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2025年06月20日
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1.結果の概要:政策金利の据え置きを決定
英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、6月19日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利(バンクレート)を4.25%で維持する(6対3で3名は4.00%への引き下げ主張)
【議事要旨等(趣旨)】
・世界的な不確実性が引き続き高いままである
・関税政策について、暫定的な分析では貿易の世界GDPへの直接的な影響は5月の報告書で想定していたものより小さくなることが示唆された
・インフレ率には引き続き双方向のリスクが存在しており、引き続き金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチが引き続き適切となる
2.金融政策の評価:引き続き不確実性の高い状況下で、従来の利下げペースを維持
イングランド銀行は今回のMPCで市場予想の通り1、政策金利を4.25%で維持した(決定は6対3で、3名が0.25%ポイントの利下げを主張)。
委員会では、インフレや経済について、ディスインフレプロセスが継続しており特に労働市場の緩和が明確になっていること、英国のインフレ率には粘着性が見られるものの規制価格の影響も寄与していること、関税政策について暫定的な分析では貿易の世界GDPへの直接的な影響は5月の報告書で想定していたものより小さくなることが示唆されたことなどが報告・議論された。金融政策については、インフレ率については双方向のリスクが引き続き存在しており、「金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチ」を採用するという姿勢が維持された。
今回の決定は、従来と同様の四半期に1回という段階的かつ慎重なペースでの利下げが維持された形となる。関税政策の不確実性のほか、中東紛争の激化といった地政学的な懸念も高まるなかで、「今回の会合でさらなる緩和を行う強い根拠はない」との判断が多数派を占めた。今後も引き続き、四半期に1回の利下げを基本シナリオとしつつ、国際情勢や実体経済のデータを見極めながら利下げペースが調整されることになるだろう。
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値は据え置きだった
委員会では、インフレや経済について、ディスインフレプロセスが継続しており特に労働市場の緩和が明確になっていること、英国のインフレ率には粘着性が見られるものの規制価格の影響も寄与していること、関税政策について暫定的な分析では貿易の世界GDPへの直接的な影響は5月の報告書で想定していたものより小さくなることが示唆されたことなどが報告・議論された。金融政策については、インフレ率については双方向のリスクが引き続き存在しており、「金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチ」を採用するという姿勢が維持された。
今回の決定は、従来と同様の四半期に1回という段階的かつ慎重なペースでの利下げが維持された形となる。関税政策の不確実性のほか、中東紛争の激化といった地政学的な懸念も高まるなかで、「今回の会合でさらなる緩和を行う強い根拠はない」との判断が多数派を占めた。今後も引き続き、四半期に1回の利下げを基本シナリオとしつつ、国際情勢や実体経済のデータを見極めながら利下げペースが調整されることになるだろう。
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値は据え置きだった
3.金融政策の方針
今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
2 利下げを主張したのはディングラ委員、テイラー委員、ラムスデン委員(副総裁)。前回は政策金利の0.25%の引き下げが決定されるなか、ディングラ委員とテイラー委員が0.50%の利下げを、マン委員とピル委員が据え置きを主張した。
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
- MPCは中期的かつフォワードルッキングなアプローチを採用し、持続的なインフレ目標達成に必要な金融政策姿勢を決定する
- 6月18日に終了した会合で、委員会は多数決により政策金利(バンクレート)を4.25%に維持することを決定した(6対3で決定2)、3名は政策金利を0.25%ポイント引き下げ、4%に引き下げることを希望した
- 以前の外的なショックが解消され、金融政策の制限的な姿勢が2次的効果を抑制し、長期の期待インフレを安定させてきたため、ここ2年はディスインフレとなった
- これにより、MPCは現存もしくは生じつつある持続的なインフレ圧力を取り除くために、引き続き政策金利を制限的な領域に維持する一方で、制限的な政策の度合いを段階的に緩和することを可能にさせた
- 基調的な英国の成長率は引き続き弱く、労働市場は緩和を続けており、時間の経過とともに弛み(slack)拡大の明確な兆しとなっている
- 賃金上昇率の指標は5月も緩和を続けており、委員会は今年の残りの大幅な減速を見込んでいる
- 委員会は引き続き賃金上昇圧力の緩和の程度が消費者インフレにどの程度波及するのかに注視している
- CPI上昇率は前年比で3月の2.6%から5月には3.4%まで上昇し5月の金融政策報告書に沿った動きとなった
- この上昇は大部分が規制価格と過去のエネルギー価格の上昇による
