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1.結果の概要:政策金利を0.25%ポイント引き下げ
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.25%引き下げ
【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは実質成長率を24年0.9%、25年1.4%、26年1.6%と予想(24年を上方修正)
(前回3月は24年0.6%、25年1.5%、26年1.6%)
・インフレ率を24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%と予想(上方修正)
(前回3月は24年2.3%、25年2.0%、26年1.9%)
・コアインフレ率を24年2.8%、25年2.2%、26年2.0%と予想(上方修正)
(前回3月は24年2.6%、25年2.1%、26年2.0%)
・(利下げの決定は)1人の中銀総裁を除いた全員の意見が一致した
・金融政策の制限度合いを縮小する段階に入った可能性は高いが、データ依存であり、そのスピードやかかる時間には大きな不確実性がある
2.金融政策の評価:今後の利下げやペースについての新しい情報には乏しい結果
利下げの決定は、会合前に多くの理事会メンバーから利下げを容認する発言が相次いでいたこともあり、規定路線だったと言える。理事会では今後の追加利下げやそのペースについての情報が注目され、ラガルド総裁の記者会見でも、追加利下げやペースに関する質問が多く見られたが、新たな情報はほとんど提示されなかった。これまでと同様、データ依存で会合毎に判断を行い、利下げのスピードやかかる時間には大きな不確実性があると言及された。
ただし、今回の会合前に公表された主要データでは、1-3月期の妥結賃金上昇率(4.7%)が10-12月(4.5%)から加速、5月のインフレ率速報値(2.6%)も市場予想を上回り4月(2.4%)から加速するなど、インフレの粘着性が懸念される結果になっていた。また、会合と同時に公表されたスタッフ見通しでは、3月時点から市場予測の今後の政策金利経路が引き上げられた2にも関わらず、インフレ見通しは24年と25年が上方修正された。加えて、声明文では、前回6月に追加された、「インフレ率が目標に収束するという自信を強めることができれば利下げが適当」という利下げの条件(ガイダンス)が削除された。ラガルド総裁も、ディスインフレ過程が想定通りに進むのか今後数か月かけて判断したいとの趣旨の発言をしており、少なくとも、早期の追加利下げが視野に入っている状況ではないと言える。総じて見れば、規定路線であった利下げを実施する一方で、今後については、追加利下げを慎重に判断したいという、タカ派な色彩が強かった結果だったと言える。
1 報道ではオーストラリア中銀総裁でタカ派のホルツマン氏が反対票を投じたとされる。
2 スタッフ見通しでは政策金利経路の前提は明かされていない(具体化されていない)が、3か月EURIBORの前提が24年3.6%、25年2.8%、26年2.5%と3月の前提(24年3.4%、25年2.4%、26年2.4%)から引き上げられている。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を0.25%引き下げることを決定した
- 更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さに関する評価に基づき、9か月の金利据え置きの後、金融政策の引き締め度合いをやや緩和させることが適切だとした
- 23年9月の会合以来、インフレ率は2.5%ポイント以上低下し、インフレ見通しは大幅に改善した
- 基調的なインフレ率もまた緩和し、物価高圧力の弱まりの兆候とインフレ期待のすべての年限での低下を裏付けている
- 金融政策は資金調達環境を制限的に保っている
- 需要の抑制とインフレ期待の固定により、インフレ率の低下に大きく貢献している
- 同時に、ここ数四半期の進捗にも関わらず、域内インフレ圧力は強く、賃金上昇率は高止まりしており、来年にかけてインフレ率は2%目標を上回る状況が続くと見られる
- 最新のユーロシステムのスタッフ見通しは、24年と25年のヘッドラインとコアインフレを3月見通しに比べて上方修正した
- スタッフはヘッドラインインフレ率を年平均で24年2.5%、25年2.2%、26年1.9%と予想している
- エネルギーと飲食料を除くインフレ率は年平均で24年2.8%、25年2.2%、26年2.0%と予想している
- 経済成長率は24年に0.9%に上昇し、25年1.4%、26年1.6%と見込まれる
- 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
- この目的のために、政策金利を必要とされる期間にわたり十分に制限的に維持する
- 理事会は適切な制限水準と期間を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
- (「もし、理事会の更新されたインフレ見通しの評価、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さが、持続的にインフレ率が目標に収束するという自信を強めるのであれば、現在の制限的な金融政策水準を引き下げるのが適当となるだろう」との表現は削除)
