2024年02月08日

ASEANの貿易統計(2月号)~輸出は12月も足取りが鈍く、プラス転換せず

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)1は前年同月比2.8%減(前月:同1.3%減)の1,248億ドルとなり、10カ月連続の減少となった(図表1)。

輸出の基調は2022年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、前年割れが続いた。しかし、輸出額は既に底入れしており、足元では減少幅が大きく縮小してきている。今後は中国経済の緩やかな回復や負のベース効果の剥落により前年同月を上回るようになるだろうが、金融引き締めによる欧米の景気減速が重石になるとみられ、輸出持ち直しの動きは緩やかなものとなりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、北米向けが同3.4%増(前月:同6.3%増)と増加傾向を保ったものの、東アジア向けが同1.4%減(前月:同6.2%減)、東南アジア向けが同9.5%減(前月:同1.0%減)、EU向けが同10.4%減(前月:同6.8%減)と低迷した(図表2)。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの12月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比8.1%増(前月:同6.9%増)の314億ドルとなり4カ月連続で前年同月を上回った(図表3)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では電子部品の出荷が増えるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額も前年同月比7.8%増(前月:同4.3%増)の294億ドルとなり増勢が加速した。結果として貿易収支は+20.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から5.2億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比19.6%増(前月:同3.6%減)が増加に転じると共に、コンピュータ、電子製品・同部品が同18.8%増(前月:同25.2%増)の二桁増となった(図表4)。アパレル関連については履物が同0.3%増(前月:同0.2%増)と小幅ながら増加を維持した一方、織物・衣類が同0.8%減(前月:同6.0%減)と低調だった。農林水産物を見ると、コメ(同53.8%増)やコーヒー(同40.8%増)、野菜(同31.5%増)、カシューナッツ(同27.7%増)、天然ゴム(同2.4%増)などの主要品目が幅広く増加した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同6.5%増(前月:同3.6%増)、地場企業が同12.5%増(前月:同16.1%増)となり、それぞれ増加傾向が続いた。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比4.7%増(前月:同4.9%増)の227億ドルとなり、5ヵ月連続で増加した(図表5)。輸出の基調は2022年後半から海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向が続いたが、足元では工業製品に加えてコメの出荷が伸びるなど持ち直しの動きがみられる。また輸入額は前年同月比3.0%減(前月:同10.1%増)の218ドルとなり、3ヵ月ぶりに減少した。結果として、貿易収支が9.7億ドルとなり、前月から33.7億ドル改善して黒字化した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同2.9%増(前月:同3.5%増)となり3ヵ月連続で増加した(図表6)。製造品の内訳を見ると、機械・装置(同10.7%減)や家電製品(同2.0%減)、石油化学製品(同0.3%減)が減少したものの、金属・鉄鋼(同16.4%増)や電子製品(同5.4%増)、自動車・部品(同2.0%増)などが増加した。また鉱業・燃料は同35.2%増(前月:同40.9%増)となり、石油製品(同43.3%増)を中心に5ヵ月連続で大幅に増加した。一方、農産物・同加工品は同2.3%減(前月:同2.8%増)となり4カ月ぶりに減少した。農産物・同加工品の内訳をみると、ドリアン(同65.4%減)やゴム製品(同11.6%減)が減少した一方、コメ(同27.4%増)や天然ゴム(同13.2%増)、加工食品(同0.3%増)などが増加するなど、品目によってまちまちだった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの12月の輸出額(通関ベース、ドル換算)は前年同月比14.8%減の254億ドルとなり、前月の同7.6%減からマイナス幅が拡大、10カ月連続の前年割れとなった(図表7)。輸出の基調は2022年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加したが、その後は世界的な需要減退と商品価格の下落、そして前年の高いベース効果の影響により減少傾向が続いている。また輸入額は前年同月比2.6%減(前月:同0.1%減)の229億ドルとなり10カ月連続で減少した。結果として、貿易収支が+25.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.8億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同16.7%減(前月:同14.4%減)となり、主力の電気・電子製品(同16.8%減)を中心に5ヵ月連続で減少した(図表8)。一方、鉱物性燃料は同12.4%減(前月:同1.3%増)となり2ヵ月ぶりに減少した。鉱物性燃料の内訳をみると、原油(同27.9%増)こそ増加したものの、石油製品(同27.4%減)と天然ガス(同5.4%減)が減少した。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同16.9%減)や化学製品(同16.2%減)、動植物性油脂(同34.8%減)が低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比5.8%減(前月:同8.6%減)の224億ドルとなり、7ヵ月連続の前年割れとなった(図表9)。輸出は2022年後半から海外経済の減速や石炭およびパーム油などの主要商品価格の下落により落ち込み、昨年3月から減少傾向が続いている。また輸入額は前年同月比3.8%減(前月:同3.3%増)の191億ドルとなり、2ヵ月ぶりに減少した。結果として、貿易収支が+33.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から9.0億ドル拡大した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出は同6.2%減(前月:同9.8%減)と減少傾向が続く一方、石油ガス輸出は同1.5%増(前月:同16.4%増)と4カ月連続で増加した(図表10)。動植物性油脂(同23.4%減)やオイル・ガスを除く鉱物性燃料(同16.5%減)、自動車・同部品(同13.8%減)、履物(同7.6%減)など総じて減少した品目が多かった。一方、真珠・貴石・半貴石(同57.6%増)やスラグ・灰(同19.2%増)、機械(同10.5%増)などは増加した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの12月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比0.0%減(前月:同4.0%増)の104億ドル、電子製品の回復が鈍く僅かながら前年割れとなった(図表11)。輸出の基調は2022年後半から電子製品、非電子製品が振るわず減少が続いたが、昨年10月以降は負のベース効果が和らぎ増加傾向に転じつつある。

総輸出額は同3.2%減(前月:同5.6%増)の393億ドル、総輸入額が7.9%減(前月:同0.4%増)の339億ドルとなり、それぞれ減少した。結果として、貿易収支は+54.2億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から8.5億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同10.4%減(前月:同10.2%減)の二桁減少となり17カ月連続のマイナスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同6.6%減)をはじめとしてPC(同33.4%減)やディスクメディア(同9.8%減)などが大幅に減少した。一方、全体の約3割を占める化学品は同11.1%増(前月:同35.8%増)となり二桁増が続いた。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同12.8%減)が減少したものの、医薬品(同59.3%増)が大幅に増加した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比0.5%減(前月:同13.0%減)の57億ドルとなり4ヵ月連続で減少した(図表13)。輸出の基調は昨年5月以降、電子製品の出荷が底入れした後も持ち直しの動きが鈍いが、12月にようやく前年同月の水準が高かったことによるベース効果の影響が剥落して増加に転じつつある。一方、輸入額は前年同月比5.1%減(前月:同1.3%増)の97億ドルとなり、減少した。結果として、貿易収支が▲40.1億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から7.2億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同2.7%増(前月:同24.7%減)となり、小幅ながら4カ月ぶりに増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同20.9%減)が低迷したものの、主力の半導体デバイス(同8.7%増)が回復した。その他9品目については、その他鉱業品(同46.1%減)や機械・輸送用機器(同20.9%減)、精錬銅(同7.3%減)、イグニッションワイヤーセット(同0.4%減)が減少した一方、金(同68.6%増)や生鮮バナナ(同29.2%増)、化学品(同19.2%増)、ココナッツオイル(同4.3%増)、その他製造品(同17.4%増)が増加しており、僅かに増加した品目の方が多かった。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
1 シンガポールは地場輸出の値を用いて算出。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年02月08日「経済・金融フラッシュ」)

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