2024年05月10日

英国金融政策(5月MPC公表)-6会合連続で政策金利据え置きを決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:6会合連続で政策金利据え置きを決定

英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、5月9日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を5.25%で据え置き(8対2で、2名は0.25%の引き下げを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
成長率見通しは24年0.5%、25年1%、26年1.25%(上方修正)
インフレ率見通しは24年2.5%、25年2.25%、26年1.5%(10-12月期の前年比、下方修正)
6月の政策金利の変更は除外されていないし、既成事実でもない
目標達成のためには、今後数四半期のうちに、政策金利を引き下げる必要がある

2.金融政策の評価:利下げが視野に入りつつある

イングランド銀行は今回のMPCで政策金利の据え置きを決定した。金利据え置きは市場の予想通りの結果で、6会合連続となる。ただし、利下げを主張する反対派が前回3月会合から1名増え2名となった。

MPCと同時に公表されたMPRにおいては、インフレ見通しが下方修正された1。また、現状の評価について、委員会は労働力調査の結果がサンプル数の不足から不確実性が高くなっているなど測定が難しい面がある点を指摘しつつ、インフレの持続性に関する主要な指標は、(高いものの)総じて予想通り緩和しているとの評価を行っている。全体として、ハト派色が強い会合だったと言える。

欧州では4月に会合を実施したECBが6月利下げを強く示唆する姿勢を見せているが、イングランド銀行でも利下げが視野に入りつつあると言える。ベイリー総裁も、金融政策はデータ次第で決定していくとの姿勢を強調した上で、今後数四半期内の利下げが必要だろうこと、6月の金利変更を排除しないこと、市場の金利見通しを前提とすると、インフレ見通しが見通し期間終盤に2%を割るため、市場の金利見通しより緩和的な金融政策を行う可能性に触れている。

英国ではユーロ圏と比較して賃金上昇率やCPIインフレ率が高く、また、物価と賃金の2次的効果(second round effect)の影響も懸念されるが、ベイリー総裁が言及するようにデータ次第では(例えば労働市場の緩和や賃金上昇率、サービスインフレの低下が目立つ結果となれば)、6月の利下げが意識されるだろう。そのため、今後の労働統計やインフレデータへの注目度もより高まったと言える。
 
1 ただし、見通しの前提となっている市場が織り込む政策金利経路が前回2月時点の見通しより引き上げられている。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を据え置き、5.25%とする(7対2で決定2)、2名は0.25%ポイント引き下げ5.00%とすることを主張した
 
  • 委員会は経済活動とインフレ見通しを更新し、5月の金融政策報告書(MPR)として公表、そこでは市場予測の政策金利経路として、見通し期間末にかけて5.25%から3.75%に低下することが前提とされ、2月時点と比較すると2月は見通し期間末で3.25%だった
 
  • 国際経済では、米国とユーロ圏の最近の成長率が強い傾向にある
    • 基調的なインフレ圧力は、今年にはいり両地域でやや緩和しているが、米国では予想よりも緩和度合いは小さい
    • その結果として、米国や他地域の金利先物が上昇した
 
  • 英国のGDPは昨年の緩やかな低迷の後、24年1-3月期には0.4%、4-6月期には0.2%上昇すると見られる
    • 予測期間にわたって上昇すると見られるが、予測期間のほとんどで、需要の成長は供給の成長よりも弱い状況が続くと見られる
    • 制限的な金融政策が続けられることを一部反映し、経済の弛み(slack)は24年および25年に生じ、その後も継続すると予想される
 
  • インフレの持続性について、サービスインフレは低下しているもの、高い状況が持続しており、3月は6.0%だった
    • ONSによる労働力調査の統計は引き続き、不確実性が大きい
    • したがって、労働市場の測定はより難しくなっている
    • 広範な指標をもとに、MPCは、労働市場は引き続き緩和しているものの、歴史的な水準と比較すると、依然として相対的にひっ迫していると判断した
    • 民間部門の週当たり定期賃金上昇率は2月までの3か月間の平均で前年比6.0%に低下したが、この系列は変動も大きい
    • その他の指標は賃金上昇率の緩和を示唆している
 
  • CPIインフレ率の前年比は2月の3.4%から3月には3.2%に低下した
    • CPIインフレ率は短期的に2%に近づくとみられるが、今年下半期にはエネルギー関連のベース効果が解消することにより、やや上昇して2.5%付近となると予想する
    • インフレ見通しについては、地政学的な要因により、現時点では中東情勢が原油価格に及ぼしている影響は限定的であるものの、引き続き上昇リスクがある
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 金融政策により、CPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
 
  • 今回の会合で、委員会は政策金利を5.25%に維持することを決めた
    • ヘッドラインのCPIインフレ率は、一部は財価格のベース効果や外部効果の影響により引き続き、低下している
    • 制限的な金融政策姿勢は実体経済の重しとなり、労働市場を緩和させ、インフレ圧力を押し下げている
    • インフレの持続性に関する主要な指標は、総じて予想通り緩和しているものの、依然として高止まりしたままである
 
  • 金融政策は、MPCの責務であるインフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
    • 委員会は昨年秋以降、インフレ率が2%目標を超えて定着するリスクが消失するまで、十分な期間にわたり(for an extended period of time)、制限的にされる必要があると判断してきた
 
  • MPCは引き続き、2%目標に安定的に戻すために金融政策姿勢を経済状況に応じて調整する用意がある
    • そのため、引き続き、基調的な労働市場のひっ迫感を示す一連の指標、賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といった、経済全体におけるインフレ圧力の持続性と回復力について、引き続き注視する
    • 金融政策は、委員会の責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、十分な期間にわたり十分に制限的にされる必要がある
    • 委員会は今後、公表されるデータと、それらがインフレの持続性に関するリスクが解消してという評価に対しどのように影響するかを考慮する
    • この点に基づき、委員会は政策金利をどの程度の期間、現在の水準で維持するかの検討を続ける
 
2 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員およびラムズデン委員(副総裁)で0.25%の利下げを主張した。前回はディングラ委員のみ0.25%の利下げを主張した。

(2024年05月10日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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