- 理事会は本日、ユーロシステムのパンデミック緊急資産購入プログラム(PEPP)による保有証券を、下半期に月あたり平均75億ユーロ削減することを確認した
- PEPPの保有削減の方法は、資産購入プログラム(APP)とほぼ同様である
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 政策金利の引き下げ(利下げの決定)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.25%
- 限界貸出ファシリティ金利:4.50%
- 預金ファシリティ金利:3.75%
- 24年6月12日から適用
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
- PEPP元本償還分の再投資実施(内容に変更なし)
- 理事会は、PEPPの元本償還について、24年6月末までは全額の再投資を続ける
- 24年下半期にはPEPP保有残高を月額平均75億ユーロ削減する
- 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
- PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
- 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
(資金供給オペ)
- 流動性供給策の監視(変更なし)
- 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策金利とスタッフ見通しへの言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 5四半期の停滞の後、ユーロ圏経済は24年1-3月期に0.3%成長した
- サービス部門が拡大し、製造業は低水準で安定する兆しを見せている
- 我々は賃金の上昇と交易条件の改善が実質所得を押し上げ、経済が回復を続けると見ている
- 数四半期は、世界的な財・サービス需要の拡大に伴う輸出の強さも成長を支えるだろう
- 金融政策も、需要の抑制度合いは次第に小さくなるだろう
- 雇用者数は今年1-3月期に0.3%上昇し、50万の職が生み出され、サーベイ調査では短期的な成長が続くことが示唆されている
- 失業率は4月に6.4%とやや低下し、ユーロ圏発足以来の最低水準にある
- 企業は、以前よりは少ないものの、引き続き多くの求人を出している
- 国家の財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的にし、競争力を向上させるために実施されるべきであり、これは中期的な潜在成長力の向上とインフレ圧力の削減に寄与するだろう
- 効率的、迅速かつ完全な次世代EUプログラムの実行、資本市場同盟と銀行同盟完成に向けた進捗、単一市場(Single Market)の強化はイノベーションの促進とグリーンやデジタル移行への投資を増加させる助けになるだろう
- EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)が遅延なく完全に実行されることは、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
- (「政府は、ディスインフレ過程が持続的に進むよう、引き続きディスインフレの過程が持続的に進むよう、エネルギー関連支援策を終了させるべきである」との記載は削除)
(インフレ)
- ユーロスタットの速報値によればインフレ率は5月に前年比2.6%と4月の2.4%から上昇した
- 食料インフレは2.6%に低下した
- エネルギーインフレは、1年間の前年比マイナスの後、0.3%上昇となった
- 財インフレは5月には低下を続け0.8%となった
- 対照的に、サービスインフレは大幅に上昇し、4月の3.7%から4.1%となった
- ほどんどの基調的インフレ率はデータが取得できる最新の4月に低下し、価格上昇圧力が緩やかに解消されているという構図を裏付けるものとなった
- しかしながら、域内インフレは引き続き高い
- 賃金は依然として高い上昇率を見せており、過去のインフレ高騰を補填している
- これは1-3月期の妥結賃金の上昇に見られたように、賃金交渉の段階的な性質と、一時金支払の影響で、労働コストは短期的には変動しやすくなっている
- 同時にフォワードルッキングな指標は、賃金上昇率が今年にかけて緩和していくことを示している
- 利益は単位労働コストの大幅な上昇を一部吸収しており、インフレ圧力を軽減させている
- インフレ率は、エネルギー価格に関連したベース効果も含めて今後数か月は現在の水準前後で変動すると見られる
- その後来年後半にかけて、労働コストの低下と制限的な金融政策効果、エネルギー危機やコロナ禍の影響が解消されることで、目標に向けて低下すると見られる
- 長期のインフレ率は総じて安定しており、ほとんどが2%近くになっている
(2024年06月07日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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