2024年03月22日

英国金融政策(3月MPC公表)-5会合連続で政策金利据え置きを決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:5会合連続で政策金利据え置きを決定

3月20日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、3月21日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利を5.25%で据え置き(8対1で、1名は0.25%の引き下げを支持)

【議事要旨等(趣旨)】
政策金利の据え置きを主張した委員は金融政策姿勢の変更には、インフレの持続性に関するさらなる証拠の蓄積が必要であるとしたが、どの程度の証拠が必要かについては委員間で異なる
制限的な金融政策姿勢は実体経済の重しとなり、労働市場を緩和させ、インフレ圧力を押し下げている
ここ数か月のサービスインフレの鈍化は、人件費ではなく非人件費の弱まりによる影響が大部分だと見られる

2.金融政策の評価:タカ派も据え置きを主張

イングランド銀行は今回のMPCで政策金利の据え置きを決定した。金利据え置きは市場の予想通りの結果で、5会合連続となる。なお、反対派は利下げを主張した1名であり、前回の会合で利上げを主張していた2名も今回は据え置きを主張し、さらにハト派色が強まった。ただし、記事要旨からは、据え置きを主張した委員の間でも、インフレの持続性に関する見方には幅があることが明らかになっている。

インフレに対する評価は、やや実際のインフレ率は下振れているが、概ね2月の報告書に沿った形で進んでいるとされた。ただし、賃金動向やサービス物価の動向については、依然として不確実性が強いことも示唆されている。賃金上昇率は足もとで勢いが鈍化しているが、ヒアリング等に基づく賃金交渉結果は賃金上昇圧力が依然として高く、ここ数か月のサービスインフレの鈍化は非人件費の要因が大きいと評価されている。企業の価格転嫁圧力は弱まっているが、金融政策姿勢の変更には、インフレの持続性に関するさらなる証拠を蓄積する必要があると判断された。

総じて言えば、金融政策姿勢は引き続き利下げが視野に入った姿勢となっているものの、実際の利下げまでにはデータの蓄積が必要で、やや距離があることが再確認される内容だったと言える。

3.金融政策の方針

今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
  • MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
    • 委員会は政策金利(バンクレート)を据え置き、5.25%とする(8対1で決定1)、1名は0.25%ポイント引き下げ5.00%とすることを主張した
 
  • 前回のMPC会合以降、先進国における市場観測の政策金利経路は上昇した
    • 米国とユーロ圏ではインフレ圧力が予想よりもやや弱いが鎮静化し続けた
    • 特に、紅海の船舶輸送の混乱を含む中東での出来事に起因する重大なリスクが残っている
 
  • 昨年後半の減少の後、英国のGDPと市場部門の生産は今年前半に再び増加が始まると見込まれる
    • 企業へのサーベイ調査は経済活動の改善見通しと引き続き整合的である
 
  • 24年の春季財政報告(Spring Budget)での財政措置はGDP水準を数年にわたって0.25%ほど増加させる見込みである
    • この措置はまた、いくらか潜在供給を高め、その生産ギャップへの含意として経済へのインフレ圧力は縮小すると見られる
 
  • ONSの労働力統計を取り巻く不確実性を反映して、委員会は引き続き労働市場の活動に関する幅広い指標を考慮している
    • 労働市場は緩和が続いているが、過去の標準よりも相対的に引き締まった状況が続いている
    • 名目賃金上昇率は、依然として高水準だが、多くの指標で緩和している
    • 中銀エージェントは、引き続き今年の賃金交渉結果がやや低下すると見込んでおり、コストを価格に転嫁することがより困難になっていると報告している
 
  • CPIインフレ率は12月と1月の4.0%から2月に3.4%まで低下し、2月MPRの予想をやや下回った。
    • サービスインフレは低下しているが、引き続き高く、2月は6.1%となった
    • ほとんどの短期インフレ期待の指標は緩和を続けている
 
  • CPIインフレ率は、財政報告で示された燃料税の凍結によって、予想されていたよりもわずかに低く、24年4-6月期に2%をやや下回ると見られる。
    • 2月報告書では、CPIインフレ率は前年比インフレ率のエネルギー価格の直接的な寄与によって7-9月期、10-12月期に再び上昇すると見込まれていた。
    • サービスインフレは段階的に低下すると見込まれる
 
  • MPCの責務が、英国の金融政策枠組みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成であることは明らかである
    • この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
    • 金融政策により、CPIインフレ率が中期的に2%目標に安定して戻るようにする
 
  • 今回の会合で、委員会は政策金利を5.25%に維持することを決めた
    • ヘッドラインのCPIインフレ率は、一部はエネルギーや財価格のベース効果や外部効果の影響により引き続き、相対的に急低下している
    • 制限的な金融政策姿勢は実体経済の重しとなり、労働市場を緩和させ、インフレ圧力を押し下げている
    • それにも関わらずインフレの持続性に関する主要な指標は高止まりしたままである
 
  • 金融政策は、MPCの責務であるインフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
    • 委員会は昨年秋以降、インフレ率が2%目標を超えて定着するリスクが消失するまで、十分な期間にわたり(for an extended period of time)、制限的にされる必要があると判断してきた
 
