2023年12月15日

欧州経済見通し-インフレ低下も、早期の成長加速は見込めず

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済は、コロナ禍で大きく落ち込んだ後、回復基調を辿っていたが、ロシア・ウクライナ戦争勃発を機にインフレが加速、金融引き締めを積極化した昨年から停滞感が強まった。
     
  2. ユーロ圏の7-9月期の実質成長率は前期比▲0.1%(年率換算:▲0.5%)とマイナス成長に転じた。昨年夏(22年7-9月期)との比較である前年比でも0.0%とほとんど成長していない。内需(消費や投資)と輸出のいずれも低迷している。インフレ率は低下したものの、景況感は弱含んだ状況が続いている。
     
  3. 原材料価格下落や需要後退を受けて、総合インフレ率は11月に2%台半ばまで大幅に低下した。コアインフレ率も3%台半ばに低下し、基調的インフレ率も総じてピークアウトした。賃金上昇圧力は強く、単位労働コストは加速しているが、企業利益単価の伸びは減速に向かっている。ただし、今後のインフレ動向には、依然として不確実性がある。
     
  4. ECBはこれまで4.50%ポイントの利上げを実施してきた。しかし、10月以降はインフレ圧力が低下するなか、「データ次第」の原則のもと、政策金利を据え置いている。
     
  5. 今後については、景況感が弱含む中、早期の成長加速が見込みにくい。ただし、インフレ率の低下が緩やかに実質ベースでの回復を促すと見られる。成長率は23年0.4%、24年0.7%、25年1.5%、インフレ率は23年5.4%、24年2.4%、25年2.1%を予想している(図表1・2)。インフレ圧力は低下したが、ECBは賃金上昇圧力の強さを見極めるため、当面は政策金利を据え置き、24年下半期に利下げに転じると予想する。
     
  6. 予想に対するリスクは、成長率見通しに対しては下方(金融引き締めによる想定以上の需要減速)に傾いており、インフレ見通しに対しては上方(賃上げ圧力の継続)と下方(需要減速によるインフレ鎮静化)の双方に不確実性があると考える。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・実体経済:7-9月期は再びマイナス成長に
  ・ガス需要:エネルギー危機に至るリスクは低いが価格の再上昇は経済の重しに
  ・物価・賃金:インフレ率は大幅に低下
  ・財政政策:制限的な財政スタンスが継続
  ・金融政策・金利:「データ次第」で運営される中、市場では利下げの織り込みも
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:インフレ率低下で実質ベースでの回復が継続
  ・リスク:成長率は下方、インフレは上下双方にリスク
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