2021年04月23日

欧州復興基金の実相(2)-資金調達と配分遅延のリスク

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
 
  1. EUの復興基金「次世代EU」は、スケジュール通りに進めば、7月にも最初の債券発行と加盟国への第1回の補助金等の配分が行われる(下図参照)。しかし、資金調達と配分の両面で手続きに遅れが生じており、タイミングは後ずれするとの観測が浮上している。
     
  2. 資金調達面では、欧州委員会が、21年半ばから26年末まで8069億ユーロ(105兆円相当)を、銀行などからなるプライマリーディーラーネットワークを構築し、様々な償還期限の債券を、募集引受方式と競争入札方式を組み合わせて発行する戦略を公表した。
     
  3. しかし、起債開始に必要な全加盟国の批准手続きが27カ国中10カ国で終わっていないため、起債の具体的スケジュールは未定だ。ドイツで連邦憲法裁判所が批准プロセスの停止を解除したことは朗報だが、全加盟国の手続き完了になお数週間かかる見通しだ。
     
  4. 補助金の配分のための「復興・強靭化計画」も、複数の国が4月末の期限に間に合わず、数週間の遅れが見込まれている。計画提出後、欧州委の審査、閣僚理事会の承認プロセスが続く。審査の時間短縮などを行わなければ、7月の開始が難しい情勢にある。
     
  5. 復興基金のためのEU債の発行、加盟国への支払いは、多少の遅れはあったとしても、始まるだろう。その後、加盟国は計画に盛り込んだ投資・改革の実行、欧州委員会は資金調達戦略の実践と、各国の計画の進捗状況の監視の段階に入る。国境炭素税やデジタル税など償還財源に関わる議論も始まる。新たな制度を軌道に乗せるプロセスは、まだ入り口に差し掛かろうとしているに過ぎない。
復興基金稼働までの手続きの流れ
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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