2024年04月12日

ECB政策理事会-声明文に利下げに関するガイダンスを明記

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:政策金利の据え置きを決定

4月11日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。

【金融政策決定内容】
政策金利の据え置きを決定

【記者会見での発言(趣旨)】
理事会が、持続的にインフレ率が目標に収束するという自信を強めれば、現在の制限的な金融政策水準を引き下げることが適当
4月の限定されたデータでも十分に自信が強まったと考えるメンバーも数人いた
(将来の政策金利について)方向性はかなり明確だが、特定の経路を事前に確約することはなく、データ次第である
(バランスシートに関して)現在の計画されている以上の議論はしなかった

 

2.金融政策の評価:利下げガイダンスを明記

ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる5会合連続での政策金利の据え置きを決定した。

前回3月の会合において、「4月に得られるデータは相対的に少なく、6月により多くのデータが得られる」との見解が示され、また今回の会合に先駆けてタカ派の委員を含む数名の委員から6月利下げを支持・容認する発言がなされていたため、今会合では6月利下げに対する示唆がどの程度あるのかが注目された。

利下げに関しては、声明文にインフレ率が目標に収束するという自信を強めることができれば利下げが適当、として利下げの条件(ガイダンス)が追加された。なお、質疑応答を通じて少数派だが今回の利下げを支持した委員も存在したことも明らかとなった。

一方で、サービスインフレの高止まりや、足もとでの中東の地政学的な緊張を背景にした原油価格の上昇、理事会直前に公表された米国のCPIのデータの上振れなどが、インフレの上振れ懸念される要素でもあるため、6月の利下げ開始との関連で質疑応答において言及された。

ラガルド総裁の回答では、データ依存の原則を強調しつつ、2%インフレ目標は全体での達成を目指しており一部の品目が高めのインフレでも利下げできること、インフレ低下は直線的ではなくデコボコしておりエネルギー価格の上昇は将来発生するベース効果なども含めて評価する必要があること、インフレの性質は米国とはユーロ圏で異なること、などについて触れられた。必ずしも利下げ開始を阻むものではないことが示唆されたと言える。ECBの指摘するように6月までにはさらに多くのデータは得られるが、大きなサプライズが無い限り、6月の利下げ開始が濃厚と見られる。

一方で、声明文には、将来の政策金利経路について特定の金利経路を事前に確約しないことも盛り込まれた。質疑応答で、金融政策の「方向性はかなり明確」と言及されており、将来については段階的な利下げが行われることが見込まれるが、今会合では利下げペースについての情報は少なかった。むしろ6月理事会までに得られるデータ・情報は次々回7月の追加利下げを含めた今後の利下げペースを予想する上で注目されるものと見られる。

3.声明の概要(金融政策の方針)

今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 理事会は、本日、3つの主要な政策金利を据え置くことを決定した
    • 最新の情報は前回の理事会の中期的なインフレ見通しに関する評価を総じて裏付けるものとなった
    • インフレ率は食料品や財の低いインフレ率に主導され、低下を続けている
    • ほとんどの基調的なインフレ率が緩和しており、賃金上昇率は緩やかに軟化し、企業は労働コスト増加の一部を利益によって吸収している
    • 金融調達環境は引き続き制限的であり、過去の利上げは引き続き需要を抑制し、インフレ率の押し下げに寄与している
    • しかしながら、域内インフレは強く、サービスインフレは高止まりしている
 
  • 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
    • 理事会は主要政策金利の現在の水準がディスインフレ過程の新興に重大な貢献をすると考えている
    • 理事会の将来の決定について、政策金利が必要とされる期間にわたり十分に制限的な水準にとどまるよう保証する
    • もし、理事会の更新されたインフレ見通しの評価、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さが、持続的にインフレ率が目標に収束するという自信を強めるのであれば、現在の制限的な金融政策水準を引き下げるのが適当となるだろう
    • いずれにしても、理事会は引き続き、適切な制限水準と期間を決定するためにデータ依存かつ会合毎のアプローチを続け、特定の金利経路を事前に確約しない
 
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 政策金利の維持(変更なし)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:4.50%
    • 限界貸出ファシリティ金利:4.75%
    • 預金ファシリティ金利:4.00%
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • 理事会は、PEPPの元本償還について、24年上半期は全額の再投資を続ける
    • 24年下半期にはPEPP保有残高を月額平均75億ユーロ削減する予定である
    • 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (声明文冒頭に記載の政策金利とスタッフ見通しへの言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 1-3月期の経済活動は引き続き弱い
    • サービス支出は底堅い一方で、製造業企業は需要の弱さに直面しており、特にエネルギー集約型産業において生産は停滞している。
    • サーベイ調査はサービス産業にけん引され今年にかけて緩やかに回復することを示唆している
    • この回復はインフレ低下の結果としての実質所得の上昇や、賃金上昇、交易条件の改善よって支えられると見られる
    • 加えて、ユーロ圏の輸出成長率は、世界経済の回復と財支出へのシフトに伴う形で先々数四半期にわたって回復するだろう
 
  • 失業率はユーロ圏発足以来の最低水準にある
    • 同時に労働市場のひっ迫は、雇用主が求人広告を減らす形で引き続き緩やかに低下している
 
  • 政府は、ディスインフレ過程が持続的に進むよう、引き続きディスインフレの過程が持続的に進むよう、エネルギー関連支援策を終了させるべきである
    • EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)の遅延のない実行は政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
    • 国家の財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的にし、競争力を向上させるために実施されるべきであり、これは中期的なインフレ圧力の削減に寄与するだろう
    • 欧州レベルの効率的かつ迅速な次世代EUプログラムの実行と、単一市場(Single Market)の強化はイノベーションの促進とグリーンやデジタル移行への投資を増加させる助けになるだろう
    • 3月7日に理事会が声明文で強調したように、銀行同盟と資本市場同盟の完成への断固かつ具体的な努力はこれを達成するために必要な巨額の民間投資を動員する助けになるだろう
 
(インフレ)
  • インフレ率は低下を続け、ユーロスタットの速報値によれば2月の前年比2.6%から3月には2.4%に低下した
    • 食料インフレは2月の3.9%から3月には2.7%に低下し、エネルギーインフレは2月の▲3.7%から3月には▲1.8%となった
    • 財インフレは3月に再び低下し、2月の1.6%から3月に1.1%となった
    • しかしながら、サービスインフレは3月に4.0%と高止まりしている
 
  • ほどんどの基調的インフレ率は2月に低下し、価格上昇圧力が緩やかに解消されているという構図を裏付けるものとなった
    • 域内インフレは引き続き高く、23年10-12月期の賃金と単位利益は予想ほど強くなかったが、単位労働コストは高止まりしており、一部には生産性上昇率の弱さを反映している
    • 最近の多くの指標が賃金上昇率のさらなる軟化を示している
 
  • インフレ率は、今後数か月は現在の水準前後で変動し、その後来年には、労働コストの低下と制限的な金融政策効果、エネルギー危機やコロナ禍の影響が解消されることで、目標に向けて低下すると見られる
    • 長期のインフレ率は総じて安定しており、ほとんどが2%近くになっている
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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