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2025年06月12日

欧州経済見通し-回復基調だが、関税を巡る不確実性は大きい

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. ユーロ圏の1-3月期の実質成長率は前期比0.6%(年率換算:2.5%)となり、10-12月期(前期比0.3%、年率1.2%)から大幅に加速した。関税引き上げ前の駆け込み生産・輸出が成長率を押し上げ、特にアイルランドやドイツで輸出や製造業生産が大きく伸びた。駆け込み生産・輸出を除けば、緩やかな回復が続いたと見られる。
     
  2. 4月のHICP(速報値)は総合指数が前年比1.9%、コア指数が2.3%といずれも2%の物価目標付近で推移している。これまで基調的なインフレ率を押し上げていたサービスインフレや賃金上昇率も大幅に低下し、足もとではECBのインフレ目標はほぼ達成されたと評価できる。
     
  3. ECBは24年央から利下げを実施、ディスインフレの進展を受けて政策金利(預金ファシリティ金利)はピークの4.0%から2.0%まで下げられた。ラガルド総裁は金融政策のサイクルは概ね終了し、現在の金利は今後に到来する不確実な状況を乗り切るための良い位置だと評価している。
     
  4. 今後も駆け込み生産・輸出の反動減を除けば、消費を中心とした緩やかな回復が続くと見込まれれるが、先行きの不確実性は大きい。相互関税の上乗せ税率が再開されず、EUも報復関税を実施しないという前提のもとで、成長率は25年0.8%、26年1.0%、インフレ率は25年2.1%、26年2.0%、政策金利はECBの政策余地を残すため現行水準(2%)で維持されると予想している(図表1・2)。
     
  5. 成長率のリスクは下方に傾き、インフレリスクは上下双方に不確実性が大きい。トランプ関税を巡る不確実性は大きく、関税交渉が行き詰まり、米国・EU間の関税率がともに引き上げられる可能性も十分に考えられる。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  (関税政策を巡る状況とユーロ圏への影響)
  (実体経済:1-3月期は駆け込み生産・輸出で急進)
  (景況感は冴えない)
  (失業率は低位安定だが、人手不足感の緩和が進む)
  (物価・賃金:インフレ目標をほぼ達成)
  (財政政策:防衛・インフラ支出拡大の動きが進展)
  (金融政策・金利:政策金利も中立金利水準に)
2.経済・金融環境の見通し
  (見通し:消費主導の緩やかな成長継続を想定も、不確実性の大きい状況は不変)
  (リスク:引き続き米国の関税政策が大きなリスク)

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また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月12日「Weekly エコノミスト・レター」)

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