2024年01月31日

IMF世界経済見通し-成長加速、インフレ減速で軟着陸を見込む

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.内容の概要:24年見通しを上方修正

1月30日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)の改訂版を公表し、内容は以下の通りとなった。
 

【世界の実質GDP伸び率(図表1)】
2023年は前年比3.1%となる見込みで、23年10月時点の見通し(同3.0%)から上方修正
2024年は前年比3.1%となる見通しで、23年10月時点の見通し(同2.9%)から上方修正
2025年は前年比3.2%となる見通しで、23年10月時点の見通し(同3.2%)と同じ

(図表1)世界の実質GDP伸び率/(図表2)先進国と新興国・途上国の実質GDP伸び率

2.内容の詳細:インフレ率は先進国を中心に下方修正、リスク評価は上下均衡に修正

IMFは、今回の改訂見通しを「インフレ率の鈍化と安定的な成長 ソフトランディングへの道開ける(Moderating Inflation and Steady Growth Open Path to Soft Landing)」と題して作成した1
 
世界経済成長率(ベースライン)は、主に米国と中国を含む主要新興国の上方修正を受け、24年が上方修正された(24年2.9(改訂前)→3.2%(改訂後)、25年3.2→3.2%)。上方修正の要因としては、労働市場のひっ迫を背景にした可処分所得の伸び、コロナ禍期間中に積みあがった貯蓄の取り崩し、供給制約の緩和(供給力の拡大)が挙げられている。

後述のインフレ率の予想以上の低下、リスクバランスの均衡と合わせて、ハードランディングの可能性は低下、見通しの副題である「ソフトランディング」に近づいていると評価された。ただし、24年および25年の世界成長率は、依然としていずれも過去平均(00-19年)の成長率(3.8%)を大きく下回る
 
成長率見通しを地域別に見ると(図表2、図表3)、24年の上方修正には先進国と新興国・途上国の双方が寄与していることが分かる(先進国:24年1.4→1.5%、25年1.8→1.8%、新興国・途上国:4.0→4.1%、25年4.1→4.2%)。

先進国では上述の通り、米国の上方修正幅が大きい(24年:1.5→2.1%、25年1.8→1.7%)。IMFは主に23年の実績成長率が上振れたことによるゲタ効果としている。一方、ユーロ圏は総じて下方修正された(24年1.3→0.9%、25年1.8→1.7%)。ユーロ圏の低迷について、IMFは消費者景況感の低迷、エネルギー危機の余波、利上げによる金利感応度の高い分野(製造業、投資)での成長鈍化のために23年の実績成長率が下振れたことを指摘する。主要国4か国では、ドイツ、フランス、スペインが下方修正され、特にドイツの下方修正幅が大きい。

英国は24年の見通しに変更はなかったが、25年が下方修正されている(24年0.6→0.6%、25年2.0→1.6%)。IMFは過去の統計改定の結果、コロナ禍以降のGDP水準が上方修正され、今後の回復余地が小さくなったと指摘している。

なお日本では、24年が小幅下方修正、25年が上方修正となった(24年1.0→0.9%、25年0.6→0.8%)。IMFは今後、足もとの景気押し上げ要因(円安、ペントアップ需要)が剥落することが、成長率減速の要因だとする。

新興国・途上国では、大国である中国において、政府による財政出動の後押しなどを受けて、24年の成長率が上方修正された(24年4.8→5.2%、25年4.9→4.8%)。同じく大国であるインドについても国内需要の底堅さを反映して上方修正されている(24年度6.3→6.5%、25年度6.3→6.5%)。加えて、ウクライナ侵攻を実施したロシアでの成長率見通しも上方修正されている(24年1.1→2.6%、25年1.0→1.1%)。IMFはロシアの上方修正の背景として、軍事関連支出の増加と、労働市場のひっ迫を背景にした賃金上昇、消費増を指摘している。
(図表3)主要国・地域の成長率と実質GDP水準
国別の改訂状況を見ると、改訂見通しで公表している30か国中、24年(度)は13か国が上方修正、同じく13か国が下方修正、残りの4か国は横ばいだった2。また、25年(度)は上方修正が9か国、11か国が下方修正、10か国が横ばいだった。
(図表4)先進国と新興国・途上国のインフレ率 インフレ率については、供給力の改善と中央銀行によるインフレ期待の固定によって、22年のピークから予想以上の速さで減速しており、雇用・景気への悪影響が想定されたほど深刻ではないと評価した。

見通しについては、24年が変更なし、25年が下方修正された(24年5.8→5.8%、25年4.6→4.2%)。先進国は24年・25年ともに下方修正され(24年3.0→2.6%、25年2.2→2.0%)、新興国・途上国は24年が上方修正されている(24年7.8→8.1%、25年6.2→6.0%)。IMFは新興国では、特にアルゼンチンで短期的なインフレ率が上昇する見込みであることを指摘している(相対価格の調整、価格統制制の廃止、通貨価値下落の物価への転嫁などが背景)。
 
IMFは今回の見通しに対するリスクについては、おおむね均衡していると評価しており、23年10月までの下方に傾いているとのリスク評価から改善させた

具体的なリスク要因としては上振れに関して「ディスインフレの加速」(燃料価格の下落、求人比率の低下、企業利益の縮小など)、「予想より遅い財政支援の縮小」「中国経済回復の加速」(不動産関連の改革と改善、財政支援拡大など)、「人工知能と供給側の改革」(中期的な労働者の生産性と所得の上昇)を挙げた。

一方、下振れリスクとして「地政学的ショック、気象ショックによる一次産品価格急騰」(イスラエルの紛争、ウクライナでの戦争、中東情勢、洪水・干ばつなど)、「コアインフレの高止まりによる金融引き締め強化」(労働市場のひっ迫や供給網混乱の再燃などが背景)、「中国の成長鈍化」(不動産低迷の深刻化、地方財政のひっ迫)、「財政再建に関する混乱」(過度な増税・歳出削減)を挙げている。
 
1 同日に「世界経済はソフトランディングに近づくが、リスクは残存(Global Economy Approaches Soft Landing, but Risks Remain)」との題名のブログも公表している。
2 修正幅が四捨五入して0.0%ポイントの国を横ばいとした。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年01月31日「経済・金融フラッシュ」)

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