- CPIは今年の残りにかけて概ね現在の伸び率で推移し続け、その後来年に目標へ低下すると見られる
- 加えて、世界的な不確実性が引き続き高いままである
- エネルギー価格は中東紛争の激化により上昇した
- 委員会は引き続き経済や地政学的環境の予見不可能性の高まりに注意を払い、引き続き経済のリスク評価を更新する
- インフレ率には引き続き双方向のリスクが存在する
- 見通しとディスインフレの継続を勘案すれば、金融政策の制限度合いのさらなる緩和は段階的かつ慎重なアプローチが引き続き適切となる
- 金融政策に前もって決定された経路はない
- 今回の会合で、委員会は政策金利を4.25%に据え置くことを決定した
- 委員会は引き続きインフレの持続性のリスク、および経済の需要と供給の総合的なバランスに関して証拠が示唆することについてよく注視する
- 金融政策は、中期的に、インフレ率の持続的な2%目標への回帰に対するリスクがさらに解消するまで、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
- 委員会は各会合で金融政策の制限度合いを適切に決定する
2 利下げを主張したのはディングラ委員、テイラー委員、ラムスデン委員(副総裁)。前回は政策金利の0.25%の引き下げが決定されるなか、ディングラ委員とテイラー委員が0.50%の利下げを、マン委員とピル委員が据え置きを主張した。
4.議事要旨の概要
議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
(国際経済)
(当面の政策決定)
(国際経済)
- 委員会は国際的なインフレ動向について議論した
- 賃金上昇率と消費者サービスインフレは、英国において依然としてユーロ圏や米国よりも高い水準にある
- 一部分は英国のインフレの持続性がより大きいことを反映している一方で、サービスに関しては、最近の英国のインフレ率は規制価格の寄与の大きさ違いで差の一部が説明できる
- このような比較には循環的・構造的要因の違いを考慮する必要がある
- 月次GDPはそれまでのかなり強い増加の後に4月に0.3%減少した
- 最新データは土地印紙税(Stamp Duty Land Tax)と自動車税(Vehicle Excise Duty)引き上げ前の活動の前倒しが影響していると見られる
- また、新しい関税の適用前の一時的な貿易増加の影響が剥落し、米国向け輸出は4月に過去最大の落ち込みを記録した
- 総じて、生産の月次データからは25年4-6月期の成長率が0.25%程度に低下し、5月の報告書の見通しよりも若干高くなると見られる
(当面の政策決定)
- 関税に関する最近の一連の発表をもとにすると、中銀スタッフの暫定的な分析では、世界のGDPへの貿易の直接的な影響は、委員会が5月の報告書で想定していたものより小さくなることが示唆された
- しかしながら、貿易政策の不確実性は英国経済に影響を及ぼし続けるだろう
- 今回のMPC会合前に地政学的な急展開があった
- エネルギー価格は中東紛争の激化により上昇した
- 委員会は引き続きこれらの出来事や英国経済への政治的な影響について引き続き警戒する
- 過去1年以上、金融政策は緩和されてきたものの、引き続き永続的なインフレ圧力を解消するために委員会は制限的な姿勢を維持している
- 制限度合いの程度については、引き続きメンバー間で幅広い意見がある
- 6名のメンバーが政策金利を4.25%に維持することを希望した
- ディスインフレプロセスは継続しているが、今回の会合でさらなる緩和を行う強い根拠はなかった
- インフレ率は25年の下半期には3.5%程度にとどまり、その後来年に2%目標へ向けて低下すると見られた
- 国内物価情勢よりも労働市場において、数量と賃金の両面でディスインフレ圧力の兆しが強まっている
- 最近の世界情勢はこの会合の決定に重要な影響を及ぼすものではない
- 中期的なCPIインフレ率の経路を取り巻くリスクは依然として両面ある
- ディスインフレのペースを評価することが引き続きこれらのメンバーにとって制限的な政策姿勢をどの程度素早く解消するかという見解の鍵となる
- この評価には多くの要素が含まれる
- 例えば、貯蓄の高さに伴う需要の弱さの兆しは、労働市場における弛みの素早い拡大をもたらす可能性がある
- 対照的に生産性の弱さが継続するといった供給側の制約や財や労働市場の構造的な変化はインフレ圧力に寄与するかもしれない
- インフレ圧力は、高い食料価格がインフレ期待を上昇させ、賃金と物価の設定行動に影響を及ぼすことから生じる可能性がある
- 3人のメンバーがこの会合での政策金利の引き下げを希望した
- 様々な労働市場のデータは労働環境がいっそう緩和していることを示している
- 民間部門の定期賃金上昇率は予想を下回り、最新の賃金妥結データは中銀エージェントによる25年末の年間賃金調査の数字付近で、持続可能な伸び率に近づいている
- 消費者支出とその基調的な伸び率は世界的な成長率に対するリスクが継続している環境下で引き続き停滞している
- 世界的な状況には注視が必要だが、ディスインフレ過程は継続しており、ヘッドラインインフレ率は、単発的な税や規制価格が大きな押し上げ要因となっている
- 中期的に見て、制限的すぎる金融政策姿勢が続くと、持続的な2%目標から乖離し、不当に大きな生産ギャップが出現するリスクがある
- リスクバランスを考慮すれば、より制限度合いの低い政策金利経路が正当化される
(2025年06月20日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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