2021年09月15日

始まったEUの財政ルールを巡る攻防-過剰債務国と倹約国の対立再び

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  1. コロナ禍への対応のため、EUが一時適用を停止した財政ルールの23年度の再起動を念頭に置いた議論を進める段階に入った。タイミング以上に議論を要するのは、再起動に合わせてルールをどのように修正するのかという点だ。
     
  2. コロナ前のルールは、ユーロ危機を教訓として修正したルールが適用されていたが、結果として、圏内の格差、景気循環を増幅し、公共投資の委縮(下図参照)を招いた。主要国では、財政事情が最も厳しいイタリアの公共投資は特に大きく削減された。
     
  3. コロナ禍で政府債務残高の水準の差は一段と大きくなったが、EUやECBの政策が債務危機へと発展するリスクを抑える役割を果たしている。
     
  4. 財政ルールを再起動する際のルールの取り扱いを巡っては過剰債務国と倹約国が異なる立場をとる。過剰債務国は、グリーン投資の除外などで圏内格差、景気循環増幅性、投資抑制効果を見直す修正を支持する。倹約国は、ルールの簡素化や手続きの透明化、ルール適用の一貫性を高める改革は支持するが、ルールの緩和には反対する。
     
  5. 財務相会合では「確実な復興」、「財政の持続可能性」、「将来のための投資」を共通の目標とすることを確認したが、いかに実現するかが問題だ。
     
  6. 今後の議論の展開には、独仏の選挙が影響を及ぼす。倹約国寄りだったドイツの立ち位置は、連邦議会選挙の結果次第で変わる可能性があり、行方が注目される。
世界金融危機~ユーロ危機は投資停滞という傷痕を残したユーロ圏固定資本形成(単位:億ユーロ)
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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