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- タイ経済:23年10-12月期の成長率は前年同期比1.7%増~政府支出の減少により1%台の低成長が継続
2024年02月19日
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2023年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比1.7%増1(前期:同1.5%増)と上昇したが、市場予想2(同2.6%増)を下回る結果となった(図表1)。前期比(季節調整後)の成長率は0.6%減だった。
なお、2023 年通年の成長率は前年比1.9%増(2022年:同2.5%増)と低下、従来の政府の成長率予測の2.5%を下回った。
なお、2023 年通年の成長率は前年比1.9%増(2022年:同2.5%増)と低下、従来の政府の成長率予測の2.5%を下回った。
10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に民間消費の堅調な拡大が成長率上昇に繋がった。
民間消費は前年同期比7.4%増(前期:同7.9%増)と好調を維持した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同35.4%増)の大幅な増加が続いたほか、その他財サービス(同6.3%増)や娯楽・文化(同5.5%増)、保健衛生(同4.9%増)、食料・飲料(同4.7%増)、通信(同3.7%増)、住宅・水道・電気・燃料(同3.5%増)、交通(同3.5%増)が順調に増加した。一方、家具、備品、メンテナンス(同1.3%増)は伸び悩んだ。
政府消費は同3.0%減(前期:同5.0%減)と低迷した。雇用者報酬(同2.5%増)が増加したものの、現物社会給付(同14.1%減)と財・サービスの購入(同8.0%減)が減少した。
総固定資本形成は同0.4%減(前期:同1.5%増)と小幅に減少した。投資の内訳を見ると、民間投資が同5.0%増(前期:同3.5%増)と加速したが、公共投資が同20.1%減(前期:同3.4%減)と落ち込んだ。
純輸出は成長率寄与度が+0.6%ポイントとなり、前期の+7.9%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は同4.9%増(前期:同1.1%増)と加速した。サービス輸出が同14.7%増と大幅に増加が続いたほか、財貨輸出が同3.4%増(同3.0%減)とプラスに転じた。一方、財・サービス輸入は同4.0%増(前期:同9.4%減)となり、輸出同様に増加した。
供給項目別に見ると、主に第三次産業の堅調な拡大が成長率上昇に繋がった(図表2)。
全体の6割を占めるサービス業は同3.9%増となり、前期の同4.0%増から概ね横ばいの伸びとなった。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同10.0%増)が二桁成長となり、また運輸・倉庫業(同6.7%増)や小売・卸売業(同5.1%増)、金融・保険業(同4.8%増)、保健衛生・社会事業(同4.4%増)が順調に増加した。一方、建設業(同8.8%減)は公共事業の縮小により大幅に減少した。また不動産業(同1.1%増)、教育(同1.7%増)、国防・社会保障(同2.4%増)、情報・通信業(同2.9%増)は緩やかな伸びにとどまった。
鉱工業は同1.5%減となり、前期の同3.1%減からマイナス幅が縮小したものの、5四半期連続の減少となった。まず主力の製造業は同2.4%減(前期:同4.4%減)と低迷した。製造業の内訳を見ると、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同3.6%増)がプラス成長となったものの、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同5.4%減)と食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同6.2%減)が揃って低迷した。一方、電気・ガス業が同6.0%増(前期:同4.7%増)と堅調に拡大したほか、鉱業が同1.3%増(前期:同1.5%増)と、天然ガスとコンデンセートの生産量が改善して2四半期連続で増加した。
農林水産業は前年同期比0.8%減(前期:同1.1%増)と5四半期ぶりに減少した。天候不順によりコメ(同3.7%減)やパーム油(同18.3%減)、キャッサバ(同14.0%減)などの主要作物の収量が減少したことが響いた。
1 2月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2023年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
全体の6割を占めるサービス業は同3.9%増となり、前期の同4.0%増から概ね横ばいの伸びとなった。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同10.0%増)が二桁成長となり、また運輸・倉庫業(同6.7%増)や小売・卸売業(同5.1%増)、金融・保険業(同4.8%増)、保健衛生・社会事業(同4.4%増)が順調に増加した。一方、建設業(同8.8%減)は公共事業の縮小により大幅に減少した。また不動産業(同1.1%増)、教育(同1.7%増)、国防・社会保障(同2.4%増)、情報・通信業(同2.9%増)は緩やかな伸びにとどまった。
鉱工業は同1.5%減となり、前期の同3.1%減からマイナス幅が縮小したものの、5四半期連続の減少となった。まず主力の製造業は同2.4%減(前期:同4.4%減)と低迷した。製造業の内訳を見ると、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同3.6%増)がプラス成長となったものの、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同5.4%減)と食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同6.2%減)が揃って低迷した。一方、電気・ガス業が同6.0%増(前期:同4.7%増)と堅調に拡大したほか、鉱業が同1.3%増(前期:同1.5%増)と、天然ガスとコンデンセートの生産量が改善して2四半期連続で増加した。
農林水産業は前年同期比0.8%減(前期:同1.1%増)と5四半期ぶりに減少した。天候不順によりコメ(同3.7%減)やパーム油(同18.3%減)、キャッサバ(同14.0%減)などの主要作物の収量が減少したことが響いた。
1 2月19日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2023年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査
10-12月期GDPの評価と先行きのポイント
タイ経済は、2022年はコロナ禍からの経済活動の正常化により通年の実質GDP成長率が前年比+2.5%(2021年:同+1.6%)と上向いたが、2023年は輸出低迷が響いて成長率が同1.9%と再び低下した。そして今回発表された2023年10-12月期の成長率は前年同期比+1.7%となり、7-9月期の同+1.5%から小幅に上昇したが、景気回復は限定的で緩慢な成長が続いていることが明らかとなった。
10-12月期の成長率上昇は主にインバウンド需要の回復による影響が大きい。タイでは入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いている。10-12月期の外国人観光客数は809万人とアジアからの観光客を中心に増加、コロナ禍前の8割の水準まで持ち直した結果(図表3)、サービス輸出(前年同期比+14.7%)が好調だった。こうした観光業の回復により雇用情勢が改善して失業率が1%を下回る低水準で推移するなかで家計の所得が増加し、消費者信頼感指数は回復傾向が続いている(図表4)。また政府による燃料価格の引下げやインフレ率の低迷により家計の実質的な購買力が向上したことも、民間消費(同+7.4%)の好調に繋がったとみられる。
また財貨輸出(同+3.4%)は5四半期ぶりに増加した。最大のコメ輸出国であるインドがコメの輸出規制を実施したことで、タイのコメ(同+43.8%)の輸出が大きく伸びた。また金属製品(同+14.7%)や自動車部品(同+10.7%)、石油製品(同+52.2%)などが増加した。一方、主要輸出品であるハードディスクドライブ(HDD)を含むコンピュータ部品(同▲4.9%)やエアコン(同▲28.8%)、乗用車(同▲7.3%)などは引き続き減少した。
一方、投資(同▲0.4%)は停滞した。タイでは昨年の新政権発足により政治の不透明感が和らいで民間投資(同+5.0%)が回復したものの、2024年度政府予算編成の遅れにより公共投資(同▲20.1%)が大幅に減少した。また政府消費(同▲3.0%)も縮小、6四半期連続のマイナス成長となった。2022年のコロナ関連の医療費支出が継続的に減少したことにより現物社会給付(同▲14.1%)が大幅に減少した。
10-12月期の成長率上昇は主にインバウンド需要の回復による影響が大きい。タイでは入国規制を緩和した2022年から外国人観光客数の増加傾向が続いている。10-12月期の外国人観光客数は809万人とアジアからの観光客を中心に増加、コロナ禍前の8割の水準まで持ち直した結果(図表3)、サービス輸出(前年同期比+14.7%)が好調だった。こうした観光業の回復により雇用情勢が改善して失業率が1%を下回る低水準で推移するなかで家計の所得が増加し、消費者信頼感指数は回復傾向が続いている(図表4)。また政府による燃料価格の引下げやインフレ率の低迷により家計の実質的な購買力が向上したことも、民間消費(同+7.4%)の好調に繋がったとみられる。
また財貨輸出(同+3.4%)は5四半期ぶりに増加した。最大のコメ輸出国であるインドがコメの輸出規制を実施したことで、タイのコメ(同+43.8%)の輸出が大きく伸びた。また金属製品(同+14.7%)や自動車部品(同+10.7%)、石油製品(同+52.2%)などが増加した。一方、主要輸出品であるハードディスクドライブ(HDD)を含むコンピュータ部品(同▲4.9%)やエアコン(同▲28.8%)、乗用車(同▲7.3%)などは引き続き減少した。
一方、投資(同▲0.4%)は停滞した。タイでは昨年の新政権発足により政治の不透明感が和らいで民間投資(同+5.0%)が回復したものの、2024年度政府予算編成の遅れにより公共投資(同▲20.1%)が大幅に減少した。また政府消費(同▲3.0%)も縮小、6四半期連続のマイナス成長となった。2022年のコロナ関連の医療費支出が継続的に減少したことにより現物社会給付(同▲14.1%)が大幅に減少した。
先行きのタイ経済は2024年度予算と景気刺激策が実施されれば、国内需要が押し上げられて成長率は3%台への加速も予想され、タイ経済の動向を悲観する必要はないようにみえる。しかしながら、1-3月期も2024年度政府予算の執行が遅れるほか、政府が5月に予定するデジタル通貨1万バーツの給付金事業は国家汚職追放委員会(NACC)の調査に時間をとられて遅延が避けられない状況となるなど、はっきりとした景気回復が現れるまでには時間がかかりそうだ。タイ政府は2024年の成長率が2.2%~3.2%と予測しており、従来予測の2.7%~3.7%から下方修正している。セーター首相はタイ中銀に対して利下げを要請しているが、中銀は早期の利下げに否定的な見方を示すなど、政府と中銀の足並みは揃っていない。今回10-12月期のGDPが期待外れの結果だったことを受けて、タイ中銀が早期利下げを検討する可能性がでてきたよう思える。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年02月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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