  • MPCは引き続き、2%目標に安定的に戻すために金融政策姿勢を経済状況に応じて調整する用意がある
    • そのため、引き続き、基調的な労働市場のひっ迫感を示す一連の指標、賃金上昇率、サービス物価インフレの動向といった、経済全体におけるインフレ圧力の持続性と回復力について、引き続き注視する
    • 金融政策は、委員会の責務にもとづき、インフレ率を中期的な2%目標に安定的に戻すため、十分な期間にわたり十分に制限的にされる必要がある
    • この点に基づき、委員会は政策金利をどの程度の期間、現在の水準で維持するかの検討を続ける
 
 
1 今回反対票を投じたのは、ディングラ委員が0.25%の利下げを主張した。前回は同委員が0.25%グリーン委員、ハスケル委員が0.25%の利上げを主張した。の3名は0.25%の利上げを主張し、利下げの主張はなかった。

4.議事要旨の概要

議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(世界経済)
  • 委員会は世界的な長期実質均衡金利に影響を与えるいくつかの要因について議論した
    • 人口動態のような以前から影響を及ぼしている要因は、引き続き長期実質金利を引き下げると見られた
    • 例えば生産性の高さへの期待から生じる、気候変動対策技術やAIへの投資増加は、長期の実質均衡金利を押し上げるかもしれない
    • 持続的な財政支出の増加も影響を及ぼす可能性がある
    • 委員会はこれらの要素について継続的に議論を行う
 
(供給、費用、価格)
  • 委員会は賃金上昇率の持続性度合いについて議論した
    • 賃金上昇率の短期的な指標、3か月平均の3か月前比年率換算で示される賃金の基調的な指標は5%前後と緩和しており、インフレの持続性が緩和していることを示唆している
    • 一方で、週当たり平均給与をCPIウエイトで調整した指標は、ヘッドラインデータよりも緩和ペースが鈍化していることを示唆している
    • いくつかの前向き(forward-looking)の指標はまた、緩和ペースの鈍化を示している
    • 意思決定者パネル(DMP)調査は、将来の賃金上昇率が5.2%で横ばいとしている
    • 最新の中銀エージェントによる賃金交渉結果の平均は、2月報告書で提示された調査とほぼ同水準となった
    • しかしながら、中銀エージェントの調査先では、一般に、高い人件費の価格転嫁は23年と比較して低下していると見られた
 
  • サービスインフレはCPIインフレ率より高い状況が続き、1月から0.4%ポイント低下して、2月には6.1%となり、2月の報告書の見通しと概ね一致した
    • インフレの持続性の傾向を示す指標として一般には信頼されない、非民間家賃、宿泊、航空運賃といった要素を除いた、高頻度のサービス物価指標は3か月平均の3か月前比年率で4.5%まで上昇した
    • ここ数か月のサービスインフレの鈍化は、人件費ではなく非人件費の弱まりによる影響が大部分だと見られる
 
(政策金利決定)
  • 8人の委員が、今回の会合で政策金利を5.25%に維持することが妥当であると判断した
 
  • これらの委員の間には、持続的なインフレ圧力がどの程度軽減したのかというリスクについての見解に開きがある
    • 一方では、高頻度の指標を含む名目の動向からは、制限的な金融政策姿勢と2次的効果(second-round effects)の解消が、短期的なインフレ期待の低下にあいまって、持続的なインフレ圧力やインフレのあまり変動しない要素の低下に大きな影響を及ぼしている
    • もう一方では、賃金上昇率は引き続き高すぎ、中銀エージェントの知見では、ゆっくりとしか緩和しないと見られる
      • サービス物価が目標と整合的なペースに十分に迅速に低下することについては、現時点で限定的な兆ししか見られておらず、2次的効果の解消の証拠はまだ暫定的である
      • 賃金とCPIインフレ率見通しの双方に上方リスクがある
 
  • これらの委員全員が、金融政策姿勢の変更には、インフレの持続性に関するさらなる証拠の蓄積が必要であるとしたが、どの程度の証拠が必要かについては委員間で異なる
    • 彼らは会合毎に制限の度合いを判断し続けるつもりである
 
  • あるメンバーは0.25%ポイントの利下げを望んだ
    • この委員にとって、政策金利の引き下げ前にさらなる安心感を得ようとすれば、生活水準と供給能力を圧迫することになる
    • 金融政策姿勢を円滑に伝達するためには、伝達のラグを考慮すれば、政策金利は、現時点で政策金利の制限度を弱める必要がある
    • 上方リスクが顕在化した場合に、政策金利を維持する可能性は排除しないものの、CPIインフレ率は、すでにしばらくの間、堅調な下降基調にある
    • 消費はコロナ禍前の水準まで戻っておらず、それが経済成長の原動力となっている他の先進経済とは対照的である
    • 需要見通しは引き続き弱く、求人は急激に低下しており、名目賃金上昇率の前向きの(forward-looking)指標は緩和している
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年03月22日「経済・金融フラッシュ」)

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