの11月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比4.0%増の108億ドルとなり、前月の同0.3%増から上昇した(図表11)。輸出の基調は2022年後半から電子製品、非電子製品が振るわず減少が続いたが、昨年10月は負のベース効果(前年の水準が高かったこと)が和らぎ1年2カ月ぶりに前年同月を上回ると、11月は医薬品の出荷が伸びて2ヵ月連続で増加した。

総輸出額は同5.9%増(前月:同6.8%増)の413億ドル、総輸入額が0.4%増(前月:同1.5%増)の366億ドルとなり、それぞれ増加した。結果として、貿易収支は+46.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から1.3億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同10.2%減(前月:同1.9%減)と減少幅が拡大して16カ月連続のマイナスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同44.6%増)が増加した一方、主力のIC(同15.6%減)とPC(同46.3%減)が大幅に減少した。また全体の約3割を占める化学品は同35.7%増(前月:同6.1%減)となり二桁増に拡大した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同4.6%減)が減少したものの、医薬品(同125.3%増)が急増した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの11月の輸出額(通関ベース)は前年同月比13.7%減(前月:同17.5%減)の61億ドルとなり3ヵ月連続で減少した(図表13)。輸出の基調は昨年5月以降、電子製品の出荷が底入れして上向きつつあるが、足元は前年同月の出荷が好調だったため再び減少幅が拡大している。一方、輸入額は前年同月比0.0%増(前月:同2.4%減)の108億ドルとなり、小幅ながらプラスの伸びとなった。結果として、貿易収支が▲46.9億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から3.0億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同24.7%減(前月:同28.9%減)となり、大幅な減少が続いた(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同25.7%減)と電子データ処理機(同21.9%減)が揃って落ち込んだ。その他9品目については電子機器・部品(同16.0%減)やその他鉱業品(同6.2%減)、その他製造品(同1.8%減)が減少した一方、機械・輸送用機器(同33.9%増)や精錬銅(同38.0%増)と生鮮バナナ(同31.6%増)、化学品(同30.1%増)、イグニッションワイヤーセット(同10.6%増)、金属部品(同12.8%増)など増加した品目が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
1 シンガポールは地場輸出の値を用いて算出。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年01月10日「経済・金融フラッシュ」)

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