2024年06月14日

欧州経済見通し-消費主導の緩やかな回復へ

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済はロシア・ウクライナ戦争後のエネルギー価格の高騰とインフレ急進、金融引き締めの影響を受けた停滞から脱しつつある。
     
  2. ユーロ圏の1-3月期の実質成長率は前期比0.3%(年率1.3%)となった。エネルギー高で景気減速懸念が強まった22年夏から23年末まではほぼゼロ成長だったが、24年に入って改善した。ただし、1-3月期の改善はサービス輸出主導であり、内需の消費も緩やかな回復が継続しているが、力強さはない。景況感にも改善の兆しは見られるが、盛り上がりに欠ける。
     
  3. インフレ率は、原材料価格下落や需要低迷を受けて趨勢としては低下している。ただし、賃金上昇圧力は根強く、サービスインフレの粘着性によりインフレ低下ペースが減速しており、足もとでは横ばい圏で推移している。
     
  4. ECBは、6月に0.25%ポイントの利下げに踏み切った。ただし、当面は政策金利を引き締め水準に維持する姿勢を強調、追加利下げの判断は慎重に行うと見られる。引き続きデータを確認しつつ、段階的な引き締め度合いの緩和が見込まれる。
     
  5. 今後については、実質所得環境が改善するなか、消費を中心にした回復が継続すると見られる。ECBによる金融引き締め度合いの緩和も景気の下支えになるだろう。成長率は24年0.7%、25年1.5%、インフレ率は24年2.5%、25年2.2%を予想している(図表1・2)。
     
  6. 予想に対するリスクは、成長率見通しに対しては下方(域外経済の減速、金融引き締めによる想定以上の悪影響)に傾いており、インフレ見通しに対しては上方(賃金上昇率の高止まりによる想定以上のインフレ圧力など)と下方(需要減速によるインフレ鎮静化など)の双方に不確実性があると考える。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・実体経済:ゼロ成長から脱却
  ・景況感にも改善の兆し
  ・雇用のひっ迫状態は継続
  ・物価・賃金:賃金伸び率は高止まりでインフレ低下ペースは減速
  ・財政政策:財政健全化へ向けた動きが本格化
  ・金融政策・金利:利下げに着手
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:実質賃金の回復が成長を後押し
  ・リスク:成長率は下方、インフレは上下双方にリスク

(2024年06月14日「Weekly エコノミスト・レター」)

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