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- ECBの新枠組みだけではユーロ圏の分断化は防げない
2022年08月08日
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■要旨
- ECBは7月21日の政策理事会で0.50%ポイントの利上げによる「正常化」(図表1)と「分断化」防止の新たな枠組み「伝達保護措置(TPI)」の導入を決めた。
- 圏内の金利差が拡大する「分断化」はユーロ圏内での金融政策の円滑な伝達を妨げる。TPIは、一定の「基準」の下、各国のファンダメンタルズからは正当化できない金利差拡大抑制のために国債等を買い入れる枠組みだ。
- ECBの道具箱には、(1)OMT、(2)PEPPの償還資金の再投資、(3)TPIという「分断化」対応の枠組みが揃った。
- うち、発動実績のないOMTは、これからも「最終手段」であり続けるだろう。
- PEPPの再投資では、すでに高格付け国の償還資金を原資とする低格付け国支援が行われている。結果として、利回り格差の拡大は免れているが、PEPP再投資やTPIの市場牽制効果より、景気後退懸念による長期金利低下が影響しているものと思われる。
- TPIの潜在的対象国のイタリアは現時点では「基準」に適合するが、逸脱のおそれはある。ストレス期に有効な手段となり得るのかは見極めが必要だ。
- ユーロ圏には、ESM、復興基金という分断化抑制の枠組みも備わっており、債務危機の抑止力は向上している。イタリア経済の課題解決は容易ではないが、EUの政策スタンスの変化などにより、政治がEUとの対決色を強める方向には傾き難くなっている。
- エネルギー危機への単一金融政策の効果は限られ、統合深化は解決策となるが、ユーロ危機やコロナ禍への対応とは異なるアプローチが必要になる。
- この先のECBとユーロの旅は長く、緊張を帯びる場面はあろうが、価値を共有する同盟として決定的な対立は回避すると見ている。
(2022年08月08日